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8/23 1:51

今日のコメント


・今回はいままでのおさらい。

少し冒頭が変わっています。

最後の会話を少し迷っている……


え? 全然進んでない?


な、なんのことやら……(下手な口笛で誤魔化す)


***********************************************



『トロフィー』


▲もうすこし出だしを再考。感覚表現を重視。


 気泡と希望はなんとなく語呂が似ている。

 僕の口から吐き出された気泡はいくつかの塊を作って浮かんでいく。

 ゆらゆらと歪な円形を保ちながら自分と離れていく希望……じゃなくて気泡。

 手を伸ばして掴もうとすると指をすり抜けていく。

 そんなところまで希望と似ないでいいじゃないか……

 母なる海、羊水たる海水、深くて黒い海底へ沈む自分。冷静なようだけど、実際は違っていた。手足を無意味に回している。水圧で上手くコントロールできない。


 いやいやいや、違う。まったく持って違う。だってここは学校のプールのはずだ! 僕は手足をジタバタさせながら必死に水面へ近づく。膨らませた頬に溜まった空気を一気に吐き出し、僕は水面へと顔を出した。辺りを見渡すと、皆が楽しそうに泳いでいる。プールにはおよそ五人。中央にいるのは僕だけで、後はプールサイドで遊んでいる。


 だよな。今は夏休みで、ここは輪転りんてん高校のプール。僕は休みを有意義に過ごそうとプールに遊びに来ただけ。……よし、落ち着いた。

 ふうと小さくため息をついて、プールのそこへ足を伸ばす……が、届かない。水深は最深部で一メートル五十センチ。ちなみに僕の身長は百七十五センチのはずだ。

 またプールじゃなくなってる。どうなっているんだ。疑問符が取れない僕の背後で生き物の気配がして振り返る。すると三角の形をしたヒレのようなものが水面を滑走している。うわー、フカヒレだ。ご馳走だ……こいつ等にとって僕がなっ!


 周りには数十匹というサメが、グルグルと取り巻いていた。まるで僕の死を確認した後にじっくりと肉を引き裂き、ご相伴にあずかろうと狙っているようだ。

 というか、絶対狙ってるだろこれ。なぜこんなことになったのだろうか?

 もう一度確認する。ここはプールのはずだ。足が付かないのは気のせいだ。皆もいるし。僕は助けを求めることを脳内一致で決めた。

「お……」

 声を上げようとした瞬間、僕は足首を誰かに捕まれる感覚と共に水の中へとひきづりこまれた。振り払おうとする足、だけど掴んだ手のようなものは力強く僕を離さない。闇雲にまわす腕。まるで役に立たない。急なことだったので、口の中から一気に気泡が漏れ出て行った。喉元から顎の辺りの筋肉が硬直して、必死に呼吸を我慢してる。すぐに首の筋肉が硬直して、酸素不足を訴えていた。やばい。本当に死ぬ。

 口を開けてしまえば、楽になれる。空気は入ってこないけど、海水が僕の体内を満たすだろう。血液中の酸素がなくなり、やがて気を失うように窒息するだろう。気を失う寸前は気持いいと聞くが、本当だろうか。


 いよいよ真っ赤になっているであろう顔。目にも力が入り飛び出しそうなほどだ。

 不意に僕の目の前を何かが通り過ぎる。

 僕の倍近くあろうかという影。魚の形状をしていて尾びれが特徴的。おまけにノコギリのような歯をこちらへ向けている。皆さんおなじみのサメ。

 家でダラダラするだけの夏休み。僕は素晴らしい思い出を作るためにここに来たと言うのに。


 顎が徐々に上がり、口元の筋肉も限界に達してきた。最後の灯のように顔中の筋肉を一気に硬直させると僕はもがくことを止め、息を止めることに専念した。だが、長くは続かない。もう駄目だ。頬の力が抜けていく、自然に口が開き、海水が入り込む。

「あぁ……」と頭の中で絶望感に打ちひしがれた瞬間、僕の腕を掴んで引っ張る感覚がした。

 半開きになった目から見えた光景は 僕を包み込むようにゆらゆらと広がっている黒い長髪。何かを叫んでいるような肉厚な唇。なにより力強いややつり目気味の瞳が印象的な女性が僕を引っ張っている情景だった。

 希望が浮き上がっていった海面へ、連れて行ってくるのかな? 貴方が僕を引き上げてくれるのかな? ジンワリと胸の奥が暖かくなる。助けてもらった安心感で僕は完全に気を失った。



▲主人公回想。

 桜が舞い散る学校の校庭。見覚えがある。確か僕が通ってた中学校だ。風が吹くと少し肌寒い。さっきまで夏だったはずなのに。……そうか。これは思い出なのかな?

 外にはすでに多くの生徒が卒業証書を持ってたむろしていた。よくある卒業式の光景だ。僕の手にも卒業証書が握られているということは、自分達の卒業式だということか。

 ハンカチを瞳に当てながら泣きじゃくる女生徒。目を真っ赤にしながら笑顔で語り合う生徒と先生。校舎の隅では後輩らしき女生に告られてる、同級生。悲しくも晴れがましい場所で僕は所作なさげに立ち尽くしていた。『悲しくも晴れがましい』気持ってなんだろう。表情にだせない。困惑だけが僕を心細くさせた。泣いたら良いのか。もしくは笑ったらいいのかな。気持が凪いだ海のように動きがない。

「こら薄情人間」

 真っ先に反応してしまうのが悲しいが、僕は声のする方へ向いてしまった。

「なんだ。沙和か。挨拶は済ませのか?」

「はぁ。こんな時ぐらい言うことないの?」

 僕よりやや目線の低い、ショートカットの女の子、それが守屋沙和もりやさわだ。僕とは幼馴染で、お隣さんだ。漫画に出てくるシチュエーションだが、恋愛感情はまったくない。兄弟みたいな感覚で今日に至るので、告白の予定もない。

「じゃあな、沙和。先帰る」

「馬鹿じゃないの! いや、馬鹿でしょ? 今日は卒業式だよ。もう皆に会えないかもしれないんだよ」

 ちなみに沙和は中学時代、陸上部だった。僕と話している最中も、ひっきりなしに陸上部の後輩が沙和に話しかける。先輩である沙和が泣きじゃくる後輩を慰めたりしている。こいつ、意外と慕われているんだな。

「挨拶したい奴にはもう済ませたし、僕は帰るよ。それに沙和とは同じ高校じゃないか」

 僕の言葉に肩が揺れるぐらいに盛大にため息をつく沙和。彼女は少しだけ口を歪ませて呟くように言葉を繋ぐ。

「涙の一つもでないわけだ……」

「泣かないと駄目なの?」

「駄目じゃないけど自然に出ない?」

 よく見ると沙和の瞳は赤くなっていた。手にはハンカチも持っている。僕は沙和の非難めいた視線に耐えられなくなって、誤魔化すように頭をかいた。

「うーん。涙はでないな。なんでだろ?」

「……それはね」

 沙和の瞳に力がこもる。

「それはアンタに大した思い出がないからじゃないの?」

 図星だった。中学時代、家と学校の往復だけだった僕に対した思いでもない。しかも、「思い出がない」と指摘されても、ちっとも感情が動かなかった。

 昔からそうだった。人が騒いでいる時ほど冷めた気持になっていく。冷静になってしまう。このまま僕は感情が動くことのないまま死んでしまうのだろうか。胸がそわそわした。胸騒ぎが止まらない。ずっと、ずっとこのま――



「うっ、うええええっ……」

 胸からこみ上げてきた異物感に耐えられなくなって、僕は口から液体を吐き出した。何度も咳をして、僕は意識を取り戻す。背中には生暖かい感覚。気づけばプールサイドで寝転んでいた。目を開けようとしたが、空の眩しさに再び視界を狭めた。

「よかった。大成功だ」

「うん。だけど……」

「確定だな」

 女の子の声が聞こえる二人分。





それではまた次回。

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