10話 幽霊が服を着てるっておかしいよね(トト登場)
夜。ドラゴンを倒して自宅に帰ったら家が青白く光っていた。なんのことか分からんだろうが俺にも分からん。
「家が青白く光ってる訳だし、とりあえず中に入るか」
「そうだねー」
「その理屈はおかしくない?」
俺は無視して敷地に入る。
「無視しないで......」
クラムは無視に弱い、覚えておこう。それにしてもこの状態はなんなんだ? 感覚を澄ませると館の中には特別濃い瘴気が渦巻いているのが分かる。魔物でも侵入したのか?
「ただいまー?」
シェフィは誰かに挨拶した。当然返事はない。扉の奥は真っ暗だ。しかし2階への階段の先で青い光が揺らめいている。この光はいつか見たロウソクかな。
3人で館に足を踏み入れる。あんまりにも暗すぎて何も見えない。仕方ないな、俺は光の球を魔法で作り天井に放り投げた。
「うわーまぶしい」
「私の頭に松明をくくりつける必要あったの?」
「面白かったからいいんだよ。それよりも中の方が外よりも瘴気が濃くないか?」
「確かに。なんかヤバげな雰囲気かな。注意しないと」
呟きながらクラムが俺たちの先をゆく。そして、またかよ。鎖で繋げたシャンデリアがクラムの頭めがけて落下する。
もうこのポンコツシャンデリアはいらないよな? 空中で静止させ、手をグッと握る。たちまちシャンデリアはただのガラスと金属の塊になった。腕を振って部屋の隅に投げる。
「あ、ありがとう」
「ちゃんと注意しろよ? 俺が先にいく。お前たちは後ろについてこい。離れるなよ」
「りょーかい」
なんとなく目星はついてるんだ。なぜか点いている青白い火のロウソク、それがある二階正面の部屋に瘴気が流れ込んでいる。おそらくこの部屋になんらかの原因があるだろう。
階段を昇り、部屋の前に立つ。すでに扉は開いている。中は瘴気がわだかまり、全体がぼやけて見えるほどだ。
「この部屋は瘴気が濃すぎる。俺がヒーリングをかけ続ければお前らでも大丈夫だろうが、中で何が起こるか分からん。2人はここで待ってろ、絶対に入ってくるなよ」
「......気を付けてね」
「おう、ありがとよシェフィ」
入るよりも先に光球を投げ入れる。誰もいないのだが、なぜか人の気配がする。十分に注意を払いながら入室する。
バタン! 背後で音が響く。振り返ると扉が閉まっている。
「リリ! 大丈夫?!」
扉越しにシェフィの叫ぶような声が薄く聞こえる。この扉は見た目よりだいぶ音を遮るようだ。俺も大声で話す必要があるだろう。
「大丈夫だ! すぐに戻る!」
人の気配が強くなる。しかし影も形も見えない。どこだ、どこにいる? 豪華な家具が置かれた部屋で、青白いロウソクが不気味だ。
淀んだ瘴気があちらこちらから忍び入っている。普通の人間がここに入れば1秒以内に死ぬだろう。しかしなぜだ? 相手の位置がつかめない。
なにかヒントは...... そうだ瘴気だ、瘴気の流れを辿ろう。俺は目を閉じて流れに集中する。探せ、探せ......
上だ!
片手を上げて天井の中に魔力を収束させる。何か捕らえた! 離さず一気に引きずり出す!
「ギャフン」
若干ギャグっぽい声と共に、白くて半透明なフワフワが落ちてきた。これは幽霊ってやつか? 魔物の一種らしいが初めて見た。
「ウオオオー! 体を寄越せ!」
俺に襲いかかろうとしているが、空中で魔力の輪に捉えられて1ミリも動けていない。ゆっくりと観察してみよう。
姿形は人間そっくりだ、足もある。見た目年齢は10歳くらいの女。つまりは可愛らしい女児。薄くて分かり辛いがおそらく黒髪に黒目だろう。
そして全裸だ。魔物なら当然かもしれないが全裸だ。俺は嬉しいぞ。
「ウオオオー! ウオオオー、うおおお、はぁはぁ、疲れた......」
「何してんだお前?」
「私トト=ラック=フィアンス。お兄さんの魂と体を頂戴な」
「やらん。お前が犯人だな、なんで俺の家を光らせるんだ止めてくれ。なんか怖いだろ」
「お兄さんの家? 違うわね、ここは私の家、そしてこの家が私なのよ。それに私は瘴気がないと姿を表せないから瘴気を集めてるだけ、悪い?」
うーん、そこまで言われるとこいつの言い分の方が優先されてしまいそうだな。しかし全裸、たまらん。
「よーし、ちょっとじっとしてろよ」
「私をどうするつもり?!」
俺は捕らえた全裸の彼女に近づく。正直アウトに近いが、幽霊だからか体のディティールが甘いのでギリギリセーフだ。
「なに、とっても良いことだよ。静かに、動かないで......」
硬直させた彼女の半透明の体を足から丁寧に撫で上げていく。
「あっ、ううンッ! はあ、はあンンッ!」
幽霊は顔を悶えさせている。だが動くことも叫ぶこともできない。
足、太もも、お腹、脇、胸、肩、首、頭。あます所なく念入りに撫でていく。
「よっしゃできたぞ」
俺は彼女の拘束を解く。
「お、乙女になにしてるのよこの...... あれ? 体がある?」
そう、俺が体を作ったのだ。これで納得するだろうか?
「モデルになる形があったから楽だったよ。体が欲しかったんだろ? やるよ。魂は自分ので我慢しろ」
「え? え? え? 私の1000年の孤独はどうなるの?」
「んなもん知るか。何か俺に言うことあるんじゃないか?」
「ありがとう! ありがとう! 体だ! 体! やったー!」
トトは俺に抱きついてきた。部屋の瘴気が急速に薄まっていく。一件落着ってとこかな。
カチリ、と扉の鍵が開く音がする。
「あれ? 瘴気がなくなってる。リリ、入るよ!」
「やめろっ! まだ入るな、ああ......」
シェフィとクラムは俺が全裸の幼女に抱き付かれて、俺も幼女を抱いている姿を見ただろう。
「......リリ、ロリコンだったの?」
「私の胸でメロメロにならないはずね......」
「違う、誤解だ。本当に違う」
「何が違うの? 私の全身をあれだけ辱しめておいて?」
トトが太ももを擦り付けてくる。シェフィとクラムが顔が真っ赤になる。
「わざと誤解を招く表現を使うのはやめてくれ、本当に頼むから」
「リリ、もう終わったなら服を持ってこようか?」
「終わったってなんだよ、何も始まってねえよ。服は頼む」
トトやめろ! そんな間にも俺に生の太ももを俺に擦り付けるな! 誘惑が直接的過ぎて色々とヤバい。
クラムはさっきから真っ赤な顔で黙ってモジモジしている。上目遣いに俺と、それに抱き付いているトトを見ては急いで目を逸らしている。だからやってないっての。
「ユート様ぁ! ギルドからの使いです大変です!」
バン! と扉が勢いよく開かれる。ギルドの受け付け嬢だ。大きく目を見開く。
「3Pですか? お邪魔しました」
バタン、扉は閉まった。トトはニヤニヤ笑っている。ああクソ、俺の周りには変な女ばっかりだ。




