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第1話

今日は何ともおかしな日だ。


いつも通りに朝起きてTVを付けたらアイドル特集しかやらず、毎朝のようにやっていたスポーツや政治のニュースが全くやらなかった。

まあ、アイドルに興味はそんなに無いからTVを消して出勤まで二度寝することにした。


出勤時間になったのでいつも通りスーツを着て出勤したが、いつも電車が一緒になる同期と話していてもアイドルの話しかしない。

こいつはギャル好きだけどアイドルは興味なかったと思ったんだけどなあ。


会社に行ってからも妙におかしかった。

仕事こそいつも通りPCでやるものの、インターネットもいつものサイトには接続できなくなっている。

インストールされていたはずのOSやソフトも聞いたことが無いもので、ただ仕様面なんかはいつもと変わりなかったため、何とか問題にはならなかった。

土日の休みの間に入れ替えでも行われたのだろうか。

ヤフーも、グーグルにも繋がらず、お気に入りに入っていた聞いたことも無い検索サイトを使わなければならなかった。


そんなこんなで昼休みになったわけだが、いつもはクラシックしか流れないはずの食堂の社内放送も古めかしい歌謡曲のような曲調のものばかりが流れている。

あの古臭い、ボイトレもしていないような声の歌い方だ。

正直趣味ではないのだが、周りは普通にしているので何かのイベントだろうか。

メールでそういった旨は通達されていなかったと思うのだけど。

何よりおかしかったのはロック好きで演歌やバラードが大嫌いだと公言して憚らない同期が、放送されている歌謡曲を絶賛していたことだ。

同期にOSやソフトの件を聞いてみても不思議な顔をされるばかりであった。


その後も何もかもがおかしかった。

上司に振られる雑談もアイドル話。

取引先との打合せの中でもアイドル話。

別の取引先からヴェイグが近くに現れたせいで納品が遅れる旨の連絡。

・・・ヴェイグ?


新しい単語が出てきた。

聞いたことも無いものに襲われたため納品が遅れると言うのだ。


「はぁ、私どもと致しましても予定通りに納品いただきませんと中々難しいのですが。」


「はい。それは充分承知いたしております。しかしヴェイグが出てしまった以上、避難するしかございませんで。なんとか、なんとか遅れは余り出ないように致しますので。」


何なんだ、「大体ヴェイグのせい」といえば許されるとでも思っているのだろうか。


「承知いたしました。でしたら余裕を見て4日後までということで。」

俺の回答に安堵したのか、取引先の調子もいつもの通りに戻る。

まったく、正直に遅れていると言えば気分も悪くならないものを。


「ありがとうございます!その期日までには必ず、必ずお納めいたしますので。」


その後はいつも通り少しの雑談と相槌で電話を切る流れなのだが。


「そうそう。そのヴェイグが出た時ですが、駆けつけてくれたのが75中隊でしてな。いや〜、あの生歌が聴けたのはラッキーでしたよ。」


中隊?生歌?

避難しなければならないのだから誘導の警察や機動隊と思えば中隊という言い方も理解できる。

なら生歌とはなんだ?警察や機動隊が歌いながら誘導するとでも言いたいのか?


「はあ、中隊・・・ですか?」


「おや、ご存知ないですか?皇国陸軍首都防衛連隊の75中隊と、そこの所属のカグヤちゃんですよ。いや〜、この年になってですがあんなアイドルが娘だったらなあと思わされますな〜。」


ギャグで言っているのか?

それとも俺を馬鹿にしているのか?

仕事が遅れた理由に関わるはずが、軍隊?しかもそこにアイドル?カグヤちゃん?

アイドルコンサートに行ってきましたといわれた方が納得できるぞ。


「おっと、年甲斐もなくはしゃいでしまい失礼しました。それでは、部品は4日後の期日までには必ず納品いたしますので。」


「え、ええ。はい、承知しました。よろしくお願いします。」


――契約を切ることも考えた方がいいだろうか。

電話を切りながらそんな事を考えていた。

しかしながらまずは部品の納品が遅れることを関連部署へ通達するために腰を上げた。


しかし、その連絡をする端から

「おお、75中隊ということはカグヤちゃんか!羨ましいなあ。」

だの、

「カグヤちゃんの生歌とはついてるね。」

だの、

「ヴェイグが来たんなら仕方ないな。」

だのと、当然のことを言っているかのような物言いばかりであった。


どうにもおかしい。

定時になるまでそんな状態で、いっそ自分がおかしくなっただけじゃないかと疑い始めていた。

まずは帰って色々と調べてみようと会社を出たところで、気付かないフリをしていた『現実』を、叩きつけられることになる。




突如鳴り響くサイレン。

火事の時になるような、甲子園の始まりを告げるような、あのサイレン音がする。サイレンの理由を声を荒げることなく、淡々と告げるアナウンス。


『緊急警報発令。緊急警報発令。避難区域に指定された箇所にいる人は、至急、避難を開始してください。』


避難、警報?一体なにからの?

揺れていない――地震ではない。

煙も無い――火事でもない。

すわテロかとも思ったが、爆発したような気配や逃げ惑う人もいない。

ただ、放送の通りに周囲の人々は一方向に向かって歩みを進めていく。

事態が把握できず、しかし周囲に流れた方が良かろうと同じ方向へ歩いていると、前方より歓声が上がり、その歓声はこちらへと近づいてくる。

一体何の歓声かと思っていると、


「506中隊が来たぞーー!」


そんな声と共に、ジープのような車や装甲車のような車が次々と俺達のやってきた方向へと向かっていく。


「おいおい、避難するんじゃないのか。」


そんな車を追いかけるように、避難していたはずの人たちが方向転換して戻ってくる。

急いで追いかける必要でもあるのか、皆走ってこちらへと向かってくる。

流れに逆らって、このまま行こうとしても潰されそうだ。

人の流れ乗ってやってきた方向へと戻ることになった。


数百mも走らないうちに前方に先ほど走り去った車が見えてくる。

車の向こうには戦闘服だろうか、SWATやSATのような特殊部隊が着ていそうな装備を身に纏った兵士達がバリケードをはり、銃器を構えて展開していた。


「――なんだよ、ありゃあ。」


バリケードの向こう側。

まだ遠くにあり詳細までは見て取れないものの、ひと目でわかる化け物に、恐れが呟きになって口からこぼれる。


それは(まさ)しく化け物だった。

犬のような手足に、体の前面が全て口のようになった球状のモノ。

金鎚のようなクビと頭を持つ、無数の足で這い回るモノ。


人智をおおよそ超えたおぞましいモノ達。

その姿は通常の進化では考えられないような姿。

深海魚が形をそのままに、陸上に適応したかのような形。

そして何より、なぜか背後が透けて見えるような半透明の身体。


そんな化け物を目の当たりにして、ようやく俺は自分がおかしな世界に紛れ込んだことを理解した。

守るためだけにいる自衛隊ですら批判されていたはずの国。

警官が犯罪者に銃で威嚇することも非難されていたはずの国。

戦争や、紛争なんて言葉は、人権屋や本の中、TVの向こうの出来事でしかなかったはずの国。

そんな平和ボケともいえるほどの国だったはずの日本は、その情景からは影も形も感じ取れなかった。


こちらへと襲い来る化け物。

大きな銃やロケット砲などを構え迎え撃とうとしている軍人のような人たち。

それをなんでもないかのように、いや何かを期待して見ている群集たち。


なんだ、何なんだ。この世界(異常)は一体なんなんだ!?

吐き気すら催しそうな違和感。

自分の今までの常識が根底から崩れていくことへの恐怖。

そんな感情でグチャグチャになった頭を抱えているところへ、音楽が鳴り響く。


「――は?」


音楽が鳴り響くと、周りにいた避難するべきはずの群衆から歓声が上がる。

皆が口をそろえて同じ言葉を発している。

名前だろうか。同じ言葉を繰り返し、繰り返し、叫び続けている。


―コーハール!コーハール!―


名前だろうか。コハルというその声に応えるかのように、兵士達の、それも一番防御が固められた場所に止まっていたトラックが変化を見せる。


トラックの箱状になっている荷台の壁が左右開き、舞台が現れる。

ライトで照らされ、スピーカーからは音楽が流れる、まさにアイドルのライブステージと言ったものが完成した。


「あ、TVの撮影か。」


思わず俺はそんな判断を下す。

そりゃそうだろう。

これから戦いでも始まるのかと思ったら、音楽が鳴り響いてライブステージが現れるとかTVの撮影っていってしまう方が一番しっくり来るわ。


うわ、恥ずかしー。

なにが、おかしな世界に紛れ込んだ(キリッ)、だよ。

普通にTVとかPVとかの撮影ならありえることじゃねえか。

そんな事をつらつらと考えているとき、先ほどまでの歓声よりもさらに大きな声が上がる。もはや絶叫だ。


―ワァァァァァァ―


余りの大声に首を竦めると、トラックの舞台に誰かが立っているのに気付く。


それは、普通の少女に見えた。


野暮ったい長袖のシャツに、足元まで隠しているスカートという出で立ち。


髪は自然な黒で、三つ編みに編まれている。


年の頃は14,5といったところだろうか。


化粧っ気も全く無い、純朴そうな少女に見える。


少女はマイクを両手で握り締め、息を深く吸い込むと、音楽にあわせて歌い始めた。






「うっわ・・・。」


思わず声が漏れる。












地声そのままと言えるような歌声。


棒立ちでマイクを握り締めてただ歌う少女。


曲調は昭和を髣髴とさせる歌謡曲調。


アイドルに詳しくない俺でも、

【これはアイドルじゃない。】

それだけは言い切れた。


それでも観衆は聞きほれている。

これが名曲であるかのように。

彼女が素晴らしい歌い手であるかのように。


俺は聞いていられないと、聴衆たちから離れ先ほどの化け物の姿をしているエキストラの方を向く。


「撮影、なんだよな?」


そこには地獄絵図が広がっていた。

銃や装甲車に付けられた大砲、ロケットランチャーのような兵器。

軍装をしたエキストラ(?)たちは化け物の格好をしたエキストラ(?)に向かって攻撃を仕掛けていた。

武器によって吹き飛ばされる化け物の姿をしたモノ達。

中に人間が入っているようにも見えず、鮮やかなオレンジ色に見える血肉を撒き散らして死んでいく。

先ほどまでは半透明に透けていたが、気付けばしっかりと像を結び、半透明ではなくなっていた。


「ゴブッ。ゲェ―」


凄惨な光景を前に胸からこみ上げてくるものを堪えることもできず、その場に吐き出した。

叫び声を上げながら殺される人には見えない化け物。

鮮やかなオレンジの血肉という現実味のない色なのに、立ち込める火薬の匂いと、むせ返るような生ごみのような臭い。

空気にぐちゃぐちゃと混じり合い、臭いが脳に突き刺さりこれは夢じゃないと刻みつけてくる。


銃が撃たれる――小さな化け物の頭が弾ける。


大砲が撃たれる――まとめて何匹もの化け物がぐちゃぐちゃになる。


化け物が頭を振るう――最前線で盾を構えた兵士の頭が消える。


化け物が食らいつく――銃ごと腕を食われ、銃が爆発し、化け物ごと兵士が吹き飛ぶ。


兵士が殺し殺され、化け物が殺し殺される。

まるで現実感の無い光景。

背中から調子の外れた歌謡曲が流れてくるのがそれに拍車をかける。

呆と、地面にへたり込んでその光景を目にしていた。



「大丈夫かね?」


そんな声に顔を上げると、少しくたびれたスーツを着た壮年の男性が俺を見下ろしていた。


「ふむ、こっちに来るといい。落ち着ける場所で休んだほうがよかろう。」


意識は自失したまま、男性に連れられて一際大きな装甲車へと連れられていく。


装甲車の中は、これまた場違いな空間が広がっていた。

まず、入り口に玄関があった。

下足を脱ぎ、出されたスリッパに履き替えて中へと入る。

フローリングの床に、毛足の長いラグマット。

マットの真ん中には楕円のテーブルが置かれ、それを囲むようにソファが配置されていた。

部屋の奥にはカウンターキッチンが設置され、目隠しをして連れてこられたら装甲車の中とはとても思えない空間である。


「そこにかけたまえ。今温まるものを淹れよう。」


声に従うように、一番入り口に近いソファに座る。

意識がぼんやりしていても下座に座ろうとするのは、若手サラリーマンの悲しい性だ。

ソファに座りながらも意識はまとまらない。

さっきの光景が頭から離れず、自分の置かれた状況が理解できていない。

そんな俺の様子が、部屋の奥の扉を見ているように見えたのか壮年の男性からからかうような声がかかる。


「ふふふ、扉の奥が気になるかね?残念だがあそこは最重要機密でね。見せることはできんのだよ。」


声に反応するように男性に顔を向けたのを自身の発言が恐がらせたのかと思ったのか、イタズラをばらすような口調でおどける。


「真面目だなあ。なに、ただの冗談だよ。あそこはうちの更衣室でね。流石に立ち入り禁止というだけさ。まあ、ファンからすれば最重要機密とも言えるかもしれんが。」


茶化すように言いながら、緑茶が差し出される。


「飲みたまえ、お茶を飲むと心が落ち着くよ。」


「ありがとうございます。」


お礼を言いながらお茶を受け取り、しばし互いがお茶を啜る音だけが響く。


「なぜ?と聞いてもいいかね?」


重要な話をするかのように、重々しく男性は口を開く。


「それは、あの場所にいた理由ですか。それともああなっていた理由、ですか。」


「ああなっていた理由、だね。あそこにいるだけなら他にも大勢いた。だが、君は彼らと違い歌を聴くでもない。ヴェイグが恐いにしても逃げるわけでもない。こう、引っかかるものがあってね、それで声をかけたというわけさ。」


諭すようにあくまでも落ち着いた声をかけてくる男性。

流石に異世界から来たかもしれないなんていえるはずもない。

しかし、会話の中で気付いたこともあった。


「あれがヴェイグ、ですか。」


ぽつり。


と、漏れ出るように呟いたその言葉をしっかりと聞いたのか、男性は訝しげな顔をする。


「ふむ。まるでヴェイグを初めて見たかのような言いようだね。どこの田舎にだって、ヴェイグの脅威はあるだろう。ましてや君のような若者なら、生まれたときからその脅威は存在していたはずだが。」


自分で語りながら俺の身の上が気になりだしたのか、段々と目の輝きを強めながら男性は考察を続ける。


「アイドルに興味も無いのに、避難命令を無視してここまで来た?いや、何からの避難かもわかっていなければ周囲に釣られてくるか。ヴェイグを見たことが無い?ふむ、ヴェイグのことも知らないような田舎からきたのか?いや、それにしては持ち物など見ると生活圏はこの周辺だろう。ふぅむ――」


ブツブツと、考察が深みにはまっているようで、すっかり自分の世界に入り込んでしまっている。

しまった。と思う。幾ら気が緩んだとはいえ、呟きを漏らすべきではなかった。

正直に言ったとしても狂人扱い。ああして銃が簡単にぶっ放されているのだ。下手をすれば不審者として撃たれかねない。

おかしなことになるまえに家に帰ってしまおうと腰を上げるが。


「例えば、ヴェイグのいない異世界から来た。というのはどうかね?」

思わず男性の顔を見つめてしまった。

反応をしたあとで、手遅れになる行動を取ったことに内心舌を打つ。

しかし、その反応で確信を持ってしまったのだろう。

男性はニヤリと笑い、目を輝かせて機関銃のように質問を浴びせてくる。


「ほうほう!本当にそうなのか!いや、言ってみるものだ。小説では読んだことがあるが、まさか本当にそんな人がいるとは。それも私の目の前に!教えてくれないかね?どんな世界だい?ヴェイグのいない世界というのは。アイドルはいるのかね?君の世界の日本はどんな国なのかね?」


あまりに勢い込む男性に、目を瞬かせる。

俺の反応を見て、少し冷静になったようで


「あー、すまない。つい興奮してしまってね。ふむ、一つだけ聞かせて欲しい。異世界から来た君から見て、うちのアイドルはどうかね?」


「うちの、ですか?」


俺の挟んだ疑問の声に手を打ち、呵呵大笑する男性。


「はっはっは。すまんな、そういえば自己紹介もしていなかったか。私は杉田長社スギタミチタカ。神楽坂芸能事務所の社長をしている者だ。外で歌っているコハルはうちのアイドルなのだよ。それで異世界から来た君の感想をききたいというわけだ。」


「は、はあ。そういえば僕もお礼が遅れてしまい失礼致しました。僕は藤崎守フジサキマモルと申します。助けてくださりありがとうございました。」


「ほう、異世界と言っても名前は私達と同じような名前なのだね。」


うんうん、と頷きながら杉田さんは面白そうに語る。


「それでは改めて教えて欲しい。うちのアイドルはどうだったかね?」

正直、答えるのは心苦しい。

聴いていられないと思いライブを後にして、戦場を見て吐いていたところを助けられたのだ。

それに、異世界と言われて反応してしまったが、本当に異世界に来ただなんて考えたくない。

朝起きた時に部屋にあったものは同じだったし、会社も変わっていない。

異世界にくるような特別なことなど何も起こっていない。

ただ、アイドル文化が幅を利かせて、ヴェイグとか言う奴らがいることくらいしか大きな違いがないのだ。

ヴェイグは致命的かもしれないが、それでも異世界と言われるよりは知らないうちに攻めてきていたと言われた方がまだ理解が追いつく。

俺が黙っているのを答え難いと思ったのか、


「いや、忌憚の無い意見を是非言ってもらいたい。改善すべき点があるのならまだまだ成長できるということだからね。」


何でも言ってくれと、胸を張りながら聴いてくる杉田さん。

自分が思うところを言えば、それは彼と、あのアイドルを傷つけるだろう。

しかし、それを成長の糧にしたいといっている恩人に今の俺が返せる唯一のものはこれくらいのもの。

ならば、


「正直に申し上げれば、私達の世界では彼女をアイドルだといっても信じる人はいないでしょう。」


率直過ぎる物言いだったが杉田さんは続けたまえ、と促してくる。


「あくまでも私見であるということは前置きさせて下さい。まず、声です。トレーニングもしていないような声で、しかも地声で歌っている。正直聴いているのが辛かったため、戦場の方に目を向けたためにああなっていました。次に曲です。私の感覚で言えば30年前に流行っていたような曲調です。これは、時代時代での好みだとは思いますが古臭いという印象は受けました。そして、重要な見た目です。あれでは余りに野暮ったい。少なくともアイドルといわれても首を傾げざるをえない。これが、私の正直な感想です。」


言った。

言ってしまった。

出てけといわれるくらいならいいが、下手をしたら撃たれるかもしれないなあ。

杉田さんの胸の辺りに思いっきり銃がぶらさがってるし。

話しながら気付いて、話し終わった今となってはメチャクチャ恐い。

俯いて恐る恐る反応を待っていると


「んだとおらあぁぁぁーーー!!」


「ちょ!?え!?なに!?」


突然現れた女の子に胸倉を掴まれて恫喝される。

俺を激しく揺さぶりながら少女は吠える。


「さっきから大人しく聞いてりゃあ散々に言ってくれやがって!異世界から来たとか嘯くキチガイ野郎がご高説垂れてんじゃねえぞこらぁ!」

「いや、ちょ。だから。」


「いや〜すまんね。実は彼女がキッチンの裏で聞いていたのだよ。はっはっは。まさかああまで言われるとは予想していなかったのでね。参った参った。」


胸倉を掴みながら睨み付けてくる少女。

笑いながらそれを見ている杉田さん。

されるがままの俺。

室内は混沌の様相を呈していた。




しばし後。

一応の落ち着きを見せ、少女は杉田さんの横でこちらに顔を向けぬように座り、テーブルを挟んで俺が座っている。

少女は時々こちらを睨み付けては凄んでみせ、俺は揺さぶられたことでスーツがかなり着崩れてしまっている。というかシャツのボタンが2,3弾け飛んでいた。


「うむ。紹介が遅れてしまったね。彼女はアキナくん。彼女もうちの事務所のアイドルで、コハルくんとは同期にあたる。アキナくん、彼は「いいよ。」―む?」


「紹介なんざいらねえよ。コハルのことを馬鹿にしやがって、異世界がどーのこーのと頭のイカれたキチガイ野郎なんざどうでもいい。さっさと追い出しちまえよ。」


いや、いちいちもっとも。

俺も目の前で友人を罵倒する異世界から来たんだけどさとか言う奴がいたら、腹立ちも感じるだろうが、それ以上に関わる気にはならない。

かといってここで俺からじゃあこれで帰りますなんて言ったら、それこそ顰蹙買うよなあ。


「まあまあ、落ち着きたまえアキナくん。私としてはね、彼の言うアイドルに興味があるのだよ。ヴェイグが現れてから90年以上、そしてアイドルが誕生してから80年余り。確かにアイドルは何も変わっていない。私達からすれば今の状態が当たり前としか感じない。しかし、彼と言う新しい風が入ることで、アイドルというものに革命が起こるのではないか。そんな予感がするのだ。」


「社長……。」


「杉田、さん。」


待て、待ってくれ。

何かいいセリフ言ってるけど、この後どう続くかが不安でしょうがない。

いいから普通に帰らせてくれ。

家に帰って眠って目が覚めたらいつもの日常って言う夢オチで終わらせたいんだ。

そんな俺の願いをよそに、杉田さんは立ち上がり俺に指を突きつけ声を上げる。



「藤崎君!君がプロデューサーとなり、彼女達を導くのだ!!」







「「は、はあああぁぁぁぁぁl!!!!?」」


















この日、この出会いこそがヴェイグを打ち倒す時代の始まりであったことに、気付くものは誰もいなかった。

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