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9/3 19:16

今回のコメント


・どうでもいいこと。

「置くと」と入力して変換すると「奥戸」になった。

オクトパスの影響恐るべし。



***********************************



「うん。美国歩みくにすすむっていうの」


 その名前には聞き覚えがあった。初日、小テストが終わった後で、平光先生が言った名前だ。高月先輩が好きだった人の名前。どうやら僕は完全に地雷を踏んだらしい。

 高月先輩は天野つばさの日記帳を机に置くと、美国進の日記帳を手に取った。


「この人の日記は……そうだね」


 手に取った日記帳を胸の前で抱きしめるように包み込んだ。愛おしそうに日記帳を見つめるように俯くと長い睫毛まつげで瞳が隠れた。


「私にとても影響を与えてくれている。大切な日記帳だよ」


 大切な日記帳といいながら、その実、美国進を大切だと言っているに等しい。僕は居心地の悪さを感じた。これは嫉妬なのか、他にも感情があるのかよくわからない。でも心の中がざわつくのを感じた。もう話を切り上げようと思っているのに口から出た言葉は……


「どんな内容なんですか?」などと言っている。すると高月先輩は僕を見ることなく答えた。僕を見て話さないなんて、今までと変わらないのだけれど、妙に鼻につく。


「内容は君に似ているかな」

「え?」それって僕にも可能性が……

「単純で文章も稚拙で……でも、気持は伝わってくるの」

「そうですか……」


 まったくもって納得行かない。僕に対する評価は「素朴で悪くない」なのに美国進に関しては「気持が伝わってくる」らしい。そんなの単なる主観じゃないか。

 と、ここまで考えて僕は愕然とする。僕は一体、高月先輩の何気取りなんだろう。


 この一ヶ月、高月先輩と滝川先輩でさまざまな体験をした。毎回高月先輩と指切りをしてピンチを脱出するパターンを繰り返しているので、自分の中で高月先輩に対する独占欲が芽生えているのかもしれない。好きだからだろうか。少し違う気がする。


 僕と高月先輩の会話が途切れた瞬間、扉が蹴破られる音がした。


「おい~す!」

 現れたのはもちろん滝川先輩だった。僕は救世主が現れたことを心から喜んだ。


「滝川先輩~!」


 嬉しくなって駆け寄ると滝川先輩は僕に背を向けた。「!?」僕が戸惑った瞬間、回った方向から何かが飛び出してくる。見えないっ! そのままわき腹に突き刺さったのは滝川先輩の踵だった。僕は息ができなくなり、うずくまりながら、技の名を呟く。


「後ろ……回し蹴り」

「お前は飼い主に嬉ションしながら近づく犬か」


「ぐふっ」とか悪者の名文句を言いながら僕は倒れた。倒れながら高月先輩が視界に入る。口許を引きつらせて僕を見ていた。情けないながらも日記から目を離したぜ……カッコ悪。すぐに滝川先輩が近づいて僕の耳元へ話しかけた。


「もうちょっと女の子との会話を楽しもうって気はないのか」

「へ? もしかして高月先輩とのやりとりを……」


 すると滝川先輩は僕の頭にチョップを振り落とした。


「当たり前だ馬鹿。初日のことを忘れたか。折角チャンスをあげてやったのに」


 そういえば、入室することを嫌がった僕を無理やり……あの時も確か中の様子をうかがっていたっけ。


「すいません」


 僕はなぜか謝っていた。滝川先輩は「よし」と言って、定位置である高月先輩と机を挟んで反対側の席に座った。僕も立ち上がると、高月先輩と二つ離れた定位置に座った。


「さて、今日はどの日記から出題されるかな」


 滝川先輩は本棚から適当に日記帳を取り出してパラパラとめくりだした。僕は嫌なことを思い出してため息をついた。


「はぁー。もう嫌ですよ。昨日のアレは」

「アレ?」

「漫才ですよ」

阪田利行さかたとしゆきの日記か」


 昨日、飛ばされた日記の世界は第六十九期生阪田利行のものだった。別名爆笑王とよばれた生徒で大阪の某劇場にも素人大会か何かで出場した経歴がある。つまり、昨日の小テストはお笑いの劇場に三人が立たされて、トリオ漫才をさせられたのだ。


 大阪の某劇場で出番待ちから出演まで緊張の連続だった。「輪転の誓い」によって呼び出されたのは、第四十四期生の元祖爆笑王、横山欽一よこやまきんいちのハリセンだった。横山欽一は学園祭等で活躍した生徒らしい。使用するのはハリセンでトリオ漫才を得意とした。


 とにかく高月先輩が僕にハリセンを食らわせるという、ビックリするぐらいの昔ながらのコントだった。中高生が見たなら決して笑わないところだが、そこは大阪の某劇場。客の殆どがおばちゃんということもあり、大爆笑だった。


 滝川先輩の前フリ。

「お前、草弥っていうんだろ? 『くさや』だって、干物かお前は」

「あぁ、もうそれさんざん中学生時代からかわれましたから」

「どうりで君、臭いと思ったわ」

「干物を馬鹿にするなっ!」とボケる僕。

「自分をフォローしないさい!」とツッコむ高月先輩。


 ツッコミが合図となり高月先輩が舞台端へ向かい、僕は滝川先輩に連れられて反対の舞台端へ。「せ~の」の掛け声と共に滝川先輩に押された僕はハリセンを持った高月先輩へまっしぐら。派手な音を立てて僕は首筋に強烈な一撃を食らわされて、派手に倒れるのだった。そしておばちゃん大爆笑。えっと……なにが面白いんですか?

 ちなみに輪転の誓いを発動した時の高月先輩の言葉「私は分かりやすいお笑いを届けるのである。たとえそれが馬鹿にされ、廃れていったとしても!」だった。女子高校生が真剣に叫ぶ言葉ではない。


「あれは久しぶりに面白かったな」

「僕はとんだ笑いものですよ」

「いいじゃないか。昨日は役にたったんだから」


 僕は言葉に詰まってしまった。



次の更新は1~2時間後(これ書く意味あるのだろうか……)

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