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今回のコメント
・昔の癖で高校って入力しようとすると学園って入力してしまう。
(ちなみに理由については考えてはいけない。高校って表記してはいけなかったんだよ、言わせんな恥ずかしい!←自分で言ってるじゃん)
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暦が変わっただけで、急に状況が変わるわけではない。自分の席で座っているだけで、じんわりと汗をかいてしまう。二学期が始まって三日目。今日から通常授業になるわけだ。また学生としての日常が始まる。周りでは始業前に日焼け自慢や「宿題やった?」とか「夏休みどうしてたか」という会話が未だに続いていた。
そうさ、僕は日焼けしたさ。宿題は暇だったからやったさ。夏休みの思い出は……ある。ゲームと昼寝にいそしんでた夏休み。あの日、死にかけた僕を助けてくれた高月先輩と会話したひと時。僕はある決心を固めていた。今日の授業が終ったら行動を開始しよう。
「ちょっと、甲斐斗。今さっき岡留から聞いたんだけど」
幼馴染の守屋沙和がいつの間にか僕の目の前に立っていた。ショートカットの活発な彼女は陸上部ということもあって、真っ黒に日焼けしている。夏休み充実組みである。ちなみに岡留とは僕の数少ない友人である。
「アンタ、日記部に入ろうとしてるんだって」
沙和の口から『日記部』という言葉が出てきた途端、教室中が静かになった。一斉に僕へ向けた視線を感じた。中には「あわわわ」とか言って教室をでていく男もいた。
さすがは日記部。その悪名は輪転高校内に知れ渡っているようだ。
ちなみに日記部とは高月亜也が部長をつとめる文科系の部活名である。部員は高月先輩を入れて現在二名。活動内容は『日記に残せるような素晴らしい高校生活を送るためにあらゆることを行う』という曖昧なもの。簡単に言えば、『高校生活をイベント開いて盛り上がろう』という一見すると軽薄な活動に見られてしまう部活である。
沙和は僕を見つめたまま動かない。正確には睨まれている。まるで僕が重罪を犯したみたいに。
「高月先輩の別名を知らないわけじゃないでしょうね」
「殲滅の日記姫だろ?」
「し、知ってて挑むの?」
瞳を大きく開いて沙和は天井を見上げた。呆れている様子である。
「なるほど。甲斐斗も伝説のひとかけらになるわけだ」
「ならないよ」
日記部には、いや、高月先輩には伝説がある。今年の四月、日記部には高月先輩の美貌に惹かれ、彼女と楽しい時間を過ごしたい、あわよくば彼女にしたいという男子新入生が五十人入部したという。それだけでもすごいのだが、五十人全員が一日で退部するという事態に発展した。退部した理由を誰一人として語らず、ただ震えるのみだったらしい。さっき出て行った男もきっと退部した一人だったのだろう。五十人を一日で殲滅させたとして高月先輩は「殲滅の日記姫」というありがたくない二つ名を手に入れた。それ以来、日記部には誰も入部せず、今では部員は二人という話だ。
「なんで? わかんないよ。無気力大魔王の甲斐斗が部活なんて」
たしかに自分でも信じられない。だけど、ちゃんと理由がある。
「夏休み誘われたんだ。日記部に入らないかって」
「誰に? まさか高月先輩?」
「いや、滝川先輩。そもそも日記部のプールイベントに行こうって言ったのは沙和じゃないか」
「それは滝川先輩に誘われたから……」
ここでいう滝川先輩とは日記部の副部長である滝川夕実のことである。滝川先輩と沙和は中学生の時の部活の先輩後輩の間柄だ。「夏休みに日記部のイベントで、学校のプールを一日か仕切って遊ぼうって企画がある。どうせ殲滅姫のお陰で人も集まらないし、来ない?」と滝川先輩から聞かされた沙和は、僕と岡留を誘ってイベントに参加したのだ。
僕に反論されて沙和は口を尖らせた。
「甲斐斗はどうせロクな夏休みの思い出なんてないと思ったから、一緒に過ごそうと……」
「は?」
「なんでもないっ!」
日記部イベントの日。高月先輩に「体でお礼をしてもらう」と言われた直後、待ってましたとばかりに滝川先輩が現れて「日記部に入部することが恩返しというものだ」と僕を指差して宣告したのだ。すかさず高月先輩が「僕の自由意志に任せる」と、とりなしてくれたお陰で結論は先送りになった。
そして自由意志の結果、僕は日記部に入ることに決めたのだ。
「どうせ一日で退部すると思うけど……」
沙和は僕を心配そうに見つめてくれた。彼女はなんだかんだ言って、僕を心配してくれる。そのままゲームに現れそうな幼馴染の鏡である。でも、かえって気を使われることが僕にとって重荷になることがあるのだ。
なんせ日記部に入る動機が『中学の卒業式に言ったお前の言葉が頭に残ってるから』だから。僕は喉まででかかった言葉を飲み込んだ。
もう空っぽの高校生活からおさらばだ。考えてみれば「思い出を作る部活」なんて僕にピッタリの部活じゃないか。今までなぜ気づかなかったのだろうと思う。
「はい。じゃあ、この話は終わり。さっそく今日入部届けをだしに行くから」
「一緒に行こうか?」
「お前は部活だろ」
「そうだけど……」
沙和は僕に目線を合わせて少し近づいた。僕は思わず仰け反りそうになった。
「気をつけてね」
「お、おう……」
こうして放課後を迎えることになった。
とりあえず今日はこの辺にしておきます。(現実逃避してきます)