交われない感情
カインの出現により、シェリーの婚約者を選ぶパーティーはただのパーティーとなった。
しかし、それと同時に周囲からの質問も集中する。
当たり障りない質問にはそれなりの返答をしておいたが、確信をつかれそうな問題には笑顔で巻いた。
それが周りには照れ隠しと取られたようだったが、それはそれで好都合だった。
パーティーが終わるころには流石のシェリーも疲れ切ってしまい、自室のソファーに身を投じる。
「疲れた…。
人の興味ってどうしてこう尽きないのかしら…。」
「いや、全く。
人の好奇心はエネルギーの塊だね。」
「っ!どうしてあなたがここにいるのかしら。」
自室のはずなのにカインがいる。
驚き、身を起こしたシェリーは少し乱れた髪を整える。
そんなシェリーを見てカインは柔らかく微笑んだ。
「いいさ、くつろいでて。お互い質問攻めで大変だったな。
俺としては素敵な女性に囲まれてとてもラッキーだったけど。
お城に集まる女性は皆魅力的だしね。ほら、連絡先こんなにもらっちゃった。」
「今のであなたがどんな人なのか、大体わかったわ。」
両手いっぱいに洋紙の破片を持ったカインを一瞥する。
カインがクスリと笑う。
「やきもち?」
「違うわよ!」
どうして会って間もない人にやきもちなんて妬くのよ!
シェリーはカインから顔を背けたが、その頬をカインの手が優しく包み視線を合わせる。
「シェリーが一番だよ。
こんなに美しい女性は見たことない。」
「う…嘘言わないで下さる!?
そんな私に真っ先に脅しをかけてきたじゃない!」
「あの状況だと仕方ないじゃないか。
…それに嘘じゃない。」
窓から月明かりが差し込む。
密やかに白い光がシェリーとカインを包み込む。
「君と目があった瞬間、その姿に俺の全てが奪われたのは真実だ。」
キラキラときらめく銀色の髪。
月明かりを反射して煌めく金色の瞳。
やっぱり、あの星だわ。
……とても、綺麗。
そっと近づいてくその光景にシェリーは目をそらせずにいた。
月明かりが照らす中、二人の影が重なり合おうとしたその時、バチリと裂くような音が響いた。
「きゃっ」
「っ…!?」
カインはシェリーに触れていた手から電流のような痺れを感じ取り、咄嗟に距離を取る。
指先にはビリビリとした感覚が残っていた。
「これは…。」
カインは意味ありげな言葉を発したかと思うと、次の瞬間にはシェリーを鋭い目で見ていた。
「お前、誰だ?」
「え、何?一体どういうこと…。」
カインの冷たい声。
身に覚えのない質問にシェリーは戸惑いを隠せないでいる。
そしてそれと同時に胸の鼓動の高鳴りを感じていた。
先程の破裂音に驚いたのではない。
それとはまた別の理由。
カインがあのような目で私を見ているからだ。
あのような目、私は知らない。
あれは何?
ふと気が付くとカインの表情は先程のものではなく、一人物憂げに考え事をしていた。
「いや、ちがう…。シェリーがどうこうってわけじゃない。あれは…。」
「…ねぇ、一体なんなの?」
そうシェリーが近寄り、手で触れようとする。
「触れるな!」
乾いた音と同時にシェリーの手はカインによって弾かれた。
唐突の拒絶。
空気が静まり、部屋に沈黙が流れる。
なっ…!なに!?なんなの!!
さっきまであんなことしようとしてたくせに…訳がわからないわ!
先程の雰囲気とは打って変わったカインの態度にシェリーは憤りを感じた。
それに今の態度!
今まであんな風に睨まれて、手を弾かれるなんて。
こんな仕打ちをされたことなんて一度もないのに。
この私を拒絶して…っ!?…あれ?
カインに疑問を感じたシェリーは怒りを鎮め、カインを不思議な目で見る。
……そういえば、どうして?
そう思うと同時にカインの頬を両手でつかみ顔を近づけていた。
「ぅわっ…おい!離せ!!」
「黙りなさい!」
シェリーの急な接近に抗おうとするカインを一蹴する。
鼻と鼻、息と息がかかりそうな程近づく二人。
「黙って私の瞳を見て。」
ジッと沈黙が漂う。
シェリーの艶やかなエメラルドの瞳にカインの姿がくっきりと浮かび上がる。
その美しさに吸い込まれそうになるカインだが、己の真なる感情でそれを抑える。
数秒の時間が何分にも感じられた所でシェリーが問う。
「どう?」
「なんだ?キスでもしてほしいのか?」
「違うわよ!」
検討違いの返答にカインを突き放す。
「その…ドキドキしたりとか、私のことを好きだとか思わない?」
「はあ?」
突拍子もないシェリーの発言に思わず笑いが込み上げる。
「ぶっ……くく…っはあー、苦しいっ。シェリー、君どんだけ自信家なんだよ!」
「そ、そうじゃなくて!【精霊の祝福】よ!!」
「精霊の祝福?」
ひとしきりカインに笑われ、急いで訂正を促した。
精霊の祝福。
王族の者が産まれたその日に宮廷遣いの術者から贈られる幸せのまじない。
私に贈られた精霊の祝福は、
「魅力のまじないなの。」
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