9/3 17:36
今回のコメント
・前回の部分にちょっと追加。
・前半のクライマックスに向けて前進前進!
***********************************
「今日も試験勉強ですか?」
すると高月先輩は目を丸くして、下を向いて日記帳を閉じて、僕に本を見せる。
「これのこと?」
僕が頷くと高月先輩は瞳を優しく細めた。オレンジ色に染まった秋の空の光が、高月先輩の黒い髪の毛を茶色に染める。
「そうだね。今読んでるのは第五十九期生の天野つばさの日記だよ。この人は別名冒険王って言われてね。三年間で陸海空色々な場所でさまざまな経験をした人だよ」
日記帳を掲げて僕に説明を加える。高月先輩の瞳はキラキラしていた。試験勉強ってだけじゃなくて本当に日記を読むことが好きなようだ。
「この人は感情表現だけじゃなくて、情景描写が上手いし、感覚表現も的確。読んでいると臨場感があるの。日記と言うよりはすでに出版物の領域ってぐらいにね」
「なるほど。僕も見習いたいですね」
僕はごく普通の返事をしたつもりだった。だけど、高月先輩はさっきまでの上機嫌とはうって変わって口を歪ませた。
「あなたのは……小学生の日記だね」
「小学生……」
「『○○でした。嬉しかったです。○○でした。大変だったです』って文章ばっかり続くんだから」
一応日記部の部活動として、表向きは部員は毎日日記を書くことになっている。書いた日記は最後に部長へ提出するのだが、返ってきた日記には部長のコメントとして『もう少し文章を勉強しよう』と書かれてあった。僕は笑って誤魔化すしかなかった。
「まぁ、素朴で悪くはないんだけどね」
明らかにフォローのつもりの慰めに僕はいたたまれない気持になり、話題を変えようとした。
「それにしても天野つばさって……夏のイベントのサメに囲まれて絶体絶命にさせられた人の日記ですよね」
「あはは。よく覚えてるね」
「いや、死にかけましたから」
後で聞かされたのだが夏のイベントでの出来事も平光先生の力で、仕掛けられたものだった。僕は知らずに巻き込まれ、高月先輩に救われたのだ。
「あの時は本当にごめんね」
「えっ……」
高月先輩は片手で拝むように僕に謝る。なんだか今日は雰囲気が軽い。僕がどうしていいか分からないでいると、高月先輩は困ったように前髪をいじりだした。
「あの、一度謝っておきたかっただけだから」
「そうなんですか」
僕は上手な返事の仕方が分からず、ぶっきらぼうな返答しかできない自分が情けなかった。普段、突き放したり冷たい目つきで見られたりするので、急に親しい態度を見せられると調子が狂うのだ。
何とか話題を変えようと僕は辺りを見渡した。すると手に持っている日記帳とは別にもう一冊の日記帳が机に置かれていた。
「手に持っているのは天野つばさの日記と言うのは分かりました。もう一冊置かれている日記は誰なんですか?」
僕の言葉に高月先輩は一瞬肩を震わせた。さらに動きを止め、視線が落ちていく。
「これは……」と言ったまま言葉を詰まらせた。僕は言ってしまったことを後悔する。
「高月先輩。言いたくなかったら別に」
「そんなんじゃないよ。私の前の部長だから」
「高月先輩の先代ですか」
「うん。美国歩っていうの」
その名前には聞き覚えがあった。初日、小テストが終わった後で、平光先生が言った名前だ。高月先輩が好きだった人の名前。どうやら僕は完全に地雷を踏んだらしい。
次の更新は1~2時間後(これ書く意味あるのだろうか……)