3/20 22:05 「きらきら、きら」
今回のコメント
たこ焼き。
食べようと思ったら50個ぐらいいけますよ?
家庭用のたこ焼き機の大きさですけど。
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次の日、振り付けの練習の前にちょっと腹ごしらえするためにヒミコさんと私は「たこぼうず」で待ち合わせをした。
「ホントよく食べるねぇ~」
「当然です。また今日も特訓ですから。まったくあの社長にも困ったもんです」
「でも最近レッスン嫌がらなくなったね」
「あはは、私なりになんとなくアイドルっていう自覚が出てきたって事ですね」
「頼もしいね。頑張って、ベルルちゃん」
「ベルルって言われると力が抜ける……」
私がため息混じりに鼻を鳴らしていると、千尋が焼きたてのたこ焼きを持って来てくれた。鰹節と青海苔、なによりソースの香りに私のお腹が反応した。
「なになに、困りごと? よかったら私、相談に乗るよ」
「はいはい、千尋は仕事して。これは鈴ディアの秘密会議なんだから」
相談したくても、後ろで真さんが怖い顔でアンタを睨んでるだって。
「本当に困ったら私に言って。力になれると思うよ」
後ろ髪を引かれる様に千尋は去っていった。すぐに店舗で言い合いが始まったけど気にしないことにする。
ヒミコさんは運ばれてきたたこ焼きを割り箸で口に運ぶ。はふはふ言いながら、私に何かを言おうとしていた。
「ほへれも、はのはひょうは……」
「ヒミコさん、口の中を空にしていってください」
「……ふう。最初に話しようと思ったけど~、たこ焼きの魅力には勝てなかったの~。あのね。あれでも社長は色々考えているから大丈夫だよ~って言いたかったの」
「私を茶化すことも考えのうちですか?」
「あれは単なる嫌がらせだと思う~」
やっぱりか! 誰が見てもそうだよね。よし今度から心置きなく戦ってやる。
「でもね~、私と長峰さんを誘ってくれてたのは社長なんだよ」
「え? じゃあ、ヒミコさんもスカウト組みですか?」
逆に考えると紗江子だけがオーディションを勝ち抜いた本物だったわけだ。まぁ、私はお茶濁し要員だから、数の内に入らないけど。
……って、今さっき長峰さんも社長に誘ってもらったって言ってなかった?
「でも、なんでヒミコさんが長峰さんの入社したいきさつを知っているんですか?」
「……あ~」
のんびりと自分の失敗に気づいたヒミコさんは、慌ててたこ焼きを三つほど口に入れた。
「んぐ~、んぐ~っ」
「喉詰まらせた振りして誤魔化さないでください。教えてもらいましょうか。長峰さんが入社した経緯を」
私は無理やり水を飲ませてたこ焼きを食べさせた。元に戻ったヒミコさんはすっかり大人しくなっていた。
「でも~、本人から聞くの一番だと思うし~」
「じゃあ、昨日社長が長峰さんに『お前も根はマネージャだな』って言った理由を教えてください」
「ぴ、ピンポイントすぎるよ~」
ヒミコさんは頭を抱えて「どうしよう~」なんていっている。この人、本当に「鈴ディア」のエースなんだろうか。そして密かにヒミコさんのファンが近くに座っていることに気づいているのだろうか……という心配は置いておこう。
ヒミコさんは少し俯いて覗き込むように私を見つめた。
「聞かないほうがいいよ。若葉ちゃんは長峰さんに好意を持っているみたいだから」
「大丈夫ですよ。私平気です」
本当は全然平気ではなかった。心臓はドキドキ鳴っている。人の秘密を聞くのは正直なれていない。だけど、目力を込めてヒミコさんを見つめる。すると小さくため息をついて観念したようだった。
「じゃあ、言うね……少し私の憶測が入るから話半分に聞いてね」
私が黙って頷くとヒミコさんは話を始めた。
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