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王女様の恋愛事情  作者: 壱弐
2/5

星のプリンス

「っ……ふ…っ!」


重なる唇から漏れる息。


というか重い!重いわ!!

酷く圧し掛かってくる重さに逆らえず身動きが取れない。

何とか持ち上げようと身体を押し返すも動かない。


この方、体格からして男性…?


………!


私、男とキスしてるの!?

しかも見ず知らずの方と…!?

こんなこと周りにばれたら!


シェリーは瞬時に可能な範囲で辺りを見渡した。

先程の衝撃で周囲は静まり返っており、近くに人の動く気配も感じられない。

幸い、男の身体がホールからの死角となっていて直ぐにこの場を目撃されるわけではなさそうだ。

シェリーは少しの安堵を覚える。


でも、それも時間の問題だわ。

この事態にまず衛兵たちは私の無事を確認に来るはず。

そうなればこの現場を見られてしまう。

何も良いわけできなくなるわ…。


大事になる前に早くどいてー!!


「んぅー!んんー!!」


必死の思いで男の身体を叩き、言葉にならない声がこぼれ落ちる。

緊張と焦りがシェリーの脳内を渦巻く。


「う…」


シェリーの想いが届いてか、男の眉が僅かに動き、ゆっくりと瞼が開く。

金色の瞳がシェリーの緑の瞳と交差する。

銀色の髪が視界を過ぎり、その様はまるで…。


あの空の星。





「下がれ」


唐突に白く光る刃が男とシェリーの間に差し込まれた。

気がつけば周囲は動き出しており、軽い混乱を巻き起こしているようだ。

シェリーの所へは事態の騒ぎに駆けつけた衛兵がいた。

衛兵は突然現れた男を睨みつけている。


まさか、見られた―――!


シェリーの心臓がドクドクと波打つ。

身体が強張り、視線が下へ逸れる。

ふと、男と目があった。

男はシェリーを見た後、柔らかな笑みを浮かべ衛兵へと向き合う。


「貴様、何者だ。どうやってここへ来た。」

「名はカイン。愛の力でここへ来た。」

 

は?


「ふざけるな!」

「ふざけてなどいないさ。」


カインと名乗った男は余裕の態度で怒りを見せる衛兵の持つその剣をそっと押し退け、シェリーの手を取る。

そうして横たわったままだった私を引き上げ、その身体を抱き寄せた。


「俺はこいつの婚約者なんだ。来てあたりまえだろう?」


その言葉に周囲が大きくざわめき出す。


「ちょっと何を言っっ……!」


突然の発言に思わず声を出しそうになったところ、その口をカインの手が塞がれる。

そしてそっと耳元で呟いてきた。


「少しでいい、助けてくれ。」

「どうして私が…!!」


「じゃなきゃキスのことバラす。」


―――この男!


ちらりとカインを見上げる。

カインは相変わらずの微笑みで私を見ていた。

カインが一言小さく呟く。


「お姫様?」


この人、私が王族の姫だと分かってて言ってる!

キスしたこと、衛兵にバレてるかもしれないわ…。

でももし婚約者だってことにしておけばバレてても問題はないし、バラされても説明ができる。

問題は婚約者じゃないって分かった上に、キスのことを持ち出されてしまうこと。

そうなったら私の婚約どころか姫としての立場自体が危うい……!


「シェリー?」


考えを巡らせていたところに名を呼ばれ我にかえった。

気がつけばそこにいたのは、


「お父様…。」


この国の王でシェリーの父。

若くして王位を継いだためか、見た目はまだ若くある。


「どういうことか説明してくれるね?」


威厳をもつ姿勢を呈しているが、その瞳は大切な娘を思うその気持ちそのものだ。

シェリーはカインの腕をつかんでいた手にギュッと力を込める。


「…じつは、ずっと心に決めた方がいて…この方がそうなの。」

「どうして今まで何も言わなかったんだ。知っていたらこんな場を設け、お前を苦しめるようなことなどしなかった。」

「それは…その…。」


どうしよう、なんて言えば。

この方とは先程初めて会ったばかりだし…。


「お初にお目にかかります、国王陛下。シェリー様に代わり、発言を失礼します。」


シェリーが何も言えず困っていると、カインがシェリーを庇うように前に立った。


「私はカイン。旅の者です。

 シェリー様は私とシェリー様の身分が余りにも違うため、報告することができなかったのです。

 彼女はいつもそのことを悩んでいて…。そしてそのままこの日が来てしまいました。

 彼女は王族という立場と私を想う気持ちの板挟みで酷く苦しんでいると思います。

 私もそんな彼女の為、一時は離れることも考えましたができませんでした。

 私たちの愛は本物だからです。その証拠となるため私がここまで来ました!

 何があっても彼女を守り、幸せにできるのは私だけです!

 私にはその覚悟がある!!」


そう力強く熱弁を奮うカインはシェリーの肩をも強く抱き、手を握りしめる。

シェリーは半ば放心状態になりながら為されるがままだった。

よくもまあ瞬時にそんなでたらめを…。

何だかよくある話だし、これで本当に誤魔化せたのかしら…。


「シェリー。」


カインに名を呼ばれ、混乱した意識を取り戻す。

周囲や国王の顔色を見ると半信半疑といったところだ。


ここで私がこの話を真実と認めれば…!


「お父様、ごめんなさい。

 でも私、本気なのです!

 彼…カインとは真実の愛で深く繋がっていると信じています!

 ……どうかお許しを。」


ここぞとばかりに切なく、情に訴える表情を押し出すシェリー。

愛娘にここまでされては国王も胸が熱く締め付けられ、どうすることもできない。


「何を言う、シェリー。

 私はもとよりお前が心から愛する者との婚約しか望んでなどいない。

 彼もなかなかに誠実な方のようだ。許すも何も…幸せになりなさい。」

「お父様…!」


な、なんとかなったわ!

ひとまずの終息にホッと胸を撫で下ろす。


「ところでカインと言ったな。一応君のことを聞いておきたい。他に家族などは?」

「あいにく他に家族は…旅も一人旅でして。」

「そうか。

 ではカイン。今日からココが君の家だ。

 なに、いずれは本当の家族となるのだ。好きに使ってくれて構わない。

 どうぞシェリーを宜しく頼むよ。」

「有難きお言葉。こちらこそ宜しくお願いします。」


他に家族がいない…?

それも【設定】なのかしら。


応援コメント等、よろしくおねがいします。

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