表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/16

3話後編 レベル10 騎士になるくらい楽勝です(クラム登場)

 騎士選抜大会初戦の相手を一撃で葬った俺は、観客の熱狂を後に選手控え室に戻る。


 暗い通り道には第二試合の選手だろうと思われる大男がいた。背が高く、武骨な斧を持っている。今の俺なら楽勝だろうな。チラッと眺めて横を歩き過ぎた。



 ここは勝者が集められる合同控え室だ。まだ俺しかいないけども。個人の控え室とちがってここは明るい。


 待ち時間は長い。かなり暇だ。少し気になってステータスを確認する。


「ステータスオープン」


 ふむふむ、良かった。俺のステータスにはまだ1つの数字も書かれていない。つまり俺の能力はまだ失われていないということだ。ほとんど変化もなく、変わったのは半分ほど貯まった経験値ゲージくらい......


 あ、俺レベルアップしたらやばくね? またこのチート能力がなくなりそうな気がする。


 うーん、次からはなんとか工夫して戦わないと決勝までにただのレベル11になってしまうな。気をつけよう。




 またひときわ大きな重低音が響いてきた。観客が跳び跳ねて いるのだ。一回戦第二試合が終わったのだろう。


 しばらくすると足音が近づいてきた、きっと今の試合の勝者がこの控え室に来たのだろう。ノックもされずに扉が開かれる。ノックしないとは失礼なやつだな、文句言ってやろうか。だが先に口を開いたのは相手だった。


「あ、お疲れ様でーす。ん? ええ? なんでリリがここにいる訳!?」


 銀の髪が揺れ、紅い瞳が驚きで見開かれる。シェフィだった。軽装で、得物の巨大なハンマーは彼女の背中で鈍色の光を反射している。


 少女のくせにさっきの大男を倒したのかよ、凄いな。


「しかもここにいるってことは勝ったってことでしょ......? あ!分かった! リリのステータス見せて!」


「ご明察」


「私あんな力と戦う自信ないんだけど...... そ、そうだ、リリは騎士の女の子と結婚したい思わない? ない?」


 テンパり過ぎだろ、シェフィは長い髪をブンブン振りながら俺に迫ってくる。やめろ、ハンマーを手に持つな。


「イヤだ。俺が騎士になった方が嬉しい」


「むり無理ムリ!勝てっこないって」


「諦めるんだな」


「はあ......」


 シェフィは俺が座るソファーにどっかと座った。普段あれだけ自信マンマンな彼女がここまで絶望するのは珍しい。正直見ていてゾクゾクするな。



 そんな内に他の選手もぞくぞくと控え室に集まってきた。俺たちの他はむさ苦しいオッサンばっかりだ。みなが皆重厚な鎧を身に付けている。入るときに誰も扉をノックしなかったのは笑えた。


 コンコン、扉がノックされる。絶対に大会運営側の人間だろう。


「そろそろ第一回戦が終了します。ユート選手、こちらへどうぞ」


「リリ、負けても私が仇を討ってあげるからね」


「それはどうもご親切なことで」






 簡潔にまとめれば俺は勝った、勝ち続けた。ゴツいオッサンどもの足を引っかけてステージ外に落とすのは楽しかったぞ。ふざけた勝ち方だからか、経験値もほとんど貯まらなかった。


 そしてついに俺は決勝進出を決めたのだ。


 シェフィもなんとか勝ち進み準決勝までやってきた。ここで彼女が勝てば俺と決勝で戦うことになる。可哀想だが手加減はナシだ。俺が勝つ。



 会場の入り口で、俺は決勝が始まるのを待っている。お、準決勝が終わったみたいだな。にわかに会場が騒がしくなった。


「勝者は......最年少出場の......」


 微かに司会の声が聞こえてくる。この様子だと勝ったのはシェフィか。俺とシェフィが同い年だからな。


 会場入り口のトンネルにシェフィがあらわれた。ずいぶんボロボロだな、よっぽどの強敵だったのだろう。彼女は俺を見つけて駆け寄ってきた。


「リリ、私負けたの。手短に話すね。相手は私たちと同い年の女の子。剣と鎧で、盾はない。特徴は魔法を使うこと。火、風、身体強化の3種を使ってきた。私が目で追えないほど素早い。手も足もでなかったよ」


「へ? それってどういう」


「リリ、勝ってね」


「......任せとけ」






「ついにお待たせ決勝戦だ! とんだとんだ番狂わせ! どちらが勝っても最年少騎士の誕生だ! まずは1人め、驚異の身体能力だけで勝ち進んできたユート選手!」


 観客が沸騰する。俺は静かに相手を見据える。


「もう1人は可憐な美少女! 黄金の髪が舞い、瞳は青く輝く! その剣技と魔法は誰をも寄せ付けない! クラム=フェン=パコール選手!」


 確かに美少女だ。 髪はそこまで長くない。銀の鎧に金の模様が走っている。が、胸部だけは軽装だ。


 なぜって? 見れば分かる。胸が鎧に収まりきらないのだ。巨乳過ぎる。鎧の金属から、生の肉が覗くアンバランスさが妙にエロい。


 俺を真っ直ぐ睨み返してくる。いや、俺は胸をチラチラ見てるけど。


「その年で魔法を使いこなすなんて凄いな」


「誉めていただけるとは嬉しい。だが貴様も決勝まで上り詰めた男、手加減はせんぞ」


 また適当にステージ外に落として勝利するのが楽そうだな、そうしよう。


「決勝は特別ルール! ステージから落ちても試合は続行! 縦横無尽に戦ってくれ!」


 え? マジ? 真面目に戦うしかないの?



「運命の最終戦だ! ついに今年の最強戦士が決まる! さあいくぜ! レディー............ゴオォゥ!」


「最初から全力でいかせてもらう!」


 クラムの青い瞳が一層強く輝く。風が彼女を中心に渦巻き始める。構える剣が赤熱する。


 いきなり魔法のフルコースってわけだ。俺を殺すつもりか?


 弾かれるように、クラムが突っ込んできた。風が彼女の後ろで吹きすさぶ。


 逆袈裟の一撃が熱波を纏って襲いくる。俺は鉄剣でガード。


 ん? 俺の剣がグニャリと曲がる。クラムがニヤリと笑う。彼女の胸がブルンと揺れる。いや、気になったので。


「ハァッ!」


 気合いの一閃で、俺の鉄剣は断たれた。踏み込んだ足元が破壊される。


 こいつ無駄に強いぞ、手加減が難しいな。本気を出したらコロッセウムごと破壊してしまいそうだし。高そうな鎧を壊しても可哀想だ。ならば俺が選べる行動は1つだろう。


 俺は剣を放り投げ拳を構える。慣れていないが仕方ない。


「剣を捨てて私にダメージを与えられる訳がないだろうが!」


 クラムがさらに一歩踏み込む。次は上段からの振り下ろしか。その一瞬、俺は出来る限り軽く拳を繰り出す!


 ぷるん。


「ほえ!?」


 隙が生まれた! さらにワンツー!


 ぷるんぷるん。。


「ひゃあ!?」


 そう、胸部への軽い打撃。つまりおっぱいへのソフトタッチだ。


 ぷるんぷるん、ぽよんぽよん。


「やめろ!やめろやめろ!やめて!やめてやめて............」


 クラムはやたらめったらに剣を振り回す。顔も燃えるように真っ赤だ。俺にはかすりもしない。ぷるるん。無慈悲なパンチが巨乳を揺らす。


「あああ、うう......」


 クラムは地面にへたりこんでしまった。顔を隠してすすり泣いている。もう一発だけ。ぽよん。


「うええええぇぇぇぇんん!」


 うわ、ついに大声で泣き始めてしまった。ちょっとやり過ぎたかな...... 観客も静かだ。一部の男性は鼻息も荒く興奮しているみたいだけど。


 テローン。あっレベルアップしちゃった。体から力が抜けるのが分かる。


 誰も何もしゃべらない。クラムの泣き声だけがコロッセウムに響く。


 俺は司会に近づいて肘でつつく、この状況どうすんだよ、というか俺はもう戦えないんだよ。


「ええーと...... 勝者ユート選手、今年の騎士はユート=ゴナン=リリックです?」


 俺は念願の騎士になれたみたいだな。うん、よかったよかった。楽しかったし。ちょっと皆の視線が冷たいけどな。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ