4話 レベル14 お偉いさんを恐喝するよ☆
俺は巨乳女戦士を屈服させて優勝し騎士になることに成功した。なれたんだから騎士育成学校なんて辞めるに決まってる。
シェフィも大会でいい所までいったので俺と一緒に学校をやめた。今は俺たち2人でパーティーを組んで冒険者として戦ったり、冒険したりしている。
今日も2人でギルドに来て、良さそうな依頼がないか物色中だ。
俺のレベルは14。今までの法則からいって、レベル15になればまたチート能力が使えるだろう。それまではシェフィに頼ってレベル上げに励むのだ。
「ねえねえリリ、このグンジョウオオヘビの討伐任務なんてどう? 凄い強そうだしお金も一杯もらえるよ」
「そんなどこにいるのかも、どれくらい強いのかも分からん敵と戦ってられるか。今日もオオカミの群れの撃退任務だ」
「うえー、つまんないー」
「ほら、受注してくるぞ」
「はーいー」
ちなみにシェフィは俺の決勝戦での戦いぶりを見ていないらしい。よかった、あの戦いを見られてたら最悪絶交だったからな。
カウンターにいる受け付け嬢に剥がした貼り紙を渡す。
「この依頼を受けたいんですが」
「ああ、ユート様ですか、はい。今日もオオカミ退治ですね、ありがとうございます」
「そんな感謝されるようなことじゃないですよ。そこまで難しい依頼でもないですし」
「いえいえ、本当に有難いんですよ。こういう地味な癖に少しランクの高い依頼を受けてくれる冒険者の方って少ないんです。お金が欲しい! とか有名になりたい!って気持ちは分かるんあですけど。そんな間に街がオオカミに襲われたらどうすんだ!って思いますし」
「愚痴はその辺で終わりにしておき
ましょう。俺は騎士で特別料金が貰えるからこんな任務でも生活できるんですよ。あんまり他の方々を悪く言わないでやって下さい」
「これはとんだご無礼を。それではお気をつけていってらっしやいませ」
「随分あの女の子と親しげだね」
「お? どうした嫉妬か? 女は怖い
ねえ」
なんだかそれにしては優しげに微笑んでいるのだが。シェフィの表情は笑顔で凍りついている。1ミリの変化もない。
「ううん、大丈夫だよ。リリが今どんな女を好きになっても、私とリリの将来は決まってるんだから」
やべえ、俺の冗談が冗談じゃなくなってるぞ。
「よ、よっしゃ、それでは出発しよう、な?」
ーーーーーーー
森の中、光が木々に遮られ薄暗い。辺りには何体ものオオカミが倒れている。
シェフィがハンマーで殴り付けて、俺が剣でとどめをさす。今の俺だってまあまあ強いんだぜ。
「この辺りも大分瘴気が濃くなって
きたね。リリ、肉焼けた?」
「もうちょっとで焼けるから待ってろ。瘴気にあてられた獣肉はしっかり焼かないと毒なんだ」
「へーえ、知らなかった」
彼女の機嫌は森を歩いたり戦ったりしているうちに治った。よかった、助かった。
「お前が作れる食べ物ってパンだけだもんなあ」
「練習したからね」
えっへん、とばかりに彼女は胸を張る。いや褒めてないから。
シェフィは料理が下手だ。この前倒したオオカミの肉を焼かせたら、群れ1つ分の消し炭ができあがった。
それ以来は俺が料理の全てを担当して
いる。メインで戦っているシェフィをねぎらう為にもなるしな。
「このままだとこの森も禁域になっちゃうかもね。それにしても瘴気ってどこからくるんだろ」
「それは誰にも分からん、魔王の野郎
がやってるのか、自然発生してるのか。調べる方法の検討すらついてないらしいからな」
「へー、リリって物知りだね」
「割りと常識だぞ...... よし、焼けたな。食え」
「よーし、一番大きいのは私のだよ!」
「分かった分かった、食べ終わった街に帰るぞ」
ーーーーーー
オオカミをひとしきり蹴散らした俺たちは街のギルドに戻ってきた。
「あ、ユート様。もう依頼を終えてこられたんですか?」
「はい。オオカミの群れは倒しておきました」
「かしこまりました。それではギルドから報酬の銀貨5枚と、騎士としての報酬で金貨3枚を差し上げます」
「銀貨5枚か。そんなので他の冒険者は生活していけるんですか?」
「実際厳しいみたいですね。無理してランクの高い依頼に挑んで大ケガされる新人の方も最近多いみたいですし」
「最近? 昔はそうでもなかったってことですか?」
「ええ、ここまで新人の方々が苦しみ始めたのは今の新しいギルドマスターに変わってからですね」
「今すぐそのマスターに会うことはできますか?」
「騎士であられるユート様なら大丈夫だと思いますよ。少々お待ちください」
受け付け嬢は扉の奥へ入っていった。しばらく待って、シェフィが駄々をこね始めたころ、嬢は戻ってきた。
「お待たせしました、マスターはお会
いになるようです。この奥へどうぞ」
「ありがとうございます。おいシェフィいくぞ」
「えー、私もいくのー?」
俺はその言葉を無視し扉を開けて先に進んだ。
「もう、待ってよー!」
でっぷりと太った坊主頭の男が椅子に深く腰かけている。冬でもないのに、暗い部屋の暖炉では火がゴウゴウと燃えている。
「で、お前がそのギルドマスターという訳か」
太った男の顔は汗だくだ。汗でヌメる頭と額を手のひらで撫でてから、男は口を開いた。
「そうですそうです。よくいらっしいました。私はここでギルドマスターを任されているーー」
「お前の名前なぞどうでもいい、それよりも話したいことがある」
「血気盛んなお年頃ですかな。歴代最
年少騎士というのもうなずける。それで、どうしました?」
「話は簡単だ。依頼の報酬額を増やせ。駆け出しの冒険者たちは生活にさえ苦しんでいるそうじゃないか」
「騎士様はまだ自分の報酬に不満があるとみえる。分かりました、今後ユート様には記載されている金額の2倍を支払いましょう」
「何を言ってるんだ? 俺はまだ簡単な依頼しかこなせない新人たちを援助しろ、と言ってるんだ。耳と頭がおかしいのか?」
「あわわ、それは言い過ぎだよリリ。
もっと仲良く、ね?」
シェフィが慌ててとりなす。 彼女の銀髪が暖炉に照らされて赤く染まっている。
「ほっほ、可愛いお嬢様だこと」
「可愛い!? イテッ」
また俺に叩かれたくないなら黙ってろ。
「ですがそれはどだい無理な話だ。我々だって慈善事業をやってるわけじゃあない」
「無理か」
「無理ですな」
「なら仕方ない」
俺は腰の剣を抜く。途端に緊張が部屋に張り巡る。シェフィが無言で縛り付けたハンマーの留め金を外す。チラと後ろに視線をやると、彼女の紅い瞳の中に紅い炎がある。
「どうする?」
男はつるりと頭を撫でる。
「いやはやこんな事態とはいえ、相手が今話題の騎士では分が悪い。やはりあなたも中々の人だ。新人専用依頼を作り、そこでは金貨1枚の最低報酬を保証する、これでどうでしょう?」
「まだだ」
俺は剣を強く握りなおす。
「交渉上手ですな。ならば金貨1枚、銀貨5枚。これなら新人に限れば以前よりも遥かに高水準の生活ができる。これ以上は切っても焼いても出ませんぞ」
「いいだろう」
剣をしまうよりも先に空間の緊張が緩む。シェフィがハンマーを背負いなおす音が聞こえる。
「別にいいのですが、なぜこんなこ
とを? あなたにはなんの得もありますまい」
「リリがね、とっても優しくて他人思いだからだよ!」
「話を聞いて、ムカついたから来たんだよ」
「それだけの理由で? 人を殺す覚悟をして? やはりあなたは素晴らしい......」
「用は済んだ。シェフィ帰るぞ」
「はいはーい」
ーーーーーー
早速新人用の依頼が壁に貼られた。それを偶然見つけた冒険者はビックリして飛び上がった後、急いでカウンターに依頼書を持っていった。
「これ本当に受けられるんですか?!」
「ええ、新人の方専用となっておりますが、受けられますよ。そちらにおられる騎士のユート様が掛け合って、ルーキーの皆さんの為にと始めてくださったんです」
ダダダダ!とその男が俺の所へ走ってきた。
「あなたがあのユートさんですか! 本当にありがとうございます! 俺、ユートさんみたいな騎士にいつかなりたいです!」
そのままダッシュして外に飛び出していった。よっぽど嬉しかったのだろう。ムカついたからやっただけなんだけど、やっぱり感謝されると嬉しい
な。
「ねえ、リリ」
「なんだ?シェフィ」
「私たちってそこそこお金もらってるよね?」
「俺のおかげでな」
「私が戦ってるよね」
「俺もそこそこ戦ってる」
「ぐぬぬ、いやそうじゃなくて。少しずつお金を貯めて家を買わない?」
「家? なんで?」
「既成事実への第一歩...... じゃなくて2人の装備を纏めておいたり、急な依頼に対応するのにも2人でいた方が便利じゃない」
「家か、高いよな家。まあ考えておくよ」
「期待してるからね?」
そういやシェフィが何かを欲しい、なんて言うのは始めてだな。よっぽど強い願いなのだろう。叶えてやらなければ、彼女の横顔を見てなぜだか無性にそう思った。
決めたぞ、俺がまたチートを手に入れたらすること。
その1、家を買う。