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今回のコメント
・今日は牛丼!
レトルトじゃないよ!
牛小間買ってきて、玉ねぎ切って、糸こんにゃく入れて(これは牛丼なのだろうか……)
しょうゆ、みりん、料理酒、砂糖で調整。
もちろん玉入りで、いただきました!
ちなみに吉牛へ行ったら、紅しょうがをたくさん入れるタイプの人間です。(本当に要らない情報)
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鞄を床に置くと、僕はゲーム機の電源を入れていた。なにやってんだ僕は。真っ直ぐ自宅に帰ってくるなんて……。こんな日に限ってサクサクとゲームは進んでいく。次第に頭が真っ白になる。ゲーム画面に対する反射神経だけが研ぎ澄まされる。僕はゲームと一体になった。
ゲームのロード中、床に置かれた鞄が視界に入る。なんだかロード時間が長い。余計な考えが入り込んできそうだ。
――日記。どうして今思い出す。なんで目に入るんだ。そしてなぜ手を伸ばしているんだ。掴んだ鞄を手前に引き寄せ、中を開いていた。
思い出したくなんかないのに……いや、違うな。思い出してなんかいない。ずっと考えていたんだから。
ごくありふれたノートに書かれた「日記帳」の文字。僕はぱらぱらとめくっていた。
『もっと文章を工夫しましょう』
『小指を素直に出してください』
『今日はお疲れ様でした』
『ハリセンは叩きどころを間違わなければ痛くないです』
いつも高月先輩のコメントは短くて、正直人のことを「小学生みたい」とよく言えたものだなと思う。なんだか苦笑しつつも僕は最後の日記をめくる。
『もう少し文章を勉強しよう』の文字が僕の目に映った。
今思えばつまらないことで喧嘩をした気がする。って喧嘩というほどでもないのだけど。僕が一方的に……ん? 思い出に浸っている僕は気づいてしまった。最後のページだと思っていたのだが、うっすらと文字が透けている。もしや……と思い、ページをめくろうとするが、指がもつれて上手くめくれない。くそっ、早くしろよ。なんとかしてページをめくる。するとそこにはコメントの続きがあった。
『言い過ぎました。ごめんなさい』
たったこれだけの言葉だった。
しかし、よく見ると何度も文字が消された跡がある。きっと何回も書き直したのだろう。悩んだ末に出した答えがたった二言の言葉だった。なんだか非常に高月先輩らしさを感じる。僕は少し胸が熱くなった。
その瞬間「もしかして」という予感が走って、ページを戻す。僕の考えは当たった。よく見れば、どのページにも何度も書き直した後があったのだ。僕は短いコメントだと、気にもしていなかった。
いい加減だったのは僕だった。軽い気持で小学生のような日記を書いた僕。そして軽い気持を知ってか知らずか、何度も書き直して、結局大したことが書けなかった高月先輩。思いの深さは明らかだった。
日記を持つ手が震えている。歯を食いしばっている。情けなさだけが今の僕を構成していた。そして家にいる自分をなじり、もう戻れない時間を後悔した。申し訳なさ過ぎて戻れない。顔向けができない。僕はうな垂れ、日記は床へ落ちていく。音を立てて日記帳が床に落ちる。
――コトリ。部屋中に音が響いた。
すると、床にページを広げる形で落ちている日記帳の背表紙の辺りから、あきらかに色の違う紙が顔を出した。
僕は不審に思いながら日記帳を開くと、日記帳の最後のページに紙が挟まれていた。半紙のようだが、厚い紙だ。紙の繊維が分かるような荒い作り。和紙のようにも思えた。僕が書いていたときは、こんな紙なかったのに。紙をとりだし、手に取ってみる。すると文字が書かれていることに気づいた。
『大丈夫。終わりの時間まで待てばなんとかなる』
何だこの言葉は。意味が分からない。僕が首をかしげると、書かれている文字が揺れだした。僕はまた泣いているのかと目元をぬぐうが、涙は出ていない。あらためて目を凝らすと、紙の上で、本当に文字が揺れているのだった。まるで生き物のように。僕は驚いて思わず紙を離してしまった。落ちた紙の文字はやがて形を変えていった。
『夕実が怖がってる。私が慌てるわけには行かない』
『とにかくこの状況をなんとかしないと』
『それにしても熱い』
『夕実を立たせて逃げないと』
『今日は中間テストだからって時間が長すぎる』
『もしかして、このまま……』
『悲観的に考えては駄目』
紙にはどんどん文字が浮き出てくる。
もし、こんなことが人生で初めて起こったことなら迷うことなく僕は君の悪い紙を捨てただろう。だけどたっぷりと日記部で不思議な体験をしている。自然とだんだん落ち着いている自分がいた。
紙自体に害がないことを確かめると拾い上げる。紙に浮かび上がっている文字を読んだ。夕実、中間テスト、時間が長すぎる、逃げないと。この文字から推測できるのは、紙に書かれている言葉が高月先輩のものらしいこと。中間テストという文字から、現在ないしは今に近い時間の言葉だと言うことだ。
朝以来、高月先輩にはあっていないし、こんな文字を書く暇も無いだろう。それに文字が自然に浮かび上がるなんて不思議な力を持っているはずがない。だったら誰が日記帳に細工を……。
数秒後、僕はある人物を思い出した。平光先生だ。
あの人は確か僕の日記を拾ってめくっていた。そうだ。あの時か! だとしたら、これは高月先輩の言葉に間違いない。言葉の内容はまるで心の呟きのようだ。もしかしてこの紙は、高月先輩の心の声をキャッチする受信機のような力があるのではないか。平光先生なら、できそうだ。
僕が思考をめぐらせている間に紙全体を文字が覆うぐらいに増殖していく。文字同士がぶつかり、重なり合う。もう何が書いてあるか判別できない。紙から溢れそうな勢いは、まるで不安な気持の膨らみを表現しているみたいに。高月先輩達が危険にさらされている。
あの無口な高月先輩が心で叫んでいる。もう紙に隙間がない。高月先輩はもう限界だ! 紙が言葉で真っ黒になった。
瞬間、紙から文字がなくなる。たった一言を残して。
『助けて』
僕は日記帳を持って家を走り出していた。
次の更新は1~2時間後。
まぁ。あれだ。
大丈夫だから。
寝るときは、寝る。