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9話 ドラゴン? 俺は果実を集めとくわ

 

 瘴気に満ちた夜の森を走っていると、突然空気が清浄になった。大きく深呼吸すればさぞ気持ちいいだろう。


 しかしそんなことをしている訳にはいかない。空間に大きな存在感が満ちているからだ。


 俺たちは警戒しながらゆっくりと歩く。先頭のクラムは剣と立てを構えている。あっこれ盾じゃない、銅鑼だ。まあ別にいいか。彼女の頭の2本の松明はまだ明るく燃えている。


 しばらく進むと妙に開けた場所が見えた。十中八九ヤツはここにいるだろう。


「クラム、シェフィ気をつけろ。多分ここだ」


「了解」 「分かった」


 俺は2人の頭に手を当てて、再び強化魔法を限界までかける。俺たちは開けた場所に足を踏み入れた。そして、松明の光が、巨躯を、照らし出した。


 薄緑色のドラゴンは直立し背中を向けている。体長は...... 20メートルほどか? 松明の光では頭まで届かないのでよく分からない。


 俺たちに気付き、ゆっくりと頭を下ろ「シェフィ! 頭だ!」


 銀髪をなびかせ、シェフィがロケットのように飛び上がる。一瞬空の闇に消え。ドラゴンの頭が地面に叩き付けられた!


 龍が短い手をバタバタさせる。まだ生きているとは流石だ。


「見えるな? クラム、目だ」


 青眼を煌めかせ、1抱えもある目をクラムが切りつける。踊るように頭を飛び越え、さらにもう一斬り。ドラゴンの両目は断たれた。


 見えもしないのにドラゴンは頭を持ち上げる。鼻をスンスンと鳴らしている。匂いで俺たちを把握しているのか。俺は鼻を指差す。


 当然、闇から落下してくるシェフィのハンマーが龍の鼻面を上から強打する。龍の頭は再び地面に叩きつけられる。地面が揺れる。


 反動で静止したシェフィは前方に大きく一回転した後落下。ハンマーで再度ドラゴンの鼻を地面に叩き込む。


「どう戦うの!?」


 クラムが問いかけてきた。


「うーん、後は適当で大丈夫だろ。シェフィ、あと何発で落とせる?」


 シェフィは猫のように滑らかに着地、長い銀髪をなでつける。


「うーん、10発以内にはイケると思うよー」


「だそうだ、後はよろしく」


 2人は連携して戦い始めた。仲が悪い割には上手いもんだ。俺が2人の思考をリンクさせてるんだけどね。


 目の端に何かがちらりと映る。おっ、あの赤はコルカラの実! 非常に空気がキレイな所でしか育たないという幻の果実! 駆けよって、1つもいでかじる。


「うめえ」


 清涼感が口いっぱいに広がり、ほどよい甘みは舌に残らない。いっぱい持って帰って後で食べよう。




 コルカラの実でバッグが一杯になった、嬉しい。そうだ女二人とドラゴンはどうなったかな?


「おいシェフィ、終わったか?」


「よいしょー!」


 シェフィの横凪ぎのハンマーがドラゴンの首を叩く。嫌な音が響いて、ドラゴンの体から力が抜ける。


「終わったか、ご苦労さま。よーし、龍の素材を剥いで...... あれ?」


 倒れた龍の死体が緑に輝き、緑の光となって溶けて行く。夜の森が緑に染まる。


「あー! これじゃあなんにも採れないよ!」


「いや、何か残ってるみたい。これは...... 宝石?」


 クラムの手には強く緑に輝く、大きなエメラルドのようなものがあった。こいつなら龍を倒した証明になるかな、多分。


「じゃあコルカラの実も集めたしギルドに帰ろうぜ」


「......そんな締めでいいのか?」



 ーーーーーーーーー



「ドラゴンを倒して戻ってきましたよー」


 なぜかシェフィがギルドの受け付け嬢に報告してくれた。


「え? もう戻ってきたんですか? こんな深夜に? 普通、最奥までは行くだけで丸一日かかるんですけど?」


「これが証拠です」


 俺は緑に輝く宝石をゴトリと机の上に置く。


「森の緑龍、緑の宝玉...... 今、報告を上げてきます。少しお待ちください。それをお借りしてもよろしいですか?」


「ええどうぞ」


 嬢は宝石を抱えて奥へ走っていった。



「しばらくコルカラの実でも食べて待つか。ほい、2個づつやるよ」


「ありがとー」


「有り難う」


 シェフィは無言で果実にかぶりつく。幸せそうな顔をしてやがるな。


 一方クラムは深刻そうな顔をして、両手に持った赤い実を眺めてばかりいる。


「どうした? クラム。お腹でも痛いのか? トイレ行くか?」


「行きたければ自分で行きます! はぁ、そんなことじゃなくてお願いがあるの、ユート様」


 なんだか最初とはうって変わった態度だな。しんみりしているというかなんというか。


「今までの私の非礼を謝ります。あなたは実力も、見る目もかね備えた人物でした。ですからお願いです、わがクラム家の当主になって欲しいの、貴方ならきっとできる」


「おいおい、いきなりかしこまるなよ怖いな。今までみたいに喋ればいいんだよ」



「有り難う...... 私のお願い、聞いてもらえるかしら?」


「リリはそんな所にいかないよ! 私とのお家もあるんだから!」


 勢いよくシェフィが割り込んできた。彼女の声は少し震えている。俺がいってしまうとでも思ったのだろうか? 俺は握りしめられたシェフィの手を包みこむ。


「大丈夫。シェフィ、俺はどこにも行きやしないよ。クラム、残念だがお前の願いは聞けない。当主なんて、なっても面倒ごとが増えるだけじゃないか」


「そんな......」


「すまないな」


「それなら、私の所に来てくれないなら。私を貴方の仲間にして、いや下僕でいい。だから私と一緒にいて欲しいの」


「うん、それならいいよ。クラムの魔法と戦闘能力は一流だからな。いて役に立つことはあっても、困ることはないだろ」


「有り難う、ユート様」


「様、はやめてくれよ。なんだかこそばゆいだろ」


「なら、ユートさん?」


「ユートでいいよ。シェフィみたいにリリ、って呼んでもいいぞ」


「私のマネはダメ!」


「ははは、今のところはユートにしとこうと思います。ユート、これから宜しく」


「いいもんね。誰が今のリリを誘惑しても、将来は私とリリが一緒になるんだから!」


「私だってまだ当主になってもらうこと。つまり私との結婚を諦めたわけじゃないんだから」


「なんで私がいるとユート様はお付きの女の子とイチャイチャし始めるんですかね?」


 受け付け嬢が戻ってきたようだ。こいつには恥ずかしい場面ばかり見られているような......



「まあ置いておきましょう。ドラゴン討伐の知らせは王城まで届きました。そして騎士ユート様が森のドラゴンを倒したことが認められました! 後日、王からの感謝と謝礼のためにパーティーが開かれますのでお楽しみに」


「分かりました。よし、それじゃあ帰るか。そしてさっさと寝よう。もう夜遅いしな」



 3人で夜道を歩く。俺の横に張り付くようにシェフィ、少し後ろにクラムがいる。


「なんだか今日は妙に瘴気が濃いな。さっきまでの森みたいだ」


「ねえリリ、今日からはクラムもお家で暮らすの?」


「そういうことになるな」


「じゃあクラムの部屋も決めないとね。一番リリから離れた部屋は......」


 シェフィは小さな悪巧みを始めた。はてさて、どうなっていくのやら。よし、家に着いたぞ。ん?


「あれ? なんで私たちのお家が光ってるのー?」


 光ってるというかなんというか、なんで館全体が青白く発光してるんだ?


「ユートって凄い家に住んでるのね...... もしかして2人とも幽霊?」


 そんな訳ないだろ。


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