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9/2 19:44

今回のコメント


・これで50KB。目標の四分の一を過ぎてしまった。(予定は200KB)

 話的には五分の一程度。うむ……MFの規定を超えてしまうかも。SDでも対応できるからまあいいか。(よくない)


・さぁ、台風が近づいてまいりました!

現実逃避しにくい! ドライブができない!

そうだ! 寝ればいいのか!(違う)


・少しだけ書くのに集中して更新するのを忘れてた……とか言いたい。(願望かよ)


***********************************



 そのまま僕達は休憩するように座り込んだ。ちなみに僕は最初から座っている。高月先輩は銃を片手に立ったまま辺りを警戒している。滝川先輩は体育座りして俯いていた。

 二人を見ていると最初に抱いていたイメージと全然違うことに気づいた。部室前から覗き見ていた高月先輩は泣いてて、滝川先輩は元気一杯だった。しかし、今はどうだろう。気を張っているのは高月先輩で、元気がないのは滝川先輩だ。


 僕はもちろん滝川先輩側の人間だ。だからと言うわけじゃないが、僕はゆっくりと滝川先輩に近づいた。俯き加減だった滝川先輩は僕が近づいたことに気づくと、顔をあげてこっちを見た。


「どうした? もう大丈夫だぞ。後は平光が現れて試験終了の合図をするまで待つだけだ」


 声に抑揚があまりなく全体的に低い。本当に疲れているようだった。とは言え、この機を逃すわけにはいかなかった。

 ちゃんと説明して欲しい。高月先輩は後で説明すると言ってくれたが、正直近寄りがたい。滝川先輩の方が表面上乱暴だが、ちゃんと答えてくれそうな気がしたのだ。


「折角なのでちゃんと教えてくれますか? 日記部って一体なんなんですか?」

「今ので分からなかったのか?」

「余計分からなくなりました」


 すると滝川先輩は僕から視線を外し、遠くを見た。まるで僕に隠し事をするように。


「だから日記に書けるような思い出を作る部だよ」

「何のために?」

「充実した高校生生活を送るためだ」


 それだけのためにクマと戦うのかよ。僕は空いた口がふさがらなかった。

 崖から落ちたときの肩が痛む。事が落ち着いたからなおさらだ。明日にはもっと痛くなるだろう。僕はなんだか怒りがこみ上げてきて。


「命の危険を冒してまでですか?」

「矢継ぎ早に聞くなぁ……今回だって大丈夫だったろ」


 何を暢気な事言っているんだ。自分だって死にかけたのに。僕は真相を徹底追及する記者のような心境になっていた。


「じゃあ、今の現象を説明してください」

「知らん。平光が引き起こしているのは分かるが、私が知っているのはそれぐらいだ。それは亜也も同じだと思うぞ」


 誤魔化しているのか、本当に知らないのかよく分からない。でも、滝川先輩の表情は歯を食いしばり、苛立っているようにみえた。


「じゅあ、聞きますけど、平光先生は一体何者なんですか?」

「知らん。でも大昔から高校にいるらしいぞ。年齢不詳だ。平光の力についてもよく分からん」


 言い切った後、数秒沈黙した後、僕へと視線を戻した。気持悪いほどの笑顔だった。


「……だが、楽しいだろ?」

「楽しい分けないでしょ!」

「あくまで部活動だ。楽しめよ」


 滝川先輩はため息をつきながら、吐き出すように呟いた。まるで自分に言い聞かせるように。苦々しい表情をなんとか整えると滝川先輩は話を続けた。


「本来の目的は過去の先輩達の日記の出来事を追体験することで、充実した高校生活を送ることが目的の部活動だ。大昔は自分達で昔の料理や遊びなんかを再現するだけだったらしい。平光が現れてから、不思議な体験をする部に変わったようだ。あくまでも日記を読む限りな。だが、クマと戦うなんて滅多にないよ。ここまで死ぬかと思ったのは、四月の新人歓迎テスト以来だ」

「五十人が一度に辞めたっていう事件ですか?」

「まぁな。平光のせいなのに亜也が全部罪を被っちまった」


 殲滅日記姫の由来にこんな裏が隠されていたなんて。だけど、確かに逃げたくもなる。これからずっと命の危険をかけながら部活動しなくちゃいけないんだから。僕は自然に俯いていた。


「草弥、お前は……」


 僕が顔を上げると、滝川先輩は瞳を細め、心配そうに僕を見ていた。


「明日も来るよな」

「え……」


 僕は思わず言葉につまってしまった。滝川先輩へ視線を向けてすぐに、横を向く。


「これからの質問の答え次第です」


 僕は下手くそにも話をはぐらかす。滝川先輩はそれ以上、追求することはなかった。自分でも正直わからない。続けるとも言えないし、辞めるとも言い切れないのだ。なんなんだこの気持は。とにかく今はちゃんと事実確認するんだ。そして部をどうするかを決めよう。僕は質問を続けた。


「高月先輩が使った『輪転の誓い』とは一体なんなんですか?」

「それは……」


 滝川先輩は言葉につまっていると、僕へ近づく人影。散弾銃を持つ高月先輩だった。


「私が代わりに答えます」


 瞳を細めて僕を上から見下ろす。滝川先輩の瞳の細め方とは対照的に冷たい印象を持った。心配していると言うより、節操なく何でも聞いてくる人間を軽蔑しているような、突き放すイメージ。


「平光先生の力同様、日記を具現化する能力です。先生ほどの力はありませんが、一部を現実のものとすることができます。発動条件は異性と指切りをして誓いを立てることです」

「それじゃあ……」

「ええ。アナタが必要だと言ったのは、異性だからです。何を期待したの?」


 僕はそれ以上何も言えなくなった。確かに『選ばれた人間』という気持が心の隅になかったわけでもない。他の人間に対する優越感を見透かされたようで、僕は恥ずかしくなったのだ。


「亜也、お前はまだそんなことを……」


 滝川先輩は立ち上がり、高月先輩に迫る。だが、高月先輩は表情を変えなかった。


「夕実、これは本音だよ。別に嫌ならそれでいい。私は独りでもやってこれた。これからだって……」

「もう、限界だったろ」

「限界じゃない。私のみそぎはまだ終わってない」


 滝川先輩は高月先輩を見つめたまま、言葉をかけない……かけられないが正確なところか。少しだけ肩を落とし、うな垂れた滝川先輩は、何かに気づいたように僕へと振り返った。


「違うんだ、草弥。ちゃんと理由があるから。今の発言は気にするな」


 滝川先輩には申し訳ないけど、気にするだろう。ここまでハッキリ言われて、気にしませんと笑顔で言える奴はきっとただの不感症だ。握った拳に力が入る。


「お前の話は私が沙和から、卒業式でもなかない淡白な男と聞いていてな。それなら日記部の秘密を聞かせても動じないんじゃないかって、亜也も賛成したんだ」


 僕が高月先輩を見ると先輩は顔を背けて横を向いてしまった。


「滝川先輩、それは勘違いですよ。僕はそんな豪胆な男ではありません」

「でもお前はまだここにいるじゃないか。春なんか全員が亜也を放っておいて逃げ出したんだぞ」

「それは……」と言いかけて言葉を止めた。言いたかった続きは「高月先輩が腕を引っ張ってくれたから」だったのだが、言ってしまえば、僕も四月の五十人と同じになってしまうからだ。つまらないプライドのために僕は黙ってしまった。


「春は逃げ出す男どもを無視して、亜也は黒ヒョウと戦おうとしたのだからな」

「はぁ、そうなんですか……」

「夕実、余計なことは言わなくていい!」


 高月先輩は急に強い口調で滝川先輩に抗議した。

 そして、ふとある思いに至る。四月は男どもを無視して立ち向かった。でも、輪転の誓いの力を使うためには誰かを適当に捕まえて、指切りすればいいじゃないか。だけど、それをせずに立ち向かった。


 でも、今回は僕の腕を掴んで逃げた。そして輪転の誓いの力を使った。この違いはなんだろう。僕は自然に高月先輩へ視線が向かっていた。


「――っ!?」


 高月先輩は僕と目が合った瞬間、また横を向いた。だけどさっきとは違う。明らかに頬が赤くなっていたのだ。さらに意味なく前髪をいじりだした。これって……


「は~い、小テスト終了~っ!」


 頭上から平光先生の声が響き渡る。まばゆい光が辺りを包んだので僕は目を瞑り、腕ででも光を遮った。しばらくして眼開くと、辺りは日記部の部室に戻っていた。

 目の前に立っていた平光先生が、着物姿の袖を振りながら、笑顔で僕達へ話しかける。

「どう? 楽しい青春の一ページは過ごせたかしら~?」


 僕と滝川先輩が絶句する中、高月先輩は平光先生に対抗するように笑顔で応える。すでに手には散弾銃はなかった。


「ええ。お陰さまで、楽しかったです」

「そうね、美国みくに君の力を使えた喜びでたまらないってところかしら~?」

「なんのことですか?」


 高月先輩の口の端が僅かにゆがむ。さらに眉間にシワを寄せ平光先生を睨んだ。美国? 誰だろう。学校の人だろうか。僕の疑問を吹き飛ばす一言を平光先生は続けた。


「あらあら。好きな人の名前を、もう忘れちゃったの?」


 頭を何かで打ち抜かれたような、衝撃が僕を襲う。思わず足がよろめいて倒れそうになった。『高月先輩の好きな人』あぁ……やっぱりいたんだ。そうだよな。夏のプールサイドでも『アナタは二番目』って言ってたし。わかってはいたものの、他人からその事実を聞かされると絶望的な気持になる。決定的な事実を突きつけられて、ちょっと涙目。


 一方、高月先輩と平光先生のやりとりは続いていた。


「アナタには関係ないし、テストも合格してみせる」

「そう。でも、合格かどうかを決めるのはアナタ自身だからねぇ」


 平光先生は僕を見て笑いかけた。着物姿の先生はしゃなりしゃなりと着なれた様子で僕へ近づいてくる。数十センチまで近づき、僕の頬を両手で挟んで、平光先生の顔と向かい合わせる。ち、近い。挟んだ手は妙に冷たく、残暑厳しい室内にはうってつけだった。


「ようこそ。日記部へ。ここは高校生活をバラ色の思い出で包み込む楽園よ」

「は、はい……」


 平光先生の黒い瞳の奥には何も映っていない。まるで底なし沼の中に引き釣りこまれるような感覚に陥った。挟んだ手が先生へと引っ張られて、僕はそのまま近づいてしまう。あぁ、このままキ――


「はい、そこまで。生徒を誘惑しないでくれますか?」


 僕の目の前に手の平が伸びてくる。平光先生の瞳を遮るように入ったので、僕は我に返った。手の平を差し出したのは高月先輩だった。


「ふふふ。久しぶりの男子だったからついサービスしちゃった♪ 今日の部活動はここまで。んじゃあね~」


 くるくると袖を広げながら二回転ほどして後退すると、平光先生は扉を開けて出て行った。着物姿であの動きが簡単にできてしまうなんて、一体何者なんだろう。それ以前に一杯疑問があるけど。


「じゃあ、私達も帰りますか」


 滝川先輩の声が後ろから聞こえる。部室の窓から外をみると、外はすっかり飴色に染まっていた。時間が経つのは早い。


「私はもう少し復習するから」


 高月先輩は机においてあるハードカバーの日記帳を手に取ると、椅子に座って読み始めた。滝川先輩はため息をつくと机を挟んで反対側の椅子に座って、天井を見上げた。どうやら一緒に付き合うらしい。さて。僕はどうしよう。

 今日は色々ありすぎた。とにかく家に帰ってベッドで眠りたい気分だった。僕は壁際に置いた鞄を取りに歩きだした。


「おい、草弥。明日も来るよな?」


 滝川先輩の声に僕は立ち止まる。少し震えるような、心配した声。即答できなかった。自然に僕の視線は高月先輩を見ていた。高月先輩は日記に視線を落としたまま、こちらを見ない。まるで「もうお前には用がない」と言わんばかりだ。


『行くよ』


 四月とは違い、手を引っ張って僕を助けてくれた先輩。


『アナタが必要だと言ったのは、異性だからです。何を期待したの?』


 冷たく突き放そうとする先輩。しかも、好きな人がいるらしい。

 なんだか頭が混乱する。だけど気になることは確かだった。


「滝川先輩」

「お。おう。なんだ」

「明日も放課後に部室へ来ればいいですかね?」


 なんとなく勢いで承諾してしまった。高月先輩に必要だと言わせたいし、馬鹿にされたまま終わりたくない。反面、今日みたいなことが続くのもゴメンだ。

 だから出した結論。とりあえず続けてみる。いかにも先送り民族、日本人らしい結論。ある意味美徳。反面、決定力不足。いいんだ、とりあえずはそれで。一日で判断つけるなんてもったいない。


「おっ……おう! 頼んだぞ!」


 滝川先輩の力の入った楽しそうな声が聞こえる。僕は再び歩き出すと自分の鞄を手に持ち、扉へ向かう。これでいいのだ、と自分に言い聞かせながら。


 僕は部室を出て閉めようとした。ドアの隙間から覗く高月先輩。相変らず日記に目を通している。でも、気のせいか口許が「お疲れさま」と動いたような気がした。

 扉はゆっくり閉められる。こうして僕の日記部一日目が終わろうとしていた。



更新は2~3時間後。

ご飯食べてきます!


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