3/21 0:10 「きらきら、きら」
今回のコメント
鹿とかエビとか出てきますが気にしないでください。
というかこのコメントがおざなりなのも気にしないでください。
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腰紐一本で繋がっている私たち。たしかに心もとない紐かもしれないけど、今の私には十分だった。楽しくレッスンするんだ!
さっそくベルルを被って、鹿せんを持って、振り付けを始めた。最初は突っ立っているだけの長峰さんも、しだいに歩いて移動するフリをしてくれる。昨日みたいに四つんばいはないけど。
「長峰さん、社長はこんなものじゃなかったですよ!」
「ええ? こうかい?」
ちょっとだけ鋭角な動きを見せる長峰さん。だけど、ヒモはすこし引っ張られただけだった。
「もっと、荒ぶる鹿の舞を!」
「荒ぶる鹿の舞? なにそれ?」
「こうです!」
私が腰紐を引っ張ると長峰さんは尻餅をついた。
「つ……」
小さい声を出したまま長峰さんは尻餅の体制のまま動かない。私は心配になって長峰さんに近寄ろうとした。
「長峰さ――」
その瞬間、紐が強く引っ張られ、私はエビ反りになった後、前のめりに倒れれた。べたっと音を立てて倒れていると、頭上から声が聞こえる。
「……ベルルのエビ反り」
「へ?」
顔を上げるとしゃがんで私を見つめる長峰さんがいた。その距離数十センチ。とっても近い。毛穴まで見えそう……っていうか私も見られてる! 顔が熱くなってきた私は二回転ほど横に転がった。
「うおっ!」
横に転がったせいで紐が短くなって、長峰さんが急接近する。長峰さんが私を踏みつけそうになったので、彼は体勢を整え、私の体を跨ぐ形になった。
両手は私の肩辺りで踏ん張り、寝ている私に長峰さんが四つんばいで上になる形になってしまった。私の体を男性が跨っている。って書くとすごくいやらしい。でも、生まれて初めてですから。私の上に男性の体が覆うなんて。
遠くから眺めてても大きかったのに、ここまで近いとさらに大きな影が私を包んでいる。……正直、少し怖い。
よかった、被り物してて。……考えてみれば被り物してるんだから、顔が近づいたって毛穴まで見られるわけないんだよね。それなのに私、回転しちゃって……馬鹿だ。私は馬鹿です。ベルルの中で顔を真っ赤にしながら眼を瞑った。
「……ふっ」
狭い視界から至近距離の長峰さんが見えた。今、吹きだした?
「あははは!」
さらには大声で笑い出した。自ら腰紐を外すと長峰さんはレッスン上に寝転ぶ。
私はその隣で相変わらず赤面したまま寝転んでいる。お父さん以外で隣に誰かが寝転ぶなんてありえない、けど、今ありえてる! 自分でも何言ってるかわからないよ。
「君は、本当に飽きさせないな。考え込んでた自分が馬鹿らしくなる」
それなりに上手くいったのだろうか。あー、まだ胸がドキドキいってるよ。まだ長峰さんは笑っていた。なんだか私も笑えてくる。ドキドキする人が笑うと私まで笑えてくるから不思議だね。気持ちは伝播するんだ。
感情を共有するってやっぱり楽しい。それが大切な人だったら、凄く嬉しいことがわかった。私、やっぱり長峰さんが好きかもしれない。
次回更新は1~2時間後(75%)