精霊の祝福、その呪縛
最初は何とも思わなかったわ。
それが当たり前だと思っていたから。
皆が皆、優しかった。
私のすることに誰もが喜び、笑顔になる。
本当に蝶よ花よと育てられてきたのよ。
だからと言って叱られたことがないわけじゃない。
けどそれは私の為を思ってのことばかりだと分かってた。
本当に本気の本気で憎まれたり妬まれたりしたことはないのよ。
私が王族の人間だからって考えたこともあったわ。
けどおかしいの。
陰口や噂話は毎日そこら中に飛び交っているわ。
そこからのいざこざやすれ違いなんてもの沢山あった。
それは王族だって変わらないしその通りだったの。
だけど変なの。
私だけ何もないの。
一つも、少しも、私のことで私を無視して事が進んでしまうことはなかったのよ。
良くある昔話でね、『あいつは王族だから』なんてからかわれたことがあったわ。
ああ、この人は私のことが気に入らないんだなぁって。
その時の私は何も知らない純朴なままだったから、何とかその人と仲良くなりたいと思ってた。
私の何が気に入らないのか、直せることなら直そうと思ってその子に直接聞いてみたの。
けど、その子は恥ずかしそうにその場から逃げて行った。
他にも似たようなことがあった時に同じことをしてきたわ。
でもその都度相手は手のひらを返したような態度を取ってくるし、陰口を叩くのをやめるどころか逆に私を庇うようなことをする人もいた。
そして中には恋をしてくる人も。
あんなに毛嫌いしてたはずなのに不思議だったわ。
それである時、気が付いたの。
それもどれも私と相手の瞳があった時に全てが変わっていることを。
そして全てがその通りだった。
「私の瞳は相手を魅了する。
どれだけ相手が私を嫌いでも視線があえばそうじゃなくなるの。」
そしてそれは本当の私が見えていないということ。
相手は皆、私がただその人の中で好かれる存在としてインプットされているのだという証拠。
本物の、ありのままの私はそこにはいない…。
静寂の中で静かに紡ぎだされるシェリーの言葉。
歌うように滑らかで消えてしまいそうなほど寂しい声。
カインはそれをジッと見ていた。
「ああ、でもカインは違うみたいね!
私あなたみたいな人は初めてだわ。」
「シェリー、君…。」
少し明るさを取り戻したシェリーにカインは言う。
「それ、ただのまじないだろ?
どんな偉い人が掛けた術だかなんだか知らないけど、まじないはまじないだ。
今の君の話と【精霊の祝福】は全く関係ないと思うね。
現に俺はもう何度も君と瞳を合わせてるがそうじゃないって証明もできてる。」
「別に信じてくれなくていいわよ。
でも、そうね。……あなたは特別なのかも。」
「っ……!」
呆れた口調のカインをシェリーはまっすぐ見つめ返す。
もう何度めだろうか。
今宵出会ったばかりの人間にこう何度も胸の締め付けを感じるのは。
月のように柔らかでその存在を空へ捕って行かれそうな感覚。
この腕に縛り付けておきたい。
カインはシェリーを抱きしめ、少し強引にキスをする。
二人の影がゆっくりと離れ、お互いの手と手を取り合う。
俯き加減のその顔は少しのぼせているよう。
「やっぱりカインも特別じゃなかったのかな。」
「まじないはまじないだ。…シェリー、君は元々魅力的で美しいんだよ。
だから俺は―――。
………特別かどうかなんてどうでもいい。
俺は君を好きになるとかならないとかの問題ではなく、今後一切関わりたくないね。」
急に熱でも冷めたかのようにシェリーの元から立ち去ろうとするカイン。
雰囲気もシェリーを拒絶した時のものに戻っている。
「婚約の件もほとぼりが冷めたころに解消して、俺はこの城をでていくことにする。
それまでは最低限のフリは続けるさ。君もその方が良いだろう?」
婚約の件は理解できる。
でもっ…!
冷徹なカインの態度に納得のいかないシェリーはカインに問う。
「カイン、教えて!
どうして急に…」
「俺はこれでも術には詳しい方なんだ。
あの時、君の身体からオーラが流れてきた。
黒いオーラ。あれは拒絶だ。」
カインが少し考えて言う。
「…そして俺はあのオーラに関することには一切関わりたくない。
だから君を好きにならないし、婚約のフリがなければすぐにでもここを離れたいと思っている。」
「…それって【精霊の祝福】のオーラだったりするの?」
「いや、違う。あの手のまじないのものとは全く別だ。関係ない。
特に君や無差別に危害を加えるものではなさそうだし、これ以上君が知る必要もないさ。」
そう言い、シェリーに背を向けて部屋の扉へと歩き出す。
苦々しい顔をして話していた。
それは今もそうなのかな。
「じゃあ、しばらくの間宜しく頼むよ。」
カインは振り返ることなく部屋を出ていく。
バタンと扉のしまる音が響いた。
「黒いオーラ…?」
シェリーの呟いた声と芽生えたモノの軌跡がそこには残った。
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