1/30 2:02 『永遠なるもの』
今回のコメント。
タクシーなんて年に数回しか乗りません。
飲み会の帰りぐらい。
タクシーチケットもたまに貰えて使ったりします。
最初の頃はタクチケを貰えるだけでなんだか大人になった気がしました。
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しばらくはお互いの息が整うまで、二人でぜーぜー言ってた。この追いかけっこはなんだったの? 私は勢いとはいえ、タクシーに乗り込んだことを後悔し始めた。先に呼吸が整った彼が私に話しかけてくる。
「なんで戻ってきたの?」
「……け、携帯電話を、わ、忘れたから取りに来たの」
ちょっとまだ呼吸が整ってないんだから話しかけないでよと思いつつ、答えた。すると、彼はタクシーのシートにもたれて、息を一気に吐き出す。
「ふぅ。な、なんだ……」
なんだか私は腹が立ってきた。散々逃げたくせにリラックスするなよという気持になった。
「なんだじゃないでしょ。アナタこそなんで逃げたの?」
すると彼は吐き出していた息を止めた。頬を膨らませたままこっちをみる。確かに彫が深くて顔はイケメンだけど、あきらかに動揺している姿は隠し切れない。
「いや……追いかけてくるから」
「やましいことでもあったんでしょ?」
「ないよ。彼女でもないんだから、そういう詮索やめてくれる?」
今度は私が息を止める番だった。確かにそのとおりなので言い返せない。私は俯いたまま何も言えなくなってしまった。これじゃあまるで彼女になりたいけど、断られた女性みたいじゃない。私のなかでモヤモヤとしたものが溜まってくる。
そりゃアンタの彼女じゃないけどさ。昨日会ったばっかりだけどさ。迷惑かけてばっかりだったけどさ……でも、なんだか腹が立つ。
私をじっと見ていた彼が正面を向いて、小さい声で話を続ける。
「ごめん……とにかく、まずは家まで送るよ。僕は行かなきゃいけないところがあるんだ。携帯電話は自宅に僕から送るから」
彼の言葉で一気に疑問があふれ出す。
用事があるのは分かるけど、なんで携帯電話をアナタから送られなきゃいけないの? 私がアナタの家に行けば良い話でしょ? ……もう部屋には来ないで欲しいっていうこと? そんなに嫌だったの? なんの一体!
怒りを高めている私を無視して、彼は運転手さんに話しかけた。
「運転手さん、行き先変更します。さぁ、家の住所を教え――」
「嫌だ。ついてく。あっ、運転手さん良いですよ。そのままお願いします」
「ええ!? 困るよ、そんなの! 今から仕事なんだ!」
「いい。とりあえずそこまで行ってから家に帰る」
「なに言ってるんだよ。正気じゃないよ!」
「アナタもこの程度のことでここまで取り乱すなんて、やっぱり、やましい事あるんじゃないの?」
「ないよ!」
彼が声をあげたところで、運転手が分かりやすくため息をついた。
「お客さん、行き先をハッキリしてくれませんかね?」
私は間髪いれずに答えた。
「行き先はこのままで」
「ちょっと、大木さん!」
私はこれ以上取り合わないことにした。勢いだってことは分かっている。だけどなんだか馬鹿にされた気がしたのだ。昨日の同窓会といい、馬鹿にされっぱなし、恥をかかされっぱなしじゃあ気がすまない。
八つ当たりということはわかっていた。だけど、これぐらいのわがまま誰かに言って良いでしょ。今まで独りで頑張ってきたんだから。私は自分に言い聞かせた。
彼もしばらくなにか言ってた気がするけど、数分して諦めたように大人しくなった。
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