2話 レベル5 チート開眼で気に入らない奴をぶっとばせ
俺はユート=ゴナン=リリック。騎士育成学校の生徒だ。父さんは元傭兵で、今はパン屋をしている。容姿も普通、成績も普通。つまり俺は地味だ。
昼休み、教室にて。今日も昼食は父さんの焼いたパン。シンプルだが旨い。毎日食べても飽きない味だ。
「おいユート!お前今日もパン食ってるのかぁ?」
うげ、嫌な声が聞こえてきた。目の前には大きな人の影。こいつはカラム、俺の同級生だ。
「別に俺が毎日なにを食べようと勝手だろ、ほっとけよ。そしてお前は二度とパンを食べるな」
「ユートのくせにずいぶん偉そうじゃねえかよ!」
バシッ、と一発頭をはたかれる。周りから冷笑が聞こえてくる。見ての通り、カラムは典型的なイジメッ子だ。
カラムは体が大きく、成績も良い。だから誰もこいつには逆らおうとしない 。
カラムにとって、ヘコヘコ頭を下げない俺が気にくわないのだろう。学校の中でこいつに殴られた回数ランキングを作れば、俺がぶっちぎりトップになるのは間違いないな。
別にいいんだ、逆らうのも面倒だし。ただいつか復讐はする、必ずだ。
「まあ、偉そうに言いたけりゃ俺に決闘で勝ってからにするんだな!」
実際カラムは強い。俺のレベルは4、それに対してカラムのレベルは6。たった2の差だが、1.5倍と考えると勝てる気がしなくなるだろ?
俺は黙ってパンをかじる。
「またイジメですか? また先生に言い付けますよ!」
うわー、もっと嫌な声が聞こえてきた。視界の端に銀髪が見える。もう昼飯は終了だ。俺はそそくさと教室を出ていく。
「こらー! リリも逃げるなあ!」
追いかけてくるカン高い声を無視して、俺は去っていった。
198、199、200、201、
芝生の上で木刀を振りながら、無言でその回数を数える。これは俺の日課だ。こんな地味な練習こそが人を強くしてくれると俺は信じている。
「やっぱり今日もここにいた」
さっきの声が俺を追いかけてきたみたいだな。人前では俺に関わるなって言ってるのに、奴は何度も俺に話しかけてくるのだ。
「明日もここにいるから安心してくれ」
返事はするが、素振りを止めるつもりはない。
「知ってますー。リリは毎日毎日偉いねー」
銀髪の女が俺の隣の芝に座る。風が少し吹いて、彼女の長い髪がサラサラと揺れる。
彼女はシェフィ=タミル=アマルガム。ちょっと女っぽくない名前だな。まあ見た目はきちんと女だけど。
シェフィは紅い瞳が特徴的で、睨まれると立ちすくむほどに力強い。顔立ちは整っていて、学校一の美人と名高い。俺は見飽きたけどな。
なにより反則なのは、この上彼女がこの学校で最強だということだ。戦闘技術は天才的で、将来の騎士として期待されている。
天才である彼女と地味な俺は幼なじみで、今でも気軽に軽口を叩きあう仲である。
「そろそろリリもレベルアップするんじゃない? 具体的に言えばあと素振り10回分くらいかな」
「お、そうか?」
彼女はなぜか俺の経験値やステータスについて俺よりも詳しい。正直言ってちょっと気持ち悪い、でもちょっと嬉しいとも思う。
テローン、短いシンプルな音が頭の中に響く。素振りでコツコツ貯めた経験値がmaxになってレベルアップしたのだ。どれ、確認してみるか。
「ステータスオープン。はぁ!?」
確かに空中に文字が表れた、俺のレベルも5にアップしているのだが......
なぜかステータスがない。前まで「ちから 20」だとか書いてあったステータスの数字が全てなくなっている。そこにシェフィが覗きこんできた。
「どれどれ......うーん、バグった? こんなの見るの初めてで分かんないや」
使えない幼なじみだな。それにしても不思議で不安だ。しかしどうしてか、俺の体には力がみなぎっているような気がする。
「まあいいか、ちょうど良い区切りだし昼飯の続きといこう」
俺はシェフィの隣に座り、ポケットからパンを取り出して食べ始めた。うめえ。おや? シェフィもポケットからパンを取り出した。
「ふふん、朝にリリのお父さんから買ってきたんだ。最近研究してかなり似た味のパンを焼けるようになったんだよ?」
「ウチの店を乗っ取ろうとするのはやめろよ......」
2人並んで座り、黙ってパンをかじる。地味なパンだ。でも毎日食べるなら、こんなパンじゃないと俺は嫌だね。
もう少しで食べ終わるという所で、また昼飯の乱入者が表れた。
「ユートこんな所にいたのかよ、探したぜぇ」
こっちも俺を追いかけてきたらしい。ご苦労なことだ。カラムは片手に真剣を持って立っている。
「まだ俺様に逆らったお仕置きは終わってねえぞ。さあ『フェアな』決闘をしようぜ」
「カラム君! もういい加減に」
「いいんだ、シェフィ。俺のことにまで責任を持つ必要なんてないんだぞ」
「でも......」
「いいだろう、カラム。その決闘、ユート=リリックが受けてたつ」
「おっほお! いいね! さあ、天才様は横にどいてな!」
俺は木刀を正眼に構える。カラムがヘラヘラ笑っているのがムカつくな。
「俺からいくぜぇ!」
2人の距離は5メートルほど。カラムが剣を構え突っ込んでくる。受け止めるのは難しそうだ。ならば、俺は振り上げた木刀を無造作に降り下ろした。
俺は木刀を信じられないスピードで振り抜いた。轟音が響く。クッ、風圧が凄くて、目も開けられないぞ。建物がきしむ音がうるさい。吹き飛ばされないようにしっかりと踏ん張る。
風がやみ、目を開ける。なんだこれ?なぜか俺の目の前には何もないじゃないか。
地は裂け、山が割れ、空の雲が分断されている。真っ直ぐな直線が、俺の前にある。
俺の手の木刀が空気との摩擦で熱く、燃えている。シェフィが信じられないといった顔をしている。
テローン、テローン、テローン。
どうやら敵を倒して、レベルが3も上がったらしい。




