3/21 2:05 「きらきら、きら」
今回のコメント
被り物をどうやって生かすか悩みました。
設定は面白いのですが、本当に生かすお話作りって難しい。
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しばらくして、レッスン場の外から賑やかな声が聞こえてきた。私はベルルを被ったまま隅に座ったまま動けない。声がどんどん近づいてくる。早くしないと。明るく振舞わないと。
「おーす、今日も二人でイチャイチャ特訓して……あれ? 一人?」
「やっぱり恥かしくて~帰っちゃったんですかね~」
「一人で被り物と鹿せん持って特訓ですか、まるっきり変態ですね」
私はなんとか、鹿せん持っておどけたボーズをして待ち構えることができた。お陰で何も悟られなかったと思う。私はお帰りなさいと言う変わりにお辞儀をした。
眉間に皺を寄せた紗江子が私に近づいてくる。ば、ばれた?
「どうしたんですか? ……なるほど。パントマイムの特訓も兼ねてるわけですね」
私は大げさに頷いた。すると紗江子は「お~」と感心している。
「長峰さんはやっぱり恥かしくて帰っちゃったの~」
ヒミコさんの言うことに私はまたもや大げさに頷いた。二人が小さく拍手をして私を見ている。誤魔化すことには成功したみたい。少しほっとしたところで、誰かに手首を捕まれる感覚がした。
「ちょっと来い」
横を見ると怖い顔をした社長がいて、私を引っ張っていた。ヒミコさんと紗江子を置いて社長と私はレッスン場の外に出た。
「ばーか」
外に出て開口一番、社長は言った。私は言い返せないまま俯く。
「何があったかちゃんと話せ。誤魔化せると思うなよ」
社長は近づいて顎ヒモを引っ張った。私は抵抗しようとしたけど、その元気もなかった。両手で被り物が外されて、私の素顔は外に晒された。社長はこっちを見てポケットからハンカチを取り出して、私に突き出す。ハンカチからは暖かい光が零れ落ちていた。
「泣くな。お前のせいじゃない」
ハンカチを受け取った次の瞬間、私は社長の腕にしがみついた。最初は声を我慢しながら少しずつ感情をこぼした。
「お前は本当に馬鹿。こんな時ぐらい我慢なんてするな」
私を包み込むように社長の手が髪を優しくぽんと叩いた。暖かいきらきらした光が私を包む。とても優しくて心に解けていく。我慢していた気持ちが一気に噴出して、私は声を上げて泣いてしまった。他人の前でココまで泣いてしまったのは初めてかもしれない。小さな子供みたいに泣いた。大粒の涙が零れ落ちた。
しばらく泣いた後、私はぽつりぽつりといきさつを話すことにした。社長は茶化すことなく何度も頷いて聞いてくれた。
「なるほどな。原因は俺ってワケだな。申し訳ない」
社長がまともに頭を下げたところを初めて見た。同時にもう見たくないないと思った。
「ヒミコは全部を説明する事はできないよ。だってアイツも事件に関係あるんだから」
頭をかいて「うーん」と言った後、社長は真実を教えてくれた。
更新は1~2時間後(90%)