1/29 23:11 『永遠なるもの』
今回のコメント。
そろそろご飯食べないと腹が減ってきた……
でも、そこそこ調子が良いんだよね。
うーむ悩む。(食べろよ)
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私は歩きながらふと、真実ちゃんの事を思い出す。というより彼が「懐いてた」って話をした時に思い出した二人目の女の子の事だった。……それは私の事。もっとも自分の場合は高校生だったけど。
中学高校と私は勉強に明け暮れていた。自分が存在価値を見出すのは勉強しかないと思っていたからだ。母親に認められたかったというのが大きい。今なら勉強以外にも価値観が多様にあって、他の道も選ぶ事ができると思う。でも、あの頃は小さな世界の中で私が生きるには勉強しかなかった。
中学卒業から働いたり、高校中退したりして自立するような勇気もない。中途半端な自分の支えが学校での成績だった。さすがに学年で一番にはなれなかったけど、一桁台の成績はキープしていた。さらに勉強しているところを母にアピールしたくて塾へは行かず、家庭教師をつけてもらった。
実際、母親は私を良く褒めてくれる。私はさらに勉強に集中していった。
そんなある日。成績も良く教師からの信任が厚かった私は委員会活動もしていたので、いつもより帰宅時間が遅くなってしまった。きっと家庭教師も待っているに違いないと思い、早足で家に帰った。
家の玄関を開けて入った瞬間、違和感を感じた。家の中が妙に静かだった。不思議に思い、足音を抑えて警戒しながら進む。キッチンに近づくと、僅かに物音がしたことに気づいた。私はゆっくりと近づく。やがて物音だけではなく、別の音も聞こえてきた。それは二つの息遣いだった。
一つは荒々しく、もう一つは吐息ともいえるものだった。考えたくない。嘘だと思いたかった。キッチンの入り口からそっと覗き込むと、目の前には母と家庭教師が交わっていた。私は怖くなって震えながらも後退し、公園まで走って逃げた。
そしていつかの木崎みたいに私はベンチに座っていた。どれぐらい座っていたら良いのかさえもわからない。とにかく怖かった。大人が本当にあんなことをしていた事に。さらには母親が自分ではなく、家庭教師に夢中だった事が信じられなかった。
一時間ほどして私は家に帰った。さすがに事は終っていた。母親が家庭教師が待たせてはいけないと、私を軽くたしなめた。私は感情が高まって母親を睨みつける。一瞬、母親の視線が宙をさまよった。やましい事がある決定的な証拠だった。私なんか見ていない証拠だった。今なら母親に思いをぶつけられそうな気がした。
だけど、私は母親に笑顔を向けた。「ごめ~ん」とか言って誤魔化した。直後のホッとした母親の表情が忘れられない。私はやっぱり母親の手から離れる事は出来なかった。
それから家庭教師が来る日は、公園のベンチで時間を潰し、一時間ほど遅く帰った。何もかもぶちまけて、失う事が怖かった。あの時の私は母親が全てだったから。私さえ我慢していれば、この日々が永遠に続くと信じていたからだ。
だけど、そんなことはなかった。
私の高校卒業から一週間後、母親は家庭教師と駆け落ちしたのだ。
朝起きてキッチンへ向うと、置き手紙だけが残されていた。私は母のいい訳めいた手紙を読み終わった後、感情の置き場が分からず、なんとなく笑っていた気がする。今考えれば、作り笑いをしていたのは、高校からだったのかな。愛する人を引きとめるために。
そして母親がいなくなって、ポッカリ空いた気持ちを埋めるために私は大学時代恋愛に夢中になったのかもしれない。
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