9/3 21:25
今回のコメント
・それにしても今回の台風は長いなぁ。
丸い一日は強風で終わってしまった。
休みが台無しだよ。(特に外出する予定がない男より)
床屋は昨日行ったし、新しい鞄も買ったし。もう出かけなくていいや。
たけどドライブには行きたい。
もうそろそろ限か……
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「あれは久しぶりに面白かったな」
「僕はとんだ笑いものですよ」
「いいじゃないか。昨日は役にたったんだから」
僕は言葉に詰まってしまった。確かに昨日はたまたま役にたった例だった。
基本的には初日のように僕は逃げ回り、高月先輩に捕まり、指切りさせられて事件解決というパターンが常だった。
校内暴力を止めた第五十七期生仲裁女王、大沢ユミの時。
野犬に囲まれて絶体絶命の第五十九期生冒険王、天野つばさの時。
暴走族と自転車で対決した第五十二期生競輪トンキホーテ、中野幸次郎の時。
地味なところでは父親の決めた進路に反対する家族会議の女装王子、多野松雄なんてのもあった。
最後は「輪転の誓い」で別の卒業生の思い出を利用して解決に導いた。僕はただ指切りをしただけで、何もしていない。
▲この辺りのエピソードをちゃんと入れるかどうかは完成後の尺と相談。
僕はこの一ヶ月を思い出すと自然に俯いてしまう。滝川先輩はけらけら笑って、高月先輩は日記に没頭している。こんなので楽しい思い出が作れるのだろうか。情けない思い出ばかり増えているような気がする。
「じゃんじゃじゃ~ん! お待たせ! 楽しい部活動の時間よん」
僕らが一斉に着物姿の平光先生を見た瞬間には、すでに彼女の前には日記があり、ページが開かれていた。僕らは何も準備をすることなく光に包まれた。何とか目を瞑り腕で光を遮る。
しばらくして光がなくなってくると、なにやら野太い大声が聞こえてきた。
「おいっ、早く金を積みやがれ!」
ここは銀行の構内のようだ。そして数メートル先にいるのは目だし帽にサングラスをかけて手に持っているのは大きな鞄と……拳銃? これって――
次の瞬間、服の袖を強く引っ張られ僕は強制的にしゃがみ込まされた。隣を見ると高月先輩が腕をつかみ、ぐいぐいと引っ張っていく。僕はわけの分からないままついていく。数メートル進んだところで、目だし帽の男の死角に当たるソファーの裏側で止まった。
「ついに来たわね」
「いつか来ると思ってたぞ」
高月先輩と滝川先輩が顔を見合わせて頷く。一応滝川先輩に確認を取ってみる。
「これも誰かの日記なんですか?」
「見れば分かるだろう。しかも最大級の奴だ」
滝川先輩は親指を口許に当てて、正面を睨んでいる。かなりイラついているようだ。今度は高月先輩が滝川先輩に「落ち着いて」と話しかける。
「この日記のエピソードは序の口のはずだよ」
「だが……」
「何のことかサッパリ」
すると、声を押し殺しながら、滝川先輩は僕にデコピンをかます。い、痛いっ!
「ちゃんと日記ぐらいよめ。第七十六期生、不幸の大魔王 野須虎男だ」
「野須虎男? そんなに不幸なんですか?」
僕はおでこをさすりながら涙目で答えた。すると滝川先輩がソファー越しに目だし帽の男をうかがう。
「三年間のあいだで小さな不幸なら数知れず、命の危険に晒されること数十回、犯罪に巻き込まれること十二回だ」
「いいっ?! じゃあ、これも……」
「ああ。十二月二十六日の日記。『僕の銀行強盗立てこもり事件簿』だ」
なに二時間ドラマみたいな名前つけてんだ。それともお遊びにしないとやってられないって感じなのか。
あらためて辺りを見渡す。カウンターの前には四十代ぐらいの男が銃を持って銀行員に何か指示している。お客さんもそのままで、犯人の指示なのか出入り口はシャッターが閉められている。しかし、ブラインドの隙間から赤色灯の光が漏れているところを見ると、捕まるのも時間の問題なのかもしれない。
だけどそれまでに僕達に危害を加えられたら。僕の足は自然に震えていた。クマやサメならまだまだしだ。今度は人間が相手。脅しだけでは通じないかもしれない。先手必勝しかない。僕は高月先輩に小指を差し出した。
「『輪転の誓い』でさっさと片付けましょう」
高月先輩は差し出された僕の小指を見つめ、目を閉じた。
「まだダメ。いい日記が思い浮かばないから」
「そんなのバブル王御木本孝雄の散弾銃でやればいいじゃないですか」
すると高月先輩は瞳を開けて、僕を見つめたまま動かなくなった。頬に僅かなシワが入る。歯を食いしばっているのだろうか。さっきから僕を見つめると言うより睨まれているに近い気がする。怯むわけには行かない。たまには僕だって提案して役にたちたいんだ。
「早くしないと、やられちゃいますよ」
「君ね……」
高月先輩は手櫛で自分の頭を何度も頭をなでた。俯いた顔からは、歯を食いしばっている口しかうかがえない。もしかして本当に苛立っているのか?
深く息を吐き出すと、高月先輩は顔を上げ、僕の襟首を掴んだ。
「争うしかアナタは考えがないの?」
「えっ?」
高月先輩の顔が近づく。でも、いつものようにドキドキしない。先輩は眉を逆八の字にして、瞳は潤み、口は一文字になっていた。一文字に下唇は微妙に震えている。僕は呼吸ができなくなって、顔を引いてしまった。
僕が顔を引いた瞬間、襟首を掴んだ高月先輩の力もなくなり、解放された。
「もういい。小指を出して」
「じゃあ、やっぱり」
「散弾銃は出さない。別の策を思いついたの」
差し出した小指に高月先輩の小指が絡みつく。やはり僕は興奮することはなかった。
「輪転の誓いにより、我願いに答えよ」
相変らずの厨二表現。誰を呼び出すつもりなんだと状況を見つめる。
「回顧せよ、想起せよ、顕現せよ! 第五十七期生、大沢ユミ」
高月先輩が選択したのは仲裁女王と呼ばれる第五十七期生大沢ユミの日記だった。どこからともなく飛んできた日記帳が開かれ、やがてヒモのような小さな円形の物体が日記上から現れる。これは以前見覚えがあった。黒に小さい鈴がついたチョーカーだった。
次の更新は1~2時間後(これ書く意味あるのだろうか……)