ないものねだり、その先に
ああ、もう何度目かしら。
「好きです!」
ええと…、この方は確か……
いえ、考えるのはやめましょう。
どうせこの方も、―――――――。
†
光り輝く照明とそれを纏いより一層キラキラと輝く装飾品たち。
大ホールは沢山の人が集まっており、ホールの片隅には音楽を奏でる黒い服の人々。
雅な音楽がホール中の空気を振るわせ、人々の心を、身体を躍らせる。
ここにいる殆どの人は貴族の紳士淑女たち。
豪華な食事にシャンパン、ワイン。
今宵は舞踏会。
レースや宝石、流行りの服で身を着飾った者たちばかりが視界を占領する。
それに例えられるは私も同じ。いいえ、きっともっと特別。
玉座から場を見下ろす。
金の縁取り、そこに施された豪華な装飾品。
背が高く座り心地はふかふかと良さそうな赤色の椅子。
そこに座るは1人の少女。
第1王女、シェリー。
それが私の名前。
今日は私が17歳になった日。
今宵の舞踏会は私の為に催された。
私の婚約者を選ぶために―――。
「――――――ふう…。」
参加者からの祝辞を一通り聞き終えたところで軽く息を吐き出す。
お祝いをして頂けるのは嬉しいけれど、流石に少し疲れたわ。
人の熱気にもやられる。
少し外の風にあたりたい…。
「少し席を外しますね。」
傍らにいた衛兵に一言声を掛ける。
疲れていてもなるべく笑顔で。
それが上に立つ者の最低限の礼儀。
玉座のある場所から階段を降り、ホール脇のバルコニーへ向かう。
彼女が進むたび人の垣根が割れていく。
そして彼女の姿をその瞳に入れたものから彼女から目が離せなくなる。
時折見惚れたのであろう溜息が聞こえる。
それほど彼女は美しい。
ラベンダー色のドレスに合う薄ピンクの長い髪。
すらっとして腰ほどまであり、彼女の動きに合わせてしなやかに翻っている。
眉目秀麗。
瞳の色はエメラルド。
まるで宝石のようにキラキラと輝く。
バルコニーの手すりに手を掛け空へ向けてすうーっと息を吸い込む。
今宵の空はキラキラと幾重もの星が輝き、吸い込んだ息とともに呑み込めてしまいそうなほど澄んでいた。
吸い込んだ息をハーと吐きだしシェリーは身体が軽くなった気がした。
「綺麗……。」
ただそこにあるだけでこんなにも輝く星たち。
何をするわけでもなく、ただただそこにあるだけ。
そっと空へ手を伸ばし輝きをつかもうとする。
かざした手に隠れた星たちは当たり前に掴めず力なく腕をおろしてしまう。
後ろを少し振り返る。
ホールの眩しさに目を細め、
「作られた輝きも綺麗だけれど、やっぱり私はこっちのほうがいいわ。
何もしていないはずなのに、身に付けた宝石よりも美しい光…。
何もしていないのは私も同じなのにこんなにも違うなんてね…。
自由なあの輝きが羨ましい……。」
顔を上げると変わらずに煌めく光景が目に映る。
胸がキュッと切なくなる。
「あのっ―――!」
不意に後ろから声が掛かり振り返る。
室内の明かりによって長く伸びた影の先には一人の青年。
顔は良く見えないが白のドレスコートを着ている。
「こ、今宵は誠におめでとうございますっ!
あ、あの!よかったらお隣宜しいでしょうか。
その…少しお話でも……。」
「……ええ、喜んで。」
シェリーは微笑み応える。
正直の所、まだ一人にしておいてほしかったけれど……仕方ないわよね。
今回はそういう目的の会だもの。
さあ、笑顔笑顔…。
青年はシェリーを一通り褒め称えたあと、自分の身の上話をはじめた。
それにシェリーは所々相槌を入れ、時には笑う。
傍から見れば楽しそうに談笑しているように見えるだろう。
「―――で、わたしは思ったのです。」
青年がシェリーの華奢な手を取る。
青年の振れた手から、表情から、緊張が伝わってくる。
先程までの雰囲気がガラリと変わる。
「ぁ…、あなたの生涯の伴侶になれたらどれほど幸せなことかと!」
勇気を振り絞って声を出す。
「シェリー様、あなたのことが、……好きです!」
二人を気にしながら遠巻きに見ていた者たちが密かにざわめく。
中には抜け駆けやら、俺だって等と言った声も聞こえる。
しかしそんな中表情を変えずただじっと見守るものがいた。
それは告白されたシェリー自身。
ああ、まただわ。
もう何度目かしら。
ええと…、この方の名は確か……
いえ、考えるのはやめましょう。
どうせこの方も、
【本当に】、私のことを愛してはいないのだから。
青年から己の手を引き、少し悲しげな表情をしたシェリーが告白の断りを口にしようとした瞬間――――――
体中を揺さぶられる程の轟きが空から聞こえ、辺りは目も開けられない程真っ白に光輝いた。
直後シェリーの身体に衝撃が起こり、その場に倒れこむ。
全てが治まるのをまって目を開けると目の前には人の顔。
突然の出来事に頭が付いていかず暫し茫然となるが、ただ1つ確かに分かることがあった。
何かが私に触れている。
私の唇に重なるものがある。
目の前の人物はシェリーの上に圧し掛かるように被さっている。
その重さに身動きが取れなずにいたが、優しい感触がそこにはあった。
見ず知らずの者とキス。
あまりの衝撃的な出会いに現実を感じられなかった。
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