表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/539

8/25 2:10

今回のコメント



・もう少しこの辺は話を厚くしたい気もするけど、後のことを考えるとこれぐらいかなぁ

・大人っぽい魅力が高月先輩から出てたらそれでOK


・あと「君は二番目」発言は大好き。


***********************************


「いったい――」

 不意に隣から声が聞こえた。次の瞬間、僕の鼻がつままれた。

「いつまで気絶しているつもりかな? 君は」

「ふごっ!」

 つままれた鼻は吊り上げられ、僕は盛大に豚鼻を鳴らしてしまった。ひぎぃ、恥ずかしい。つーか、気絶しているフリがバレてた! 僕は鼻に釣られる様に上半身を起こした。僕は鼻をさすりながら、横目で女の子へ視線を向ける。瞬間、感情が爆発しそうになった。胸のソワソワと背中のゾクゾクが一度に襲ってきて、身震いした。

 飛び込んで来たのは大きく開かれた瞳。光彩を放ち、僕は視線を外せない。吸い込まれるという表現はこれなのだと気づく。少し釣り目気味なのが、どこか責められているようで、胸の鼓動を早くさせた。

「男の子の一本釣りのできあがりだね」

 少し厚めの唇が得意げな表情のせいでアヒル口になっている。やや少しぬれて、しっとりと体にまとわりつく黒髪。乾きつつあるけど、湿っている水着。どれも健全なる高校生には刺激的過ぎた。

「高月先輩……」

「私の事知ってたんだね」

「まぁ……有名人ですから」

 彼女はあまりにもこの高校では有名人物だった。名前は高月亜也たかつきあやと言う。もちろん美貌もさることながら、別の意味でも知られていた。「日記姫」と。

 高月先輩は僕を見つめて体育座りのまま、少し首をかしげた。

「おはよう。草弥甲斐斗くさやかいと君」

「僕の事を知ってるんですか?」

「君の事は知ってる……よく知ってるよ」

 二回目の『知ってる』と同時に高月先輩は少し視線をそらした。というより、僕の向こう側を覗いているようだった。僕は相変らず高月先輩の瞳から自分の視線を逸らせずにいた。すると先輩も気づいたらしく、僕を見つめ返すと、嬉しそうに弓なりな形をした唇を開いた。

「ねぇ。外してあげようか?」

「な、なにをですか?」

「君の視線」

 高月先輩は言い終わると同じぐらいに僕へ顔を近づけてくる。僕の目の中を覗き込むような大きな瞳が近づいてくる。まままま、まさか。これってやっぱりあれだよな。口は尖がらせるのか? 自然にするべきか? 鼻はぶつからないか? 歯を磨いたか? 宿題やったか? なにこの幸運。僕は自然に目を瞑った。

「ていっ!」

 今、僕は確実に口を半開きにして引きつらせているに違いない。じんじんとおでこが痛い。僕は高月先輩にデコピンをくらわされていた。僕はおでこをさすりながら、俯いた。

「ほらね。視線はずれたでしょ?」

「外れましたけど……」

 高月先輩は「あはは」と声を上げて笑うと、いつまでもおでこをおさえている僕に向かって小さくため息をつき、少し強い口調で僕を諭すように答えた。

「情けない声上げない。九死に一生を得たんだから」

 そういえば。僕は状況を思い出した。プールで泳いでたつもりが、いつの間にか周りが海になっていて、サメに囲まれた後、海底に引きこまれたんだ。

「大変だったよ。プールから引き上げるの」

「そうですか……先輩が助けてくれたんですね。ありがとうございます」

「引き上げたものの少しの間息をしてなかったから、ビックリしちゃった。水をたくさん飲んでたようだし」

「すいません、ご迷惑をお掛けしました……って『少しの間息をしてなかった』って言いませんでしたか?」

 僕の言葉に高月先輩はくすりと笑った。さらに一瞬だけ視線を僕へ向けた。含みのある仕草。

「『息してなかった』って言ったよ。でもすぐ処置したし、大丈夫」

「あぁ、そうですか……って処置!?」

「うん。君への適切な処置」

 溺れてる、助ける、息してない、といえば、皆さんおなじみのアレですよね。ま、まさか人工呼吸まで!? 

「まさか、かかかっ」

 僕は言葉に詰まったが、無意識に指を唇へあてていた。すると高月先輩の閉じた口が少し開いて笑ったように見えた。

「責任取ってくれる?」言いながら先輩は少し舌で自分の唇を舐めた。

 僕は高月先輩の大人っぽい仕草に不覚にも立ち上がれなくなり、体育座りに座りなおした。本当ごめん。でも、男ならだ誰だってそうなるよ!

「でも、君は二番目だけどね。残念だけど」

 なんだろう、このガッカリ感は。体育座りは崩さないけどな! 高月先輩は人差し指を唇に当てて、僕へ視線を合わせる。

「だけど、キスしたことには変わりないでしょ」

 再び僕は視線を外せなくなった。あの唇が僕の唇に。さらに息まで吹き込まれるなんて。もう婿に行けないっ! ……というくだらない冗談さえ浮かぶぐらいに僕は舞い上がっていた。

「はい。ありがとうございます……なにか御礼をしないと」

 高月先輩の瞳と唇に目を奪われたせいかもしれない。僕は御礼なんて言葉がでていた。先輩は指を口許にあて瞳を細めた。

「そうだね……」

 気のせいか、先輩の瞳が鈍く光った気がする。きゅぴーんっていう音が聞こえた気もする。

「お礼はその体で返してもらおうかな?」

 完全にはめられた。僕は高月先輩の言葉を聞いてようやく理解できた。高校一年の夏、これは忘れられない出会いになるのだろうか。今の僕にはわからない。




更新はとりあえずこれまで。

(全然進んでない……)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ