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12/6 4:12

今回のコメント


今回の文章を書いて気づいたこと。

それは夕実がポニーテールだったこと。

ずっと忘れてた!


ま、まぁいいか。

誰も気がつかないだろうし……



***********************************



 少し長めのミーティングが終わり、僕達は自室に戻ることになった。とにかく今は一刻でも早くこの場から離れたかった。この場というよりは高月先輩からだけど。自室へ早足で向う。後数歩で襖に手が届くというところで、僕は肩を摑まれる。


 反射的に後ろを向いた。すると、相手は神妙な顔をして僕に話しかけた。


「ちょっと来い」

「なんですか?」


 揺れるポニーテール、睨みつける眼光。滝川先輩だった。口調といい、呼び止め方といい、完全に怒っている様子だ。先輩は顔を僕に近づけて、低い声で尋ねる。


「お前、亜也になにした?」

「……別に何もしてないですよ」


 やはりというか、滝川先輩は見逃してくれなかった。肩がより強い力で摑まれる。


「嘘つけ。無意味に何度もお前を見つめるなんて、今までありえなかったろ」


 確かにあれは誤魔しきれるものじゃない。いつも高月先輩を見ている滝川先輩ならなおさらだ。歯を食いしばりながら、僕の肩を揺さぶる。


「それに。日記世界で亜也は涙目だった……何をした?」


 僕は揺さぶられるがまま体を揺らされた。

 どうする? 本当のことを言うか? 判断に迷った。


 しかし、高月先輩のあの顔を思い出した。滝川先輩ならどんな顔するんだろうか。僕は不意に笑いがこみ上げてきた。


「ふざけてんじゃねえぞ」

「ふざけてません。僕だって本気なんですから」


 もういいや。言ってしまえ。僕は滝川先輩を見下ろしたながら言った。


「単純に『僕を美国の代わりにして欲しくない』って言っただ――」

「てめえ……アイツにとってどれだけ重い言葉か知ってるんだろうな」


 僕の言葉を遮り、制服の肩部分をねじり上げた。怒ると親子そっくりだな。だけども今は状況が違う。もう僕は何も知らないわけじゃないんだ。


「知ってますよ。僕にだって言う権利はあるでしょう。本当のことなんだから」


 滝川先輩の空いている片手は拳で震えていた。


「昨日、真琴さんに日記に関する全てを聞きました」

「……なんだと」

「僕は美国の魂の留年をした姿なんでしょ? 本当に美国の代わりだったんですね」


 一気に肩を掴んだ力が弛む。僕はシワになった制服の肩部分を払いながら整える。滝川先輩は視線を逸らし、下を向いた。


「滝川先輩も知ってたんですね」

「すまん。内緒にするつもりは……」

「ありましたよね」


 俯いたまま黙り込む滝川先輩。その姿に僕は腹が立ってきた。高月先輩と同じじゃないか。黙っていれば、弁解すれば、解決する問題だとでも思っているのか? 僕はさらに追い詰めるべく言葉を重ねた。


「黙ってたってた事は後ろめたかったんでしょ?」


 やはり黙ったままの滝川先輩。僕は次にどんな言葉をぶつけてやろうか考えた。

 しかし、先に言葉を吐いたのは滝川先輩だった。


「……そうだよ」


 僕はあっさり認めたことで、言葉に詰まってしまった。滝川先輩は顔を上げ、僕をじっと見つめた。


「後ろめたかったんだよ。知られたくなかったんだよ。じゃあ、お前に自分の心の裏側まで見せる勇気があるのか!」

「ありますよ。だって僕には隠すようなことはないですから」

「それは影のない人間の言うことだ」


 僕は気持ちがどんどん冷めていくのを感じた。事情があるから許して欲しいというのは、相手側の都合であって、僕が譲歩する事柄ではない。


「ですね。僕は空っぽな人間ですから。平凡でなんの思い出もない身代わり人形ですから」

「……すまん。そんなつもりじゃあ」

「いいですよ。気にしてませんから。もういいですか? 今日は疲れたので」


 呆然とする滝川先輩をおいて、僕は襖に手を掛けた。


「お前の態度は……美国が亜也に本当のことを話した後の態度と同じなんだよ」


 先輩が呟く声が聞こえた。少しだけ胸がチクリと痛んだ。だけど立ち止まるわけには行かない。止まってしまっては、高月先輩の事情を汲んだことになる。


「このままじゃあ、亜也が……もう嫌なんだ。大切な人がいなくなるのは」


 滝川先輩は一度美国がいなくのを体験している。美国と高月先輩がどういう状態だったかも知ってるわけだ。冷めた二人をみつめる一年生の滝川先輩。もう見たくなかったのだろう。


 僕の手が震えた。このままじゃあ、良くない方向へ進むだけなのかもしれない。

 頭では理解できる……だけど、心では納得できないんだ!


「すいません。今は考えたくないんで」


 滝川先輩を振り切るように僕は襖を開け、自室に入った。先輩は室内までは追ってこなかった。少しの間、前に立っていたが、やがて諦めたのか姿を消した。僕は布団を被って時間が過ぎるのを待った。




今日はここまで!


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