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3/21 4:10 「きらきら、きら」

今回のコメント


だんだんラブコメというより、スポ魂みたいになってきた気がする……

でも、気にしな~い!



********************************



 早速今日からは三人合わせての練習となる。別々の練習していたから分からなかったけど、二人は格段にダンスが上手くなっていた。二人の息もぴったりで、私だけ別世界の人間のように思える。次第に動きが縮こまっていき、何度も曲を止める羽目になった。


「本当に先週から練習してたんですか?」


 紗江子から容赦ない言葉が飛び交う。私は何も言い返せなかった。ヒミコさんも私にかける言葉が見つからないようで、じっと見つめているだけだった。


「落ち込む気持ちはわかりますが、いつまでもウジウジしてる人は大嫌いです。私達はアイドルなんですから、もっとしっかりしていただかないと」


 アンタは迷いなくていいね。私はアイドルだからって開き直れないよ。自分をそれほどアイドルだなんて思ってないし、今までだって長峰さんやヒミコさんがいたから続けられたって言うのがあるし……こんなこと考えていたからかもしれない、いつの間にか私は紗江子を睨んでいた。


「なんですか? 睨んだってアナタのダンスは上手くならないでしょ? もういいです。邪魔なんで今日もバラバラで練習しましょう」

「ちょっと待って。ほら、紗江子ちゃんも落ち着こうよ。長峰さんがいなくなって責任感じているのは若葉ちゃんだし」

「でも……」


 紗江子は明らかに不満顔で私を睨んでくる。紗江子はダンスしててもきらきらが溢れていた。こんなに憎たらしい子でも光り輝いているのに私ときたら……


「若葉ちゃん。一度外の風に当たってきたら?」


 なんだか体よく追い出されたような気がする。だけど今の私にはそれがありがたかった。



 スタジオの外に出るとひんやりとする風が私の頬に触れた。正直また泣きそうになってた。自分が長峰さんを救うなんて馬鹿げた思い込みがなければ今でも上手く行っていたかも知れない。タラレバはしてもしょうがないけど、頭から離れない。


「よう、どうした。今日は被り物してないな」


 背中越しにいつもの陽気な声が聞こえてきた。こんな時に言い合いなんかしたくない。私は社長の言葉を無視した。すると私に聞こえるような大きなため息が聞こえた。


「はぁ……長峰がいないと、力でないか」

「そんなこと……」

「確かにいつも長峰は壁にもたれて腕組みして、お前を見ていたからな」


 社長はよく不在があったけど、長峰さんはいつもいてくれた。私のダンスを一番良く見てくれていたのも彼だった。それがもういない。姿がないことがこんなに心細いなんて思わなかった。


「よく聞け。長峰はきっと初ライブに来る。何だかんだいっても、お前達のことが気になるだろうからな。職場放棄したことを考えると意外かもしれないが、前の職場では仕事熱心だったらしいぞ。だからきっと来る」


 来て欲しい。そしてもう一度会いたい。会ってちゃんと謝りたい。

 そんなことを考えていた時、不意に肩へ社長の手が乗せられた。


「だから、その時にお前が長峰に証明するしかないんだ」

「何をですか?」

「アイドルとして成長した証明だ」


 私がなにも言えずに固まっていると、社長は話を続けた。


「長峰がいなくなった日数、たった三日足らずだ。だけどお前がアイツに見せなかった部分だ。そいつをステージで披露するんだ。本来、ファンとアイドルってのは、そういう関係だろ? そして長峰は当日客の一人として来る」


 長峰さんはファンじゃない。マネージャーだ。だけど、一番近くで見てくれてたファンとも言えなくはない。それに当日は舞台袖ではなく、客席にいる。


「これは俺の勝手な持論だが、アイドルは……いや、他にも通じることかもしれないが、誰も見ていなくても努力し続ける価値を分かっている者が頂点を手にできるし、そうであって欲しい」


 私、長峰さんにいて欲しいって思ってた。それは今でも変わらない。アイドルじゃなくて個人としてそう思う。


「だから長峰にも教えてあげて欲しいんだ。嫌になることがあっても、続けないと意味がないんだってな」


 教えるなんて大層なものじゃない。伝えるんだ。そしてお客さんとして訪れる長峰さんにはライブでしか私を見せることができない。今はアイドルとお客さんという関係でしか会話ができなくなったんだ。


 ……やらなきゃ。

 私は歌うことができない。せめて長峰さんと練習した振り付けだけでも完璧にしなくちゃ。私の思いをパフォーマンスとして伝えよう。


 そう思ったら、なんだか気持ちが軽くなった。きっと思いをぶつける先がわかったからだ。

「ヒミコと紗江子を見てショックを受けたか? だったら努力しろ。限られた時間で努力した若葉を魅せろよ。お前のお前たる存在意義を見せ付けてやれ」


 なんだか、少し気合が入る。この社長、案外人を乗せるのが上手いな。普段は嫌なことしか言わないくせに。

 私は社長に礼を言ってレッスン場に戻っていった。



 室内に戻ってきた私を紗江子が睨みつけてくる。


「なんですか。戻ってきたんですか。邪魔です。今回はいつもどおり鹿ママのお守りしててください」

「黙れ小娘」

「なっ……」

「この三日で絶対にものにしてみせるんだから!」


 やっと言い返すことができた。すっきりした!

 私の言葉に紗江子は特に反論することなくそっぽを向いた。


「まあいいでしょ。最終日まで我慢してあげます。でも、それでも上手くいかなかったら……」

「うるさいって言ってるでしょ! 上手くいかなかったときのことなんて誰が考えるか!」


 これが私だ。文句あるか。ふんっと鼻を鳴らして胸を張った私。少し笑みを浮かべて私を見る紗江子。やっと元の調子に戻った気がする。


「わかりました。もう何も言いません。でも、最後に一言……」


 目を瞑った紗江子はハッキリとした口調と共に目を開けて私へ視線を向けた。


「若葉さん、アナタは私たちを馬鹿にしているんですか?」

「……え?」

「アナタが私たちを気にするなんて百年早いです。心配しなくても完璧に踊ってみせます。だからご自分の振り付けに集中してください」

「小娘……」

「それとも私たちが信じられませんか?」


 紗江子の苛立ちの正体が分かった。コイツ、思った以上に良い奴なんじゃないの?


「……わかった。考えてみればダンスは圧倒的に紗江子のほうが上手いんだから、もう気にしない……っていうか信じる」


 すると紗江子は自分の肩にかかった髪を払いながら照れくさそうに「ふんっ」と言って前を向いた。


「よ~し、それじゃあ始めますか~。最初から通しでやってみましょ~う」


 そうだ今は私をステージで証明するために練習あるのみだ。

 見てろ初ライブ! 見ててよね、長峰さん!





更新は1~2時間後(69%)

いや更新するけどね。

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