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『きらきら、きら』(コトダマ版)②


 いつのころからだろうか。私は人の「きらきら」が見えるようになった。簡単に言うと、その人が放つ魅力が可視化できるというもの。華がある人から放たれるきらきら。なんでこんな能力があるのかは正直分からない。


 でもテレビで売れっ子のアイドルとか見ると、本当にきらきらしてて眩しい。光の粒子のようなものが彼女達の体をとりまいて画面に向かって放たれていた。まるで光のシャワーが降り注いでいるようだった。しかも、ぽかぽかして暖かい。生きている躍動感がそのまま表れていた。なので、私にとってアイドルは文字通り光り輝く存在だった。


 そう、三ヶ月前までは。


「お疲れ~」


 私たちは出番を終え、帰り道のお店で打ち上げを行っていた。とはいえ、未成年なのでジュースなんだけど。微炭酸が程よく喉を通り抜ける。やっぱり仕事の後のライフガード最高。


 地元ケーブルテレビ設立20周年企画として結成された半年限定のローカルアイドルグループ、それが私たちの「鈴なりディアーV」。


 設定としては「鈴なり一家」として、長女がヒミコさん。次女が私、ベルル。末っ子が紗江子ことサエ。そしてお母さんとして鹿ママが控えている。正直この設定いるのか? という疑問もあるけど、気にしないことにした。これは事務所の社長案らしい。


 今日はケーブルテレビの番組収録だったのだ。ショッピングセンターのイベントも兼ねているので溜め撮りはせず、毎週行っている。すでに三回目を迎えていた。


「今日も楽しかったね~」


 ふんわりと丸みを帯びたマッシュボブが小さく揺れる。ヒミコさんが瞳を細めて私に笑いかけてくれた。それだけできらきら光が零れるからこの人はすごい。さすが二年前まで東京で活動していたアイドルだけはある。普段はちょっとのんびりして、語尾が延びる所が特徴だった。私は年上にもかかわらず、かわいさを感じずにはいられなかった。。


「ヒミコさん、良いわけないです。最後は”またしても”ベルルこと若葉さんによってグダグダになったんですから」


 生意気な口をきいたのは私より二つ年下の紗枝子だった。前髪が切りそろえられ、まっすぐ伸びた長い黒髪が印象的で、いつも私に偉そうなことを言ってくる。確かに私より実力があって向上心もあるので、文句言えない。しかも、怒りながらも、きらきらしてる。ヒミコさんには劣るけどこの子も素質はあると思う。


 でも、ムカつくよね。だからついつい口からでちゃう。


「黙れ、小娘が」

「黙りません。同じ間違いを繰り返す向上心のない態度を改めてください」

「私だって一生懸命やってるって!」

「だったら結果を出してください。ハプニングを売りにするなんてずるいじゃないですか」


 腕を組んで私に対抗する気満々だよ。しかも悔しいかな言い返せない!


「まぁまぁ、二人とも~。楽しかったから良いじゃない~」

「ヒミコさん……もう、分かりました」

「紗江子、ヒミコさんだったら良いわけ? 向上心無いよ今の発言は」


 すると、紗江子は眉間に皺をよせて睨みつける。光が弾けた。紗江子はヒミコさんを尊敬していているので、彼女に言われると何もいえなくなる。っていうか私、年下に睨まれた?


 私が席から立ち上がると、そっと手が肩に触れた。


「若葉、その辺りにしよう。高見も一生懸命にやっている人間に追い討ちをかけない」


 置かれた手の重さを一心に受けて私の顔が一気に熱くなっていくのがわかる。ゆっくり横目で伺うと、眼鏡越しのやさしい笑みが私に向けられていた。長峰マネージャーだった。いつも舞台袖から私たちを見守ってくれる、心強い味方。


 っていうか、わ、私、肩を触れられてる! どんどん心音が大きくなって私の耳に鳴り響く。思った以上に硬い感じの指なんだ……強張った私の表情を見たからかな? 長峰さんは少し顔を上げて、にっこりと微笑んでくれた。


「皆、本当によくやってるよ。きっとこれからもっとよくなる」

「は、はい……」間抜けな返事しかできない。


 長峰さんの顔が上がったせいで少し筋張った首元が見える。なんだか見てはいけないものを見たような気がした。柔らかい笑顔と対照的なので、私はつい視線をそらしてしまう。


「じゃあ、食べようか」

「ですね。まだ全部は揃ってないですけど、お腹すきましたから」

「そうだよ~、紗江子ちゃんきっとお腹すいてたから、イライラしてたんだよ~」

「そ、そうですね……」


 長峰さんの一言から、ピリピリしたムードがすぐに和んでしまった。やっぱりこの人がいてくれて良かったと思う。私は暖かい気持ちになって、微笑もうとした。


「つーか、長峰甘すぎ」


 今までの流れをぶった切る、中性的な声がした。私は身震いする。やっぱり来たのかコイツ。


「若葉。今度はステージの後ろを爆破するから、お前そこに飛び込め」

「できるわけ無いでしょ! 突拍子も無いことを言わないでください!」


 長峰さんとは対照的にTシャツの上にスカジャン、ジーンズを履いた、茶髪のちゃらちゃらした男が私と長峰さんの間から顔を出す。この人が私が所属する事務所の社長、深山大吾みやまだいごだ。二十代後半で事務所を立ち上げ、二年目。ローカルアイドルの突拍子もない設定もすべてこの人の仕業だ。


「しかし、鹿ママを危険な目にあわせるのは許さん」


 ちなみに鹿ママはこの人が世話をしている。ゆえに鹿ラブな姿勢は崩さない。


「あれは鹿ママが逃げたせいで……」

「お前がヒモを持つ仕事ぐらいできないのが問題だろ」


 社長の言葉に紗江子が何度も頷く。くそう、今日は我慢しようと思ったのに。思ったのに……私はの限界は簡単に訪れた。


「はぁ~? 何言ってるの?」


 言ってしまった。長峰さんの前では、もう怒るまいと思ったのに!


「私に被り物をつけたのはドコのどいつでしたっけね!」

「ココのコイツだよ。なんか文句あるか」


 自信満々に自分を指差す社長に私は頬を引きつらせた。この無意味な自信過剰ムカつく!


「文句有り過ぎて私の頭の中で交通渋滞起こしてるわ」

「お前の頭の中が一方通行の一本道だからだろうが! この単細胞! バイパス作れ! 公共事業増やせ! 道路工事しろ!」

「はぁ~~~~? 私の国会では公共事業なんてありませ~ん。天下り禁止~」

「お前、公務員が何でもかんでも天下りしていると思うなよ。大半の公務員がなぁ……公務員はなぁ……」

「公務員がなによ」

「なんで、オレが公務員の味方してるんだよ!」

「しらないよ!」


 私が怒鳴ったところでヒミコさんが、のんきな声で合いの手を入れた。


「二人とも仲良いわね~」

「馬鹿同士の会話にしか見えませんけど」


 続いて紗江子も口をだす。この小娘もいつかぎゃふんって言わせてやる!

 そして二人の会話に社長は鼻で笑って答えた。


「いや、コイツに合わせてるだけだから」

「はっ? 三十過ぎの大人が何言ってんだか」


 いつもいつもこの社長は何かと私に突っかかってくる。最初は社長だし、下手にでてたんだけど、我慢できなくなって、つい言い返してしまったのが運のつき。今では子供じみたケンカばかりしているような気がする。


「とにかくお前は鹿ママに謝れ」

「なんで鹿ママに謝らなくちゃいけないの。私、顔をかじられたんだから!」

「かじられろ、そしたら新しい頭つけてやるよ」

「この鹿バカ! 私の顔は食べ物じゃない!」

「知ってるよ。俺があの顔作ってるんだから。いわば俺がパパなんだから。いやダンボールおじさんなんだから」

「正直キモいです」


「でたよ。はい、またでました、思考停止ワード『キモい』。それ以外言う言葉無いの? 語彙力ってのはないの?」

「ないよ、ダンボールじじい」

「三十過ぎを馬鹿にするな!」


 私と社長が睨み合っていると、小さな声が聞こえてきた。


「あの~、そろそろ食べ物置かせてくれるかな……」


 後ろを振り向くと、店員が注文した食べ物を出せずに困っていた。


「ゴメンね。千尋」


 たこ焼きを持ってきてくれたのは、米澤千尋よねざわちひろというクラスメイトだ。

 私が両手を合わせて謝ると、彼女は肩をすくめた。


「いや、陽と深山さんの話って入り込む隙がないから、困るよ」


 と言って微笑む千尋のさらに背後から長身の男性が突っ込みを入れた。


「いやいや、お前もハッキリと言えよ。いつもはずけずけと言うくせに」

「誰が? ずけずけ? 私はまこと以外の人には節度ある会話を心がけていますけどね」


 千尋に真と言われたのは、このたこ焼きや「たこぼうず」を切り盛りする奥戸三兄弟の次男、奥戸真さんだ。長峰さんに負けない長身が千尋を見下ろす。


「おい、千尋……俺にも節度を保てよ」

「はぁ? なんで? ねぇ、なんで? 女の子に対してそんな態度の人間に、な・ん・で、節度を保たなければいけないのかな?」


 二人は睨み合いながら店舗であるコンテナハウスに戻っていった。千尋、アンタ達の間にも入り込む隙が無いから。


 とにかく、毎週番組収録が終わると、「たこぼうず」で打ち上げするのが恒例となっていた。


 ちょうど皆が頼んだメニューが揃ったので食べ始めた。私は横目で長峰さんを盗み見る。普段はなかなか隙がなくてのだけれど、たこ焼きを食べると青海苔が唇についてたりして、私としてはポイントが高い。このままずっと眺めていたい気分に浸っていた。


 そうしてしばらく雑談が続いていたのだけれど、社長が手を叩いて皆の注目を集めた。


「えーっと、突然だけど来月、ライブを開催する」



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