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3話前編 レベル10 騎士になるくらい楽勝です

 

 イジメッ子のカラムは無傷だった。俺の斬撃はヤツの側を通ったのだ。しかし風圧に吹き飛ばされ、死の恐怖に晒された結果、カラムは病院送り。精神の方がイカれてしまったらしい。


 その場にいた俺と幼なじみのシェフィはモチロン疑われたが、あんな大規模な破壊を起こせるはずがないということで解放された。



 そして1番大切な俺のステータスなのだが、普通に戻ってしまった。確かにレベルは8になり前よりも強くはなった。しかしレベル5の時の異常なほどの力はどこへ行ってしまったのだろう?


 気にしても仕方がない、俺はまた毎日パンを食べ、木刀を振り、鍛練を積む学校生活を続けた。全ては騎士になるためだ。



 499、500、501、502、

 鉄剣を振る音が庭に広がる。


「騎士選抜大会の季節がやってきたねー」


 素振りをする俺の横で、シェフィが呟く。


「お前は出場するんだって?」


 俺は振り向かず、手を休めることもなく返事した。


「うん、出場するのはベテランの大人ばっかりだって聞いたけど、自分の実力を試してみたいなって思ったの」


「ま、俺には関係ないからな。俺が出場しても無理だし」


「あのときの訳分かんない力がリリにあったらよかったのにね。カラムをびゅーん、って吹っ飛ばしたやつ」


「無いもんは仕方ないだろ。まあ明後日の大会は適当に頑張ってくれや」


「普通に応援してくれたらいいのにー。ちなみにあと6080回くらい素振りすればレベル10に上がるよ」


 数値が細か過ぎて怖い...... どこ調べなんだ? その俺の経験値事情は。



 サッ、と彼女が俺の方を振り向く音。俺も思わず振り向いてシェフィの紅い瞳を見つめる。


「えーと、もし騎士になれたらね、私毎日リリのお父さんのパンが食べたいな」


「おう、金持ちになったらじゃんじゃん買ってくれていいぞ、俺の小遣いも増えるし」


「そうじゃなくてー!」


「うるさいうるさい。お前は1人で大会の予行演習してろ」


 520、521、523、

 心の中で数を数える。シェフィも静かになった。こいつも頑張ってるんだ、明後日までにレベル10。少しだけ、俺も一緒に頑張ろうか。



 ーーーーーーーーーーーーー



 ついに今日は騎士選抜大会当日だ。天気は快晴、会場になるコロッセウムからは、満杯の観客の声が地響きのように聞こえる。


 この大会は年に一度開催され、トーナメントを勝ち残った優勝者が騎士の称号を得るのだ。


 シェフィは出場登録するためにコロッセウムに向かった。一方俺は。



 6048、6049、6050、

 そう、モチロン素振りだ。いつもの学校の庭、いつもの芝生の上で、いつもの鉄剣を振る。


 シェフィはどうしているだろうか? 緊張してないかな? まあ、あいつのことだ、なんとかなるだろう。



 テローン。素振りのおかげでレベル10にアップしたみたいだな、どれどれ。


「ステータスオープン」


 文字の羅列が空中に展開する。さあ更に成長した俺のステータスを......あ。また、俺のステータスがなくなってる!全ての数字が消えてる!これはもしかして!


 もしかして!



 試し斬りは側の木。前回は酷いことになったからな、今回は普通の速度で振ることだけを意識する。


 剣を水平に寝かせて、横向きに、振る。まるで空気を裂くような手応えで木は切断された。


 バックステップして返す刀を下から斜めに切り上げる。刃は幹に届かない、が。斬撃は空間ごと木を切った。


 切られた木は地面に倒れ重く地面を揺らした。



 今日は騎士選抜大会の当日、なんて最高のタイミングなんだ! あのときの力を俺はまた手に入れた!今日、俺はきっとこの国で最高の栄誉を手にできるぞ!


 俺は全速力でコロッセウムへ駆けてゆく。歓声が渦巻く晴れ舞台へと!





 ここは暗い。出場登録した俺は選手の個人控え室で待たされている。大会はトーナメント式で、5回戦あるらしい。つまり5回勝てば優勝というわけだ。


 外から怒号のような、悲鳴のような声が届く。うう、腹の底まで響く音だ。きっと開会が宣言されたのだろう。


 コンコン、この部屋の扉がノックされる。無表情な女が入ってくる


「ユート選手ですか?」


「はい」


「ユート選手は第一回戦、第一試合への出場が予定されています。使用する武器を申告してください」


「この鉄剣です」


「それだけですか? ......はい、使用可能な武器ですね。それではこちらへどうぞ」


 無愛想な女だな、別にいいけど。俺はスタスタと歩く女の後について行く。


 暗いトンネルのような道を進んでゆくと、前方に外からの光が差し込んできた。出口だ。


「この先が試合会場です。それでは、ご武運を」


「ありがとよ」


 俺は光とざわめきの中へ踏み出していった。



 歓声、喚声、雨のように、四方八方から降り注ぐ。コロッセウムの客席は超満員だ。


「出たー! ユート=ゴナン=リリック選手だ! 彼は今回大会で最年少出場者の1人! 全く前情報のないダークホース! もし優勝すれば最年少騎士の誕生だ! 皆、応援してやってくれ!」


 更に歓声が弾ける。観客の熱狂が俺の身にも染みてゆく。やってやろうじゃないか! 拳を高く突き上げる。


「続いてはテロス選手の入場だ! カモン!」


 丸い闘技場の反対側に動く鎧が表れた。いや、フルプレートアーマーを着込んだ人間か。


「テロス選手は出場3回目のベテランだ! 今度こそは優勝することができるのか!?」


 鎧はじっと立ち止まっている。つまらんヤツだな。


「おいおい、テロスさんよ。もうちょっと明るくいこうぜ」


「子供相手に本気を出す気にもならん、静かにしたまえ」


 余裕たっぷりだな、1分後に後悔させてやるよ。


「この大会のルールは単純! 2人には中央にある25メートル四方のステージ上で戦ってもらう! どちらかが戦闘不能になる、敗北を認める、ステージから落ちる、この3つだけが勝敗を決定するぜ! 分かりやすいだろ? では両者ステージ上へ!」


 ステージに登り、俺は剣を右手で持ち、少し前に倒して構える。鎧男は右手に剣を、左手に盾を構える。盾は体をすっぽりと隠すほど大きい、ずいぶんと防御的なスタイルで戦うつもりらしいな。



「それでは、レディ............ゴゥ!」


 俺が走り寄り、空いた左の拳で殴り付ける。テロスは盾と一緒に吹き飛ばされ、闘技場の壁にぶつかり、ドサと地面に落ちた。ピクリとも動かない。


「......は?」


 会場が凍りつく。司会は口をあんぐりと開けている。


 やれやれ仕方ないな、俺が進行させてやろう。


「勝者はどちらだ?」


 まだ全員黙ったままか、流石に驚きすぎだろ。


「もう一度聞こう、勝者は、どちらだ?」


 ユートだ! 誰か1人が叫んだ。


「もう一度!」


「ユートだ!」「ユートが勝った!」「ユート!」「ユート!」


「勝者は、ユート選手だああああああ!!!!」


 コロッセウムの興奮は一瞬で上限を突破した! 俺はゆっくりと手を振り、観客の熱狂に応える。


 そして興奮冷めやらぬまま、ステージを後にした。


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