1/29 16:32 『永遠なるもの』
今回のコメント。
肩車は中学の時にしました。
もちろん乗せる側ですが。
上に二人乗せたこともあります。
(完全にコミックスとかにある作者近影のコメントみたい)
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私がどう反応していかわからず、立ち尽くしていると、彼は真実という女の子の目線にあわせてしゃがみ込み、奥にある大銀杏を指差した。女の子は頷いて歩いていく。
かなり離れたところで彼は振り向き頭をかきながら「いや~、モテちゃって、モテちゃって」なんて言いながら照れ笑いを浮かべた。私は苦笑いをしてそれに答えた。
まさか幼女と遊んでいるところだけを見せびらかすために呼ばれたのかな? 私は声を上ずらせながら質問した。
「どういうつもり?」当然の質問だと思う。彼は、はにかんだまま答えた
「わっはっは。もうバレたか。だって僕、三田でしょ? 『みた』だから『さんた』」
「えっ? そっちだったの? ってきり人気ドラマかと思った」
「なにそれ?」
「あははは。いや、こっちの話。気にしないで」
「……承知いたしました」
分かってるじゃん! 私は思わず突っ込みそうになったけど、寸でのところで抑えた。
彼を見たら相変らずニコニコしていた。私にはそれがニヤニヤに見えた。何だか腹が立ったので彼を睨むんだ。すると彼は表情を固くして、咳払いをした。
「冗談はさておき。僕、よくここまで散歩をするんだけど、真実ちゃんとは最近公園でよく会うようになって、仲良くなりました」
「幼女と仲良く?」
「違う、違う! もし怪しい関係だったら、大木さんを呼ばないよ」
「ふーん」
私がジト目で彼をみると、慌てて首を振りながら「犯罪、駄目、ゼッタイ」といって否定した。半分怪しく思いながらも納得することにした。
「で? 私を呼んだ用件は?」
いつのまにか彼を尋問するように私は腰に手を当てて仁王立ちしていた。彼は頬をひきつらせて、恐る恐る事情を説明し始める。
「えっとね……来てもらったのはアレなんだよ」
彼が指差したのは大銀杏の上に引っ掛かったゴムのボールだった。歩いて大銀杏に近づくと、ボールは枝と枝に挟まれて、ガッチリ固定されているのが分かった。下から石を投げたぐらいでは取れそうにない。
「彼女を肩車しても届かない。かと言って周りに人が通らない」
確かに周りを見ても人がいなかった。私が子供の頃は、それなりに人がいた気がする。
「そこで大木さんを呼んだんだよ。僕が肩車するから取ってもらえるかな?」
「ええ? 私が肩車? 上に乗るの?」
「うん。駄目かな?」
正直、答えは「駄目」だった。なんで昨日会ったばっかりの男にまたがらなきゃいけないの? 私は表情を固くした。
すると私の足に何かが触れる。下を見ると真実という女の子を見上げていた。触れる手は僅かに震えている。さらに瞳を潤ませ、声をどもらせながら、私に話しかけた。
「お、お願いします……お姉さん」
彼女は言い終わった後、無理に笑おうとして、口を歪ませた。こんな小さな子が見知らぬ私に愛想笑顔を向けようとしている。自分の笑顔癖と重なって、ぎゅっと胸を締め付けた。
「わ、わかったよ。ただし、すぐ終らせてよね」
「承知しました」
「まだ言うか!」今度は突っ込んでしまった。
私がまたがり、彼の頭に手を置くと、ゆっくりと彼は立ち上がった。さすが男性なので安定感があり、私はふらつく事なく、枝にしがみついた。ただし、ボールとの距離は少しあり、指を伸ばさなくてはいけなかった。
ボールを取ろうと必死に手を伸ばす。表面が指先に触れ、少しへこむ。なんとかボールを回転させようと指で擦るように触った。何度かのチャレンジの内、ボールが回転し始める、外れてきたみたい。
私に余裕が出ると下からの声が聞こえてきた。「あっ」とか「そこそこ」とか「もう少し」とか、女の子の声だった。応援というよりも思わず声が漏れてしまったという感じだった。私は言葉にはならない声援を受けて何とかボールを取ることに成功した。「やった!」という声に私は満足しながら肩車を降りた。
落ちたボールを取って戻ってきた女の子は彼に向っていった。彼は手の平を差し出し、女の子がハイタッチをすると大きな音が聞こえた。そのまま私へと走ってきた女の子は手の平を差し出した。私は一瞬躊躇したけど、女の子越しの彼が頷いたので、ハイタッチをする。手に柔らかい痛みが走る。それはとても嬉しい痛みだった。
どうしてだろう。さっきから私、妙に行動的で感情が表に出ている気がする。腹が立ったり、ジト目で見たり、仁王立ちしたり、突っ込んだり、女の子とハイタッチしたり。
数日前まで部屋にこもっていた私が信じられなかった。
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