9/3 23:11
今回のコメント
・六時間連続で書くなんて楽勝! とか言う人ならいいけど、僕は違うので、限界です。
逃げたい! 逃げたい! 逃げたい!(だったら書くなよ)
でも、続きも書きたい! だけど集中力が続かない!
ドライブに行くしかない!
・どうでもいいこと
「先輩」って打ち込もうとすると「線パイン」って変換される。
なんだよ「線パイン」って!
笑って、続きが書けないじゃん!
***********************************
チョーカーを手に取ると高月先輩は自らの首につけ始めた。僕は空いた口がふさがらなかった。
「まさか、犯人を説得するつもりですか?」
高月先輩は僕を見ずに俯いて、金具を止めている。つけなれてないせいか苦戦しているようだ。すると滝川先輩が代わって高月先輩にチョーカーを装着する。
「草弥君。ご心配なく」
高月先輩が僕を見つめて笑いかけた。どこからくるんだその自信は。滝川先輩が背中をぽんと叩くと、高月先輩は立ち上がり、歩き出していた。
ソファー裏で僕は俯いていた。もやもやした気持が晴れない。自分の方が正しいと言う気持ちと、先輩があんなにも笑顔で歩いていったことが腑に落ちないのだ。滝川先輩は僕の隣へ座りなおすと、僕を見ず、吐き捨てるように言った。
「馬鹿が。アイツ、手が震えてチョーカーが付けれれなかったんだ」
「っ!?」僕が慌てて立ち上がろうとすると、滝川先輩が肩を抑えた。
「今はとにかく見守るしかない」
「でもっ」
「大沢ユミは校内暴力が流行った時代で輪転高校の勢力争いをコントロールしたっていう仲裁女王だ。ネゴシエーターとしても有能なはずだ。お前みたいな単純真っ直ぐ君よりましだ」
肩を掴む滝川先輩の手の力が段々強くなってくる。痛みが走るほどだ。私だって行きたいところを堪えてるんだという気持が伝わってきた。僕は観念して座りこんだ。そして力なく滝川先輩に言葉をかけた。
「高月先輩、本当は怖いはずなのに僕に笑いかけたんですよ」
「ちっ、美国の真似かよ」
再び滝川先輩は親指を口許に当てて、俯いた。
「アイツも昔、美国進が無茶する時に笑いかけられたんだよ。美国が言うには『先輩の意地』らしいぜ」
美国進……また出てきた。僕の胸が締め付けられる。自然に拳を固く握ってしまう。気がつけば歯を食いしばっていた。頭がキュッと力が入り緊張する。
「なんだテメエは!」
構内に響く男の声。僕と滝川先輩は銀行強盗がよく見える場所へ移動した。カウンターで高月先輩は銀行強盗と対峙していた。犯人と対照的に落ち着いた口調で話す高月先輩。声が小さくて聞こえない。
初めのうちは声を荒げて受け応えし、時折銃口を向けるが、やがて犯人と高月先輩は普通に言葉を交わすようになっていた。
「さすがは大沢ユミ。揉め事ならなんでもござれだな」
滝川先輩が感心している横で僕は不満を募らせていた。自分の選択肢だって間違っていないはずだ。上手く行けばもっと早く解決できるじゃないか。
それから三十分以上経った。相変らず犯人と高月先輩は会話を続けている。犯人はカウンターに肘かけたりして、すっかりリラックスしている。誰かが背後から回って押さえつければ、犯人を逮捕できるんじゃないか、そんな気にさせた。
▲ネゴシエーターの実例を後で調べる。
さらに二十分ほど経過した時、動きを見せた。犯人が再び拳銃を握りなおし、高月先輩に向けたのだ。先輩は両手を上げ、入り口へと歩きだした。
「滝川先輩、やばいんじゃないですか?」
「うーん、分からん」
「そんな無責任な」
「助けに行ったところで、犯人を逆上させるだけじゃないか」
意外に冷静な滝川先輩に僕は腹が立ってきた。立ち上がり、走ってぶつかれば、高月先輩が助けられると思った瞬間、滝川先輩が頭を抑えた。
「まぁ、見てろ。美国先輩もアレぐらいの危機は体験済みだ。きっと亜也もやってくれる」
「そんなので信じられるんですか!?」
「信じられるね。お前は信じられないのか?」
「うぐっ……」滝川先輩の言葉に答えることができない。きっと僕は信じてないのかもしれない。
出入り口のシャッターが開けられると、犯人と高月先輩は外へ出て行った。警察が周りを固める中、犯人はゆっくりと地面に拳銃を置いた。数人の警官が犯人を囲み、高月先輩は解放された。立てこもった銀行強盗の最後としては穏やかなものだった。
「一人で出て行ったら射殺されていたかもな」
滝川先輩は警官達が無駄な動きで犯人を取り押さえる姿を眺めながら呟いた。僕は高月先輩のネゴシエーションが成功したのだと確信した。と、同時に嫉妬に似た気持ちが沸きだす。自分を完全否定された気持になったのだ。誰かに認めて欲しい。
「滝川先輩、僕は間違っていたんでしょうか?」
僕は滝川先輩に助けを求めた。隣にいる先輩は小さく首を捻る。
「さぁな。私は正解の一つだと思うぞ。ただ、拳銃を持つ相手に散弾銃を見せたらどうなるか、わかるだろ」
「……はい」きっと戦闘状態になるだろう。それでも勝算はあった。日本において拳銃の扱いに慣れている人間なんて一握りだ。それに対してこっちは銃の扱いに慣れてる。
滝川先輩は首を振って、僕の言うことを聞いてはくれなかった。
「犯人の興奮状態がさらに悪化して錯乱状態になってしまうかもしれない。そうなれば、周りの人の命にも関わる」
「そんな……だって、これは日記の再現でしょ?」
すると滝川先輩は手を伸ばして、僕の頬をつねる。いたたたた、痛いっ!
「ここで間違った選択をすれば現実にも影響するんだ。よく覚えておけ」
「ほんなのひいてないれふ(そんなの聞いてないですよ)」
「ちゃんと説明しておくべきだったな。だから慎重に行くんだ」
言うの忘れた、すまんすまん、といって滝川先輩は手を放してくれた。僕は頬を何度もさすった。今日はおでこや頬をさすってばかりだ。
「それに草弥」
「はい?」
「お前さっき、間違っていたんでしょうかって聞いたよな」
「はい」
「もし亜也に正解不正解を求めているとすれば、それは間違いだ」
滝川先輩は真剣な表情で僕を見つめていた。だけど意味は分からなかった。行動するのは高月先輩で事件を解決するのも先輩じゃないか。
「それにもう少しお前も他の先輩の日記を読め。インプットもないのに簡単に良いアイデアが浮かぶわけないだろ。先人の体験を馬鹿にするなよ。美国進は少なくとも全員分の日記を読破してたぞ」
また、美国進だ。見たこともない人物と比べられる気持は「掴みどころがない」の一点だった。反論することもできないし、彼女達の思い出と比べられたら、僕に分がないに決まっている。美化された過去と現実を比べるなよ。あまり物事にこだわらない性質だけど、しつこいと気になってしまう。
会話が一段落したところで、光が僕達を包んだ。どうやら今日の小テストが終わったらしい。光が晴れるといつもの部室になっていた。
疲れ顔の僕達に対して平光先生は嬉しそうに着物の袖を掴んで腕を上下させている。
「今日もお疲れさまでした~。最後に発表で~す。に来週中間テストがありま~す」
「中間テストですか?」
「そうか、草っちは初めてだったね」
いつの間にかあだ名がついている。平光先生は僕の表情の変化にまったく気づかない様子で話を進めている。
「小テストと対して変わらないよ。君達にとってはね」
笑いながら高月先輩へと視線を向ける平光先生。目が合った瞬間、高月先輩は横を向いた。
果たしてこんな気持を抱えたまま、僕は中間テストとやらを迎えるのだろうか。少し不安になった。
平光先生が帰った後、各々が日記を書いて部活が終了した。僕は隠れていただけなのでたいして書くことはない。相変らずの小学生風の日記だ。だけど、僕は溜まらず、日記帳の最後に書いてしまった。
「僕の案は間違いですか?」と。
次の更新は2~3時間後(やる気でろ~)