5話 レベル15 チートで稼いで家を買う
「俺って後どれくらいでレベル15になる?」
俺はステータスを開くこともなく聞く。面倒だから。
「それ今聞く?」
俺たちは今日も森でオオカミ退治中。そろそろこの辺り一帯のオオカミを倒し終わる。そんな時に超大規模な群れに遭遇してしまった。軽く100匹は超えている。
奴らも後がないと分かっているらしい。俺たちに対する明確な殺意を感じる。
「えーと、えーと、あとオオカミ20匹くらい!ユートが街に戻る頃にはレベル15。それまで生きてたらだけどね!」
「そうか、ありがと」
オオカミ単体は大した強さじゃあない。しかし今日は妙に連携がとれている。しかも数が多いから俺たちのスタミナがもつか心配だ。まだ2人とも無傷だがこの先どうなるか分からんぞ。
「ん? なにかくる!」
森の奥から影が出てくる。巨大なオオカミだ。縦横ともに通常の5倍ほどか。こいつがボスに違いない。
「ボスが群れを組織し、統率して俺たちを襲ったのか。オオカミらしからぬ行動だな」
「あのボスを先に倒せば連携も崩れるんじゃない?」
「そんなこと言ってる場合じゃないみたいだ。ボス自ら来るぞ!」
巨大な爪が降り下ろされる。シェフィがハンマーの柄で受け、弾き、反撃する。ボスはひらりと身をかわす。
「こいつ強いよ!」
「シェフィはそいつ1匹にだけ集中してろ。後は俺が相手する」
「頼むよ!」
彼女がボスにかかりきりになった途端、ボスが一声大きく吠える。雑魚どもの攻撃がシェフィに集中し始める。お見通しというわけか、俺は彼女の背中を守るように立ち、剣を振るう。
まず1匹、躍りかかってきたのを縦に斬り倒す。2匹、足元に食い付いてきたのを踏みつける、もう一度踏みつけ、遠くに蹴る。両サイドから飛び付いてくる、剣を構える、筋肉がひくつく、横の一閃! 3匹、4匹! シェフィを見る余裕もない。5匹、こちらから踏み込み、切る。6匹、返す柄で殴る。7匹、タックル。8匹、斬る。9匹、斬る。斬る。斬る、切る、切る、切る、キル、キルキルキルきる。きる。 きる。
テローン。
ふいに剣が軽くなる。よし、俺はもう戦わねえ!
「おいシェフィ! 後はお前が戦え!」
「はあ?! なにメチャクチャなことーー」
ポン。振り返って、シェフィの頭に手を乗せる。ありったけの強化魔法を彼女に流し込む。
「ああ、うん。多分いけるねー!」
後はすぐだった。シェフィのハンマーの一振りでボスの頭が凹み、ハンマーを地面に叩きつけると雑魚どもがまとめて吹き飛んだ。紅い目が暗闇に残光を引いて駆ける。
「強っ! 私強っ!」
「完全に俺のおかげでな」
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「100体規模の群れ!? ボスまで!? 2人で全滅させてきた!?」
俺たちはオオカミをボコボコにしてギルドに帰ってきた。
「はい」
「うん」
「完全にAランク依頼ですね...... しかも元はEランクですから...... 変動込みで............ 金貨306枚銀貨66枚ですね」
「そんなに貰えるの!」
「ええ、元々は大人数パーティーで向かう依頼ですし、今回でオオカミは全滅、更にランク変動で倍になるので」
「やったー!」
「お金をもらうよりも先に他の依頼を見せて欲しいんですが」
「は?」
「は?」
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「えー、それは?」
「グンジョウオオヘビの鱗です」
「へえ。じゃあそれは?」
「ジゴクナナカマドの触覚です」
「大きいですね」
「これはスカラモスの羽」
「ほお」
「メガトン魔導グモの足。インク吐きイカのブキ。キングオークの冠。」
「私が倒してきたんだよ! えっへん」
「もういいですもういいです」
「全部倒してきました。報酬は?」
「上から全部足すので待ってください............ はい、大金貨6枚、金貨200枚です」
「大金貨ってなに?今まで生きてきて初めて聞いたー」
「金貨1000枚分ですね」
「じゃあ金貨6200枚ぶん? すごい! ! なんでも買えるじゃん!」
「そうだ、なんでも買える。だから家を買おう」
「へ?」
「2人で暮らせる家を買うんだ」
「もっと大きな家じゃないとイヤだ」
「どれだけ大きくたっていいさ」
「本当にいいの?」
「本当にいいよ」
「んん~~大好き!」
「やめろ! 飛び付いてくるな!」
「あのー、イチャイチャするのは外でやってもらえます?」
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俺とシェフィはギルドを追い出され、道を歩きながら相談する。
「大きな家つってもどうするんだ? 建ててもらうのか?」
前を歩いている彼女が振り返る。銀髪が振り撒かれ、日光をキラキラと反射する。
「ふふふん、実はね、前から狙いをつけてた場所があるの」
「で、今はそこに案内してくれてるってわけか」
「そうそう」
シェフィは今にも駆け出しそうな雰囲気だ。軽い足取りに口笛まで吹いている。
しばらく歩いた。
「じゃーん! ここが私たちのお家候補です!」
じゃーん!という効果音がよく似合うポーズだな。それにしてもこれ、家っていうか館、いや豪邸だろ。
建物の5倍はあろうかという広い庭。一角には整った林があり、深い池が澄んだ水をたたえ、大きな花壇には若芽が見える。水は出ていないものの立派な噴水まで正面に鎮座している。全て状態は良好だ。
肝心の豪邸は2階建て横幅100メートルほど、 縦は分からないが化け物みたいにデカイ。
「綺麗だけどもう誰も住んでないんだって。お隣に住んでる人が所有者らしいからお話しにいこうよ」
豪邸のとなりに犬小屋がある。いや、普通の大きさの家なんだが、豪邸と比べてしまうとどうも犬小屋としか思えない。俺たちはその犬小屋の中に入っていった。
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「ならば、金貨6000枚でお譲りしましょう」
そんなに金持ちとも思えない男が金額を提示した。
「えっ、安い。いや、高いのか? まあ足りるからいいか。シェフィこれでいいか?」
「うんうんうん! なんでもいいよ!」
興奮し過ぎだろ、大切な買い物なんだからお前もしっかりしてくれよ。
「じつは管理といっても名ばかりで、細かい状況は把握していないのです。家の状態について後でクレームをつけない、ということを約束していただきたいのですが」
「いいよいいよ。私がぜーんぶ掃除するから平気平気!」
「お前がいいなら俺もいいよ。ほい大金貨6枚な」
「届けは私が出しておきます。それでは2人で末永くお幸せに」
なんかこいつ勘違いしてないか? シェフィが気付いたら面倒だから言わないけども。
2人で玄関の前に立つ。何か喋りたいが、なぜか口が重い。
「ここが私とリリのお家なんだね」
「うん」
「2人で暮らすんだよね」
「うん」
「一緒にいてくれる?」
「うん」
「ずっと一緒にいてくれる?」
「......わかんね」
「うーん、今の所は合格かな」
「なんだよそれ」
胸が軽くなる。シェフィは嬉しそうだ。今も、これからも、きっと何かが変わるだろう。
「ほら、早く入ってみよ!」
「はいはい」
シェフィが扉を開けて待っている。俺は彼女の手を握り、内側から扉を閉じた。