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『きらきら、きら』(コトダマ版)⑮

15


 この後、私はちゃんと長峰さんに謝罪した。長峰さんも私達に迷惑をかけたと謝ってくれた。ついでに社長もヒミコさんも、紗江子も皆で謝った。


 色々あったけど、結局は元に戻ったってわけ。


 ライブの後、いつもは閉まっているんだけど、今日だけ営業時間を延長してもらってたこ焼き屋「たこぼうず」にて皆が集まって打ち上げを行った。


「はい、たこ焼きお待ち~」

「あれ、信道さんが出てくるなんて珍しいね」

「だってさぁ、女子高校生と交流できるなんてこんなときしかな――」


 奥戸三兄弟の長男である信道さんは真さんに首根っこをつかまれて引っ張られていった。


 社長が立ち上がり、飲み物を片手に話を始めた。早く食べたいんですけど。まさか、挨拶するつもりじゃないでしょうね。そのつもりだったら断固妨害させてもらいますから。


「えー、色々ありましたが、なんとか初ライブも終え、長峰も戻ってきました」

「話が長い」

「まだ始めたばっかりだし、長くねえだろ!」


 私が社長の話を無視してたこ焼きを食べようとした横で、紗江子が俯いた。


「お腹が減りすぎて気持ち悪い……」

「紗江子ちゃん、ライブ前緊張しすぎて一日何も食べてなかったからね~」


 途端に俯いていた紗江子が顔を上げた。顔を真っ赤にさせてお腹を押さえている。


「ひ、ヒミコさん! それは内緒って言ったでしょ!」


 せっかくの攻撃チャンスなんで私は嫌味たっぷりに話しかける。


「へ~、いつも自信満々の紗江子様でも緊張するんですねぇ~」

「私はアナタとは違って繊細なんです。一緒にしないでください」


 相変わらずキツイ話し方するなぁと思いつつ、今日は許すことにした。


「まぁ、いいや。とにかく今日は、おめでとう」


 紗江子のお陰か、社長はため息混じりに飲み物を掲げて、乾杯を促した。それを合図に私達は本格的に食べ始めた。



 打ち上げが始まり、皆が思い思いに食べている。私も腹いっぱいに食べようとハシを伸ばしたと時に社長が話しかけてきた。また邪魔をする……


「やっぱりお前を選んだ俺の目は狂っていなかった」

「はぁ? 何言ってるの? こっちは無理やり選ばれて迷惑だっつーの」


 なんだかこうやって言い合いするのは久しぶりのような気がした。

 たまには相手をしてやるかと思ったんだけど、社長は逆に微笑んで話を続けた。


「まぁ、お前は信じないかもしれないけど、俺にはとある能力があるんだ」

「は? 漫画の見すぎじゃね?」

「なんとその能力は……」


 私のツッコミは完全に無視された。そして社長は自信満々に答えた。


「人の魅力を可視化できるってものだ」

「ふーん……へ?」


 まさか社長も同じ力を持っていたなんて。私は驚いて社長を見た。

 すると満足げな表情で話を進めだした。


「光が見えるんだよ。華がある人にだけ」


 え? それじゃあ……私は普段自分の魅力の光がみえなかったってこと?


「ヒミコは全盛期に負けじと劣らず、光輝いていた。いや、きっとあの時よりも光ってたかもな。輝く場所をもう一度手にしたんだからな」


 私はヒミコさんを見る。今は楽しそうに過ごしていて、引退に追い込まれた過去があったなんて信じられない。だけど一度底から復活したからこそ光る何かがあるに違いなかった。


「紗江子はとにかくオーディションから光を放っていた。その光はまだ小さかったが、成長を期待させた。そして案の定、成長したな」


 ヒミコさんの隣で少しすました表情で食べる女の子。とにかく上昇志向が強くて、私も何回嫌味を言われたことか。でも、それは信頼されない自分への八つ当たりだったのかもしれない。今後はもう少しこの子の話は聞こう。腹立たない範囲内で。


「そしてお前だ。街中で初めて見たときは心底驚いた」


 社長が私をジッと見つめる。私は少し照れくさくて俯いた。どんな話をしてくれるの?


「普通誰にだって少しは華があるんだけどさぁ。お前ってまったく光らないのな」

「は?」

「友達と楽しそうにしているのにオーラなしだよ。「これだ!」てピンと来たね。ベルルの魅力を百パーセント表現するためには、うってつけだと思ったわけ」


 怒っていいよね。これ怒っていい場面だよね。私は笑いながら社長へ席を近づけた。


「へーっ、またとび蹴りくらいたいわけ?」

「いや、もうわき腹に拳が入ってますよね? 綺麗に入ってますよね?」

「椅子に座ったままだから軽いものでしょ? ありがたく思いなさい」


 すると社長は席を立つ。私も釣られて席を立った。


「ふざけんじゃねえよ!」

「ふざけてんのはそっちでしょ!」


 やっぱりこうなる運命なのね。

 いいわ。今日はとことんやってやろうじゃないの!


「ヒミコさん、二人の前においてあるたこ焼きも食べていいですか?」

「いいよ~、紗江子ちゃん。あの二人を待ってると時間かかるからね~」


 二人の会話に長峰さんが相変わらずの優しい笑みで答えた。


「ちなみにあの二人が食べだすとあっという間になくなるからさっさと食べるんだぞ」

「は~い」


 二人の気持ちのいい返事に、私と社長は同時にツッコミを入れる。


「いや、食べたら駄目だろ!」



 これから季節は梅雨を経て、夏に向かっていく。空はますます太陽がギラギラと光を増す。木々もますます成長をしていくだろう。時々夕立みたいに困ったことが起きるかもしれない。だけど私達の勢いはとめられないと思う。大人の言う青春の真っ只中。自覚はないけどきっとそうに違いない。こんなにも楽しいのだから。


 こうして半年限定のローカルアイドル「鈴なりディアーV」の一ヶ月は過ぎていった。

 まだ五ヶ月もあるんだ。長いなぁ。


 でも、ちょっとは楽しい日々が過ごせそうで私は期待している。


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