2/20 5:55 『永遠なるもの』
今回のコメント。
大人だと勝手に頭で納得してくれる場合が多いけど、子供はそうはいかない。
大人のような行動をさせた途端、気を使わせてしまったと知る場合が多い。
そんな時、少し申し訳ない気持になる。
全然関係ない話だけど、僕が以前財布をなくして駅から帰れなくなった時に、妹に車で迎えに来てもらった事がある。
その時に助手席には甥が座っていた、というよりは寝ていた。
手には懐中電灯を持っていた。どうやら僕の財布を捜す気満々だったらしい。
誰も探してくれなかった財布を五歳になるこの子が探そうとしてくれたことに感謝した。
でも、助手席で寝てたけど。
子供って、突然大人が気がつかないことに気を遣い、不意をつかれることがある。
というお話。(じゃないだろ)
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「ありがとう」
私は真実ちゃんから離れると、デブリに近づいた。彼は腕組みをして私を見ている。被害妄想かもしれないけど、非難しているように思えた。
「決着が付いたみたいだね」
「ええ。これで私の言うとおりにしてもらうから」
「でも、これは言わせて。もし納得できないような願いだったら、僕が……」
デブリの言葉が終らないうちに私は彼の胸倉を掴んでいた。
分ってる。彼女にまた気を遣わせたことぐらい。だからこんなに悔しいんだよ。
「心配しないで。こっちだって本気でやってるんだ」
「……ご、ごめんなさい」
相変らず小心ぶりは直らないみたいね。私は彼の胸倉から手を離す。着衣の乱れを直すとデブリは私を黙って見つめた。どうやら願い事を言えということらしい。
昨日の電話から願い事はハッキリしていた。それは、物事を表裏一体で考えられるようになること。悲しい事はあったけど、私の中の幸せは確かにあった。そう思えた今の自分を彼女に伝えたい。
だけど……この願いは、なんにも解決しないかもしれない。また、悲しいことがやってくるかもしれない。一時は悲しむ事があるだろう、怒りに狂うことがあるだろう。だけど、それが人生だもん。彼女には感情を殺さずに、一生を楽しんで欲しい。
「彼女にはいつでも小さな幸せを見つける才能を与えてあげて欲しいの」
「小さな幸せ?」
「できるでしょ?」
「うん……」
デブリは腑に落ちない、そんな表情をしていた。本当の不幸と対抗するためには、それと同じぐらいの幸せが必要なわけじゃない。くすりと笑えたり、じわりと湧き上がる幸せだったりする日々の積み重ねなんだ。それを見つけるには少しコツが必要な気がした。
「私を信じて。そしたら必ず笑えるから。偽者ではない本当の笑顔が」
「わかった。それが真実ちゃんの幸せに繋がるなら」
私は黙って頭を下げた。デブリは慌てて私の肩を上げようとする。だけど、私の表情を見て手を離した。そしてゆっくり私の横を通り過ぎた。せっかく顔を隠したのに、完全にばれてしまった。
「真実ちゃん、メリークリスマス。君の人生に幸あれ!」
私の背後からデブリの声が聞こえた。私は涙を拭って頭を上げる。自分は自分の仕事しないと。二人へ私は振り返る。
するとデブリの顔がどんどん変形しているのがわかった。私はデブリを隠すように真美ちゃんの前に立った。
「真実ちゃん、もう私達行かないと。また明日ね」
「え? もう行っちゃうの?」
真実ちゃんは子供らしく、口を尖らせて残念な表情をした。私は肘でデブリを突っつくと、小声で言った。
「最後に挨拶しなさい」
そしてデブリは顔を隠しながら、震える声で言った。
「真実ちゃん、元気でね」
「変なの。明日も会うのに」
私は自分が言ったことに気づいて、口に手を当てた。デブリはそれ以上何も言わず、私の背中の服を引っ張る。なるべくこれで最後にするから、と自分に言い聞かせて、私は表情の固い笑顔を真実ちゃんに向けた。
「それじゃあね」
「うん、バイバ~イ」
足早に立ち去る私達にいつまでも真実ちゃんは手を振っていた。
きっと明日には今日と同じデブリはいない。だけどきっと真実ちゃんなら、小さな幸せを見つけて乗り越えてくれるだろう。
私は「ごめんね」って心で言いながら、思いを振り切るように走り出した。
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