3/18 2:31 「きらきら、きら」
今回のコメント
少し心配になったので、「鹿せんべい アイドル」で検索してみました。
軽く見た限りでは該当する人たちはいないようでした。一安心。
だけど、本当にやる人がたまいるから侮れない。ローカルアイドル恐るべし。
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ヒミコさんと紗江子が帰った後、私は居残りで練習をしていた。さすがにライブがあるのに今のままでは足を引っ張るのは分かっていたから。さらにダンススタジオの人たちのご好意もあり、実現した。
たかが期間限定のローカルアイドルなんだけど、市内のあらゆる人たちが私たちに友好的だった。制服っぽい衣装も合間に食べるの飲食物も、ほとんどが誰かからの差し入れ。それだけに下手なことはできないと思ったのだ。こんな私でも責任感は一応あるつもり。
なのに……
「さぁ、もっとテンションあげて踊れよ」
「踊れるか! こんな物持たされて踊る人の気持ちになれよ!」
「こんな物って、重要だぞ、それ」
「鹿せんべいのどこが重要なんですか!」
居残り特訓、飛び散る汗、懸命な表情、全てがアイドルっぽいのに、手に持っている鹿せんべいだけが私の邪魔をしていた。鹿せん持ってるアイドルなんて聞いたことないよ!
社長の思い付きには本当に手を焼かされる。というかムカつく。
「鹿ママをライブ中ずっとお世話するために決まっているだろ」
「私は鹿ママの世話係か!」
「そうだ」
「うぐっ……」
ハッキリ言われると言い返せない。社長は頭をかきながら面倒くさそうに答えた。
「お前に被り物を授けたのは理由がある。まずは顔の問題」
またもやハッキリ言われると何も言えない。
「後は体型が……」
「もういい。それ以上喋らないでください。今だって殴りそうなんですから。鹿せんべいが割れますよ、それでもいいんですか?」
社長は私の言葉に動きを止めた。
「それは明日の鹿ママのおやつなんだ。止めてくれ……」
私が鹿せんをフリスビーの要領で投げた瞬間、社長が走り出してキャッチした。
「なにするんだよ!」
「ナイスきゃ~っち」
「て、てめえ……卑怯だぞ。悪意しか感じない!」
「鹿せん持たせて踊らせるほうがよっぽど悪意感じるわ!」
すると社長のズボンのポケットから携帯電話の着信音がした。
「あっ、俺の嫁からだ」
「早く行け、バカ!」
出入り口に向けて鹿せんを投げた。するとものすごい勢いで社長が走り出す。
「若葉、お前あとで覚えてろよ!」
「はぁ~? ベタな悪役の去り際か」
私は舌を出して、ダンススタジオを出て行く社長を見送った。
次回更新は1~2時間後(80%)