息子の性格(ショートショート23)
息子はオレに似て気が弱く、思ったことを口に出せないタイプである。
ところが、今日の息子はいつもとちがった。
夕食前のこと。
ゲームは一日一時間、我が家ではそういう決まりになっているのだが、その約束を破って妻に反発しているのだ。
機嫌の悪い妻は鬼のごとしである。
君子危うきに近寄らずの格言どおり、オレはソファーで新聞に目を落とし、二人のやり取りに耳をそばだてていた。
「勉強したって、ムダなんだからね。ボク、ママに似て頭が悪いんだもん」
「なんですって!」
妻の声がとがる。
「ママの頭、サルと変わんないもの」
――おー、なんてことを。
とんでもないことを言うヤツだ。
新聞からそろりと目を上げると、妻のひきつった顔が見えた。
「それにケチで、おこづかいくれないだろ」
これには大賛成。これまでどうしても、オレが口に出せなかったセリフである。
――そうだ、よく言ったぞ!
つい息子を応援したくなった。
「ママ、チビでデブでブスだろ。お化粧したって、ちっともきれいにならないしね」
息子がかさにかかって言う。
――おい、なにもそこまで。
オレは関係ないのにあわてた。
「ママのこと、ほんとはそんなに……」
妻の体が震えている。
怒りを通り越し、今にも泣き出さんばかりである。
――男はな、心で思っても、口に出してはいけないことがあるんだぞ。
息子はまだまだ子供。世間の厳しさを、そしてなによりも女の恐ろしさを知らないのである。
妻がハラハラと涙をこぼした。
これに……。
息子の態度が一変する。
「ママ、ごめんよ。ボク、ほんとはそんなこと、ちっとも思っちゃいないんだからね。ママはすごく頭がいいし、だれよりもきれいだからね」
「だったら、さっき言ったことはなんなのよ」
「ボク、イヤだって言ったんだけど、かわりにどうしても言ってくれって、パパがね」
「ほんとなの?」
妻の目がキッとオレに向いた。
――オレ、そんなこと言ってねえし。
息子の性格は妻に似たようである。