3話 遭遇戦
本日は初回につき4話続けて投稿しております、ご注意ください。
俺はガタガタと揺れる幌馬車の中で目を覚ます。御者席ではメリッサが呆れた顔でこっちに視線を送る。
狐耳もどきはゆらゆらと眠たげに揺れており、暇な時間が続いていたんだと感じさせる。
「おはよう、メリッサ。どうせまだまだなんだ、気楽に行こうぜ、気楽に」
メリッサは自分の横、御者席をたたきながらそれにこたえる
「なら座って話し相手にでもなってよ、私としてはその暇が紛れればちょっとは気楽になれるんじゃないかっておもうんだけど?」
ため息をつくと俺はチェストと木箱の間を何とか抜けて御者席に座る。トラップドア式のライフルを境界線に脱力したように周囲を見渡す。
エルフの集落が近くなっているというのに馬車も狩人も、小動物すら見かけない。荒野を抜けつつあるにもかかわらず生き物の気配がしない、奇妙だ。
周囲はまばらに木々が見える荒野の外れまで来ており、遠方には南部の土壌由来の湿地帯も見えていて、本来は生態系が豊かなはずなのだが……
「あ、気が付いた?おかしいのよね、鳥の一匹すら見かけない、ジェイが言うには繁殖期の特徴だってさ、やばいね、というかこれ危険地帯に突っ込んでる感じだよ?」
メリッサは苦笑する、アメミットの繁殖期ぎりぎりどころか、真っただ中にいるかもしれないらしい。トラブルはいつものことだが、大抵かかわると広がって酷い目に合うんだ、今回ばかりは避けたいところだが……
そうも行かないらしい、急にメリッサの顔がまじめになる。目を瞑り、耳と狐耳、両方をそばだてる様に立てて遠くの音を探り始める……俺が手綱を握り彼女の代わりに馬を進ませる。
しばらくして真剣な顔で何かを探っていた彼女の目が静かに開く。
「やっぱりだ、ユーリー、馬車を止めて武器を用意してよ、南東から小集団、何か来るよ。」
ピューイ、ピューイと口笛で仲間たちに危険を知らせる。馬を止めてムラタ式の41口径レバーアクションピストルを背中から引き抜くと、馬車から離れて手近な岩に上り周囲を確認する。まばらに見える木々と茂みの間を何かがかける。
姿勢が低くて姿は見えないが爬虫類らしきうろこが一瞬見えた。この地域で警戒すべき爬虫類と言ったら一種類しかいない。
「アメミットだ!アメミットの小集団が来るぞ!視認できたやつから撃て!」
そう叫びながらしみったれた旧式の相棒”ポンコツ”をスピンコックして初弾を装填する。
旧式のロケットボールが薬室に滑り込みいつでも撃てる状態に持っていく、既に旧式になって久しい銃だが一世を風靡したおかげで各地に弾丸、ロケットボールの在庫を腐らせてる店が星の数ほどある。普及している弾薬と違って激安と言ってもいい。おかげでいくら撃っても懐に響かない。
試しに適当な茂みに一発打ち込んでみる。外れ、そこには何も潜んでない、代わりにそこから10mほど離れた茂みから爬虫類と獣が混ざったような奇妙な4足歩行の怪物が飛び出してくる。
アメミット、ワニのような長い口としなやかな4本足、見とれるような美しさの鱗、都市で売ればなかなかの値が付くのは知ってるが、奴の爪も牙も人を殺すには強力すぎる。
ライカンスロープとも狼とも違う耳障りな唸り声をあげて突っ込んでくるそいつは、どう見てもこっちの胴体にかみついてそのままミンチにするのが目的にしか見えなかった。
俺は銃をスピンコックしながら続けざまに41口径の弾丸を撃ち込んでいく。頭に当たっても、足に当たっても角度のせいでなかなかに致命傷にならない。装弾数いっぱいの8発まで撃ち込むが奴は軽傷でそのままこっちに突き進んでくる。
あと5m、相手の牙がこちらを食らいつかんと大きく開かれたところでアメミットの体は大きな衝撃を横殴りにうけ、俺からそれて露出している岩肌に体を突っ込ませる。
すかさず腰から44口径のコンバートリボルバーを抜いて頭に2発打ち込んでとどめを刺す。
御者席の上からメリッサ……メルが口笛を吹きならしながらこっちに合図を送る、トラップドアのブリーチロックを跳ね上げるとキーンと弾丸がはじき出される。アメミットどころかライカンスロープにも有効な
大型弾だ、撃つだけの時間さえ稼げれば大抵のやつは殺してもらえる。
バヨネットで活動していたときは俺たちがひきつけ、メルやジェイたちライフルマンが致命打を与えるまで弾幕を張り、牽制して時間を稼いで、あわよくば痛手を与えるのが俺たちの役目だったが……少なくなった俺たちで何処まで戦えるかはわからないが……
「結局今までと戦い方を変えられないあたり、色々と考えなくちゃいけないか」
そう呟くと銃身をずらしてヴォルカニックに弾丸を滑り込ませる。
12インチの銃身に8発装填すると茂みから飛び出してきた次のトカゲ野郎に弾幕を浴びせ始めた。
レバーアクションピストルは黎明期の拳銃の一つであるヴォルカニックピストルの12インチバージョンをモデルとしております。41口径の中途半端な銃の割には使いやすかったです。