3話後編 レベル10 騎士になるくらい楽勝です(クラム登場)
騎士選抜大会初戦の相手を一撃で葬った俺は、観客の熱狂を後に選手控え室に戻る。
暗い通り道には第二試合の選手だろうと思われる大男がいた。背が高く、武骨な斧を持っている。今の俺なら楽勝だろうな。チラッと眺めて横を歩き過ぎた。
ここは勝者が集められる合同控え室だ。まだ俺しかいないけども。個人の控え室とちがってここは明るい。
待ち時間は長い。かなり暇だ。少し気になってステータスを確認する。
「ステータスオープン」
ふむふむ、良かった。俺のステータスにはまだ1つの数字も書かれていない。つまり俺の能力はまだ失われていないということだ。ほとんど変化もなく、変わったのは半分ほど貯まった経験値ゲージくらい......
あ、俺レベルアップしたらやばくね? またこのチート能力がなくなりそうな気がする。
うーん、次からはなんとか工夫して戦わないと決勝までにただのレベル11になってしまうな。気をつけよう。
またひときわ大きな重低音が響いてきた。観客が跳び跳ねて いるのだ。一回戦第二試合が終わったのだろう。
しばらくすると足音が近づいてきた、きっと今の試合の勝者がこの控え室に来たのだろう。ノックもされずに扉が開かれる。ノックしないとは失礼なやつだな、文句言ってやろうか。だが先に口を開いたのは相手だった。
「あ、お疲れ様でーす。ん? ええ? なんでリリがここにいる訳!?」
銀の髪が揺れ、紅い瞳が驚きで見開かれる。シェフィだった。軽装で、得物の巨大なハンマーは彼女の背中で鈍色の光を反射している。
少女のくせにさっきの大男を倒したのかよ、凄いな。
「しかもここにいるってことは勝ったってことでしょ......? あ!分かった! リリのステータス見せて!」
「ご明察」
「私あんな力と戦う自信ないんだけど...... そ、そうだ、リリは騎士の女の子と結婚したい思わない? ない?」
テンパり過ぎだろ、シェフィは長い髪をブンブン振りながら俺に迫ってくる。やめろ、ハンマーを手に持つな。
「イヤだ。俺が騎士になった方が嬉しい」
「むり無理ムリ!勝てっこないって」
「諦めるんだな」
「はあ......」
シェフィは俺が座るソファーにどっかと座った。普段あれだけ自信マンマンな彼女がここまで絶望するのは珍しい。正直見ていてゾクゾクするな。
そんな内に他の選手もぞくぞくと控え室に集まってきた。俺たちの他はむさ苦しいオッサンばっかりだ。みなが皆重厚な鎧を身に付けている。入るときに誰も扉をノックしなかったのは笑えた。
コンコン、扉がノックされる。絶対に大会運営側の人間だろう。
「そろそろ第一回戦が終了します。ユート選手、こちらへどうぞ」
「リリ、負けても私が仇を討ってあげるからね」
「それはどうもご親切なことで」
簡潔にまとめれば俺は勝った、勝ち続けた。ゴツいオッサンどもの足を引っかけてステージ外に落とすのは楽しかったぞ。ふざけた勝ち方だからか、経験値もほとんど貯まらなかった。
そしてついに俺は決勝進出を決めたのだ。
シェフィもなんとか勝ち進み準決勝までやってきた。ここで彼女が勝てば俺と決勝で戦うことになる。可哀想だが手加減はナシだ。俺が勝つ。
会場の入り口で、俺は決勝が始まるのを待っている。お、準決勝が終わったみたいだな。にわかに会場が騒がしくなった。
「勝者は......最年少出場の......」
微かに司会の声が聞こえてくる。この様子だと勝ったのはシェフィか。俺とシェフィが同い年だからな。
会場入り口のトンネルにシェフィがあらわれた。ずいぶんボロボロだな、よっぽどの強敵だったのだろう。彼女は俺を見つけて駆け寄ってきた。
「リリ、私負けたの。手短に話すね。相手は私たちと同い年の女の子。剣と鎧で、盾はない。特徴は魔法を使うこと。火、風、身体強化の3種を使ってきた。私が目で追えないほど素早い。手も足もでなかったよ」
「へ? それってどういう」
「リリ、勝ってね」
「......任せとけ」
「ついにお待たせ決勝戦だ! とんだとんだ番狂わせ! どちらが勝っても最年少騎士の誕生だ! まずは1人め、驚異の身体能力だけで勝ち進んできたユート選手!」
観客が沸騰する。俺は静かに相手を見据える。
「もう1人は可憐な美少女! 黄金の髪が舞い、瞳は青く輝く! その剣技と魔法は誰をも寄せ付けない! クラム=フェン=パコール選手!」
確かに美少女だ。 髪はそこまで長くない。銀の鎧に金の模様が走っている。が、胸部だけは軽装だ。
なぜって? 見れば分かる。胸が鎧に収まりきらないのだ。巨乳過ぎる。鎧の金属から、生の肉が覗くアンバランスさが妙にエロい。
俺を真っ直ぐ睨み返してくる。いや、俺は胸をチラチラ見てるけど。
「その年で魔法を使いこなすなんて凄いな」
「誉めていただけるとは嬉しい。だが貴様も決勝まで上り詰めた男、手加減はせんぞ」
また適当にステージ外に落として勝利するのが楽そうだな、そうしよう。
「決勝は特別ルール! ステージから落ちても試合は続行! 縦横無尽に戦ってくれ!」
え? マジ? 真面目に戦うしかないの?
「運命の最終戦だ! ついに今年の最強戦士が決まる! さあいくぜ! レディー............ゴオォゥ!」
「最初から全力でいかせてもらう!」
クラムの青い瞳が一層強く輝く。風が彼女を中心に渦巻き始める。構える剣が赤熱する。
いきなり魔法のフルコースってわけだ。俺を殺すつもりか?
弾かれるように、クラムが突っ込んできた。風が彼女の後ろで吹きすさぶ。
逆袈裟の一撃が熱波を纏って襲いくる。俺は鉄剣でガード。
ん? 俺の剣がグニャリと曲がる。クラムがニヤリと笑う。彼女の胸がブルンと揺れる。いや、気になったので。
「ハァッ!」
気合いの一閃で、俺の鉄剣は断たれた。踏み込んだ足元が破壊される。
こいつ無駄に強いぞ、手加減が難しいな。本気を出したらコロッセウムごと破壊してしまいそうだし。高そうな鎧を壊しても可哀想だ。ならば俺が選べる行動は1つだろう。
俺は剣を放り投げ拳を構える。慣れていないが仕方ない。
「剣を捨てて私にダメージを与えられる訳がないだろうが!」
クラムがさらに一歩踏み込む。次は上段からの振り下ろしか。その一瞬、俺は出来る限り軽く拳を繰り出す!
ぷるん。
「ほえ!?」
隙が生まれた! さらにワンツー!
ぷるんぷるん。。
「ひゃあ!?」
そう、胸部への軽い打撃。つまりおっぱいへのソフトタッチだ。
ぷるんぷるん、ぽよんぽよん。
「やめろ!やめろやめろ!やめて!やめてやめて............」
クラムはやたらめったらに剣を振り回す。顔も燃えるように真っ赤だ。俺にはかすりもしない。ぷるるん。無慈悲なパンチが巨乳を揺らす。
「あああ、うう......」
クラムは地面にへたりこんでしまった。顔を隠してすすり泣いている。もう一発だけ。ぽよん。
「うええええぇぇぇぇんん!」
うわ、ついに大声で泣き始めてしまった。ちょっとやり過ぎたかな...... 観客も静かだ。一部の男性は鼻息も荒く興奮しているみたいだけど。
テローン。あっレベルアップしちゃった。体から力が抜けるのが分かる。
誰も何もしゃべらない。クラムの泣き声だけがコロッセウムに響く。
俺は司会に近づいて肘でつつく、この状況どうすんだよ、というか俺はもう戦えないんだよ。
「ええーと...... 勝者ユート選手、今年の騎士はユート=ゴナン=リリックです?」
俺は念願の騎士になれたみたいだな。うん、よかったよかった。楽しかったし。ちょっと皆の視線が冷たいけどな。