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9/7 3:16

今回のコメント


・サッカー見て風呂入って出てきて、書いたらこの時間。

まだ寝てませ~ん。

寝オチ阻止!

だけどテレビ見てたら一緒っ!(もっとタチ悪い)



***********************************


 家に帰ると、ゲーム機の電源を入れ、ぽちぽちと始めてみる。ゲーム画面は僕の目には映っているが、頭にはまるで入ってこなかった。


『日記部って楽しい思い出をつくる部なんでしょ?』


 沙和の何気ない一言が引っ掛かっている。そもそも僕はどうして日記部に入ろうと思ったのだろうか。美国進と張り合うため? 高月先輩や滝川先輩に認めてもらうため? いや違う。


 ゲーム音楽が室内になっていた。僕は静かに目を閉じた。今でも浮かんでくる光景。泣いている人達。その中で泣けない僕。なんだか置いていかれた気がしたんだ。

 僕だけ卒業していないような、錯覚を覚えたんだ。


 ……だから。

 卒業式に泣けるような思い出が、次に進めるような区切りが欲しかったんだ。


『思い出を作るって、一人じゃなかなか難しいでしょ?』


 沙和の言うとおりだ。だから僕は日記部に入った。高月先輩と滝川先輩と思い出を作りたかったんだ。

 だけど特殊な環境の中で、何もわからないままに先輩についていき、足手まといになって、何とか挽回しようとして……僕は我を失った。


「くそっ、また沙和に教えられるなんてな」


 まだ間に合うだろうか。明日、滝川先輩に言って一緒に謝ってもらおう。でも、きっと「甘えるな」とか言われて殴られる気がする。それなのに僕は少し笑っていた。



 次の日、僕から滝川先輩へ話をしようと思っていた。しかし、朝のホームルーム前に先輩は僕らのクラスにあらわれた。これ幸いと僕は先輩と裏庭に向かう。滝川先輩は目的地に着いた途端、僕へと振り返り、目の前から姿を消した。


「中間テストは今日なんだ。だから、頼む! 今日だけでいいから帰ってきてくれ!」


 滝川先輩の姿は僕の視界の下にあった。まぎれもない土下座だった。


「頭を上げてください! もう、いいんですよ!」

「よくない! 頼む! お前の力が必要なんだ!」

「それなんですけど――」


 僕が言いかけた瞬間、背後から聞き覚えのある、よく通る声が聞こえた。


「夕実。もういいよ」


 僕は動けなくなる。確実に後ろには高月先輩がいるはずだ。足音が段々近づいてくる。

「私は大丈夫って言ったでしょ。今までだって一人でやってきた。これからだって一人で頑張れる。最高の思い出を日記に書いていくんだから」


 情けないことに足が震えてきた。必死に押さえつけているから表面上は分からないはずだけど。声がドンドンはっきりしてきて、次の言葉が一番はっきり聞こえた。


「もう辞める人のことは考えても無駄だよ」


 そのまま高月先輩は僕を通り過ぎた。黒髪が先輩の後を追って、僕を通過していく。体の力が一気に抜けていくような感覚に陥る。口が一文字どころか、への字に変わっていく。少し俯いてぐっとお腹に力を入れ、なんと姿勢を保つのに精一杯だった。


「さぁ。夕実、立って。先輩のアナタが下級生に土下座なんてしちゃ駄目だよ」

「亜也……」


 滝川先輩の腕をとって引き上げる。立ち上がった滝川先輩の膝の汚れを高月先輩が手で払う。滝川先輩はバツが悪そうに目をそらしていた。僕はそれを見つめるしかできない。

「そうそう。忘れてた」


 高月先輩は後ろを向いたまま、僕に話しかけていた。一瞬反応できないでいたけど、自分に話しているのだと分かると、僕の背筋は伸びた。


「途中退部する人の日記は、本人に返却することになってるの」


 言いながら高月先輩は脇に抱えていた、ノートを手に取り、僕へと振り返った。


「必要ないなら、自分で処分してちょうだい」


 細くて鋭く僕を射抜く冷たい瞳。感情の起伏を感じない乾いた表情。完全に拒絶されている。つけ入る隙のない態度。差し出されたノートでさえも冷たく凍っているように思えた。もう機能することのない日記ノートは死んだも同然だ。


 僕に出されたノートを震える手で受け取った。受け取る瞬間、高月先輩の手放すタイミングが早かったのか、ノートが地面に落ちてしまう。それだけで悲しさが一気に押し寄せた。僕はしゃがんでノートを拾う。しゃがんだ時に高月先輩達は僕の横を通り過ぎた。決定的な何かが終わったような気がした。






もう寝ますよ。マジで。いや、ホントに。

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