9/4 22:25
今回のコメント
・最近セリフが溢れてきます。
地の文が多いですが、僕は基本的にセリフでお話を作っていくタイプなのです。(誰も聞いていないので勝手に答える)
いい傾向なのですが、使いどころがありません。
つーか、どんどん予定からながくなる。
いいのか? これで。
まぁ、とりあえず、勢いで最後まで書くか。
***********************************
聞くべきだろうか。昨日の日記の感想を。僕は緊張で身を固くしていた。
「今日は遠いね」
隣から確かに声が聞こえる。ゆっくり横を向くと、高月先輩が髪をかきあげながら日記から目を離し、僕を見つめていた。
「いや、その……読書の邪魔しちゃあ、悪いかな? なんて思いまして」
「……そう」
高月先輩は一言呟くと机に置いてあったノートを手に取り、僕へ差し出した。少し距離があったので、僕は身を乗り出してノートを受け取ると元の席に座る。受け取ったのは僕の日記帳だった。ここには昨日書いた僕の日記に対する高月先輩の答えが書いてある。
ノートを開く手がいつの間にか震えていた。まるで好きだと告白した後に返事を貰うような緊張感が漂う。僕の思いは届いたのか。なんとかノートを掴んでゆっくりと開いた。
『もう少し文章を勉強しよう』いつもと同じ言葉だった。
無視された。僕の疑問は考える余地もないと言いたいのか。噛み締めた奥歯ががちがちと震えた。我慢するんだ。考え方を変えろ。高月先輩は無用な争いを避けるためにあえて触れなかったんだ。『無用な争い』? 先輩はやっぱり僕の考えに反対だったのだ。僕はノートから視線を上げて、先輩に向ける。先輩は何事もなかったかのようにまた日記を読んでいた。僕はもう我慢できなくなっていた。
「高月先輩」
すると先輩は日記から目を離し、僕を見た。先輩の表情はいつもと変わらない無表情。なぜ呼ばれたかも分かっていないようだ。
「どうして僕の質問に答えてくれないんですか?」
すると一瞬にして先輩の眉間にシワが入る。口が一文字に結ばれた。答える気がないのか。僕はさらに質問を続けた。
「僕は昨日の選択が納得いきません。結果的には良かったけど、先輩は撃ち殺されたかもしれないんですよ」
先輩は僕を睨んだまま動かない。僕も睨み返すように先輩と視線を合わせた。しばらくこう着状態が続く。ここまで緊張した状態が続くのは初めてだった。いや、僕自身他人とここまで真剣にぶつかったは初めてかもしれない。
そして止まっていた時間が動き出す。高月先輩の瞳から一筋の涙が零れたのだ。先輩は涙を拭わず、僕を見つめている。震える声で僕へ言葉をぶつけた。
「君、私に人殺しをさせたかったの?」
「――っ!?」
予想していなかった答えに僕は困惑した。もっと僕の考えや言葉の弱点をついてくると思ったのだ。気がつくと、自分の口許が震えているのが分かった。
「こちらも銃を持っているからって、人を殺す権利を得たとでも思っているの?」
「ち、違……」
瞬間、僕の頭はフラッシュバックした。「争うしかアナタは考えがないの?」と言って僕の襟首を掴んだ高月先輩の一文字の口はわずかに震えていた。あれは怒りではなかった。「人殺しをするかもしれない」という震えだったのだ。高月先輩だって十八の女の子だった。どんなにクールに振舞っても、先輩面しても。
僕は功を焦り、高月先輩に人殺しを勧めていたのだ。取り返しのつかない後悔が僕を襲った。お腹の奥が寒くなるような感覚がした。蹲りたい。もう僕を見ないで欲しい。
「僕はただ事件の収束を……」
弁解する僕の声は明らかに震えていた。完全なる敗北だった。高月先輩の顔をこれ以上見られなくなり、僕は俯いた。膝に拳を置いて、羞恥に耐えた。
これでは美国進にかなうはずがない。彼は高月先輩に笑いかけ、自ら闘いに臨んでいき、僕は高月先輩に殺人を勧めていたのだから。
さらにタイミングがさらに悪かった。僕が美国進との差に愕然とした時に、高月先輩の口が開く。
「やっぱり、君は先輩と違――」と言いかけて高月先輩は言葉を止めた。
「それ、どういう意味ですか?」僕の言葉に高月先輩は振り返る。
「意味?」高月先輩の口がわずかに歪む。
「美国先輩なら……こんな馬鹿なことを言わない、と言いたいんですか?」
高月先輩はしばらく僕を見つめたまま黙った。そして最終判断が下った。
「ええ。そうかもね」
その瞬間を僕は見逃さなかった。高月先輩は手に持った美国進の日記帳を力を込めて握ったのだ。馬鹿馬鹿しい。そんな気持が僕を一気に襲う。黒くて突き放すような、冷めているが、人を嫉妬する力だけは失っていない燃えている感覚。
「そんなに美国進が好きなら……今度の中間テストでも助けてもらえばいいでしょう」
何の強がりだろう。明らかに子供の口喧嘩だ。分かっていた。だけど美国進の名前は出して欲しくなかった!
どうせ高月先輩は僕の気持なんて分かってくれないだろうけど。
「……わかった」この一言が僕をどれだけ失望させただろう。
気づけば駆け出していた。扉を開けると目の前にいた滝川先輩が立っていた。滝川先輩の回し蹴りを掻い潜り、一気に走り去る。
その日から一週間。僕は日記部を訪れることはなかった。
次の更新は1~2時間後(やればできる……のか?)