11/17 23:34
今回のコメント
今日の夕飯
ソーセージポトフ
ごはん
以上。
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「これを見てもらえますか」
高月先輩は手元においてあった、何かを真琴さんへ差し出す。
「これは……久しぶりに見るわね」
手に取った真琴さんから、見えたもの。それは和綴じの本だった。まちがいなく部長が使う日記帳だ。こっちが高月先輩の相談したかった内容か。
僕が息を飲み込むと、下にいる滝川先輩から声が聞こえた。
「実はあれは……」
「部長専用の日記ですよね。両側から記載される……知ってます」
僕が答えると滝川先輩は小さく「そうか……」と答えて黙り込んだ。
真琴さんはパラパラとページをめくると、すぐに裏表紙を表に向けて再び同じ動作をする。間違いなく、「楽しかったこと」「悲しかったこと」のページ数を確認している動作だ。
しばらくして確認を終え、真琴さんは日記帳を閉じて高月先輩と向かい合った。
「状況はかなり厳しいわね。特にここ数日は」
高月先輩は黙って頷いた。僕は信じられなかった。確かここ数日、「楽しかったこと」のページはどんどん埋まっていったはずだ。だって日記について聞いたらピースサインで答え……違和感はこっちだったのか。
「『楽しいこと』の裏側で『悲しいこと』まで同時に埋まっているなんてね」
……そんな馬鹿な。どちらか片方だけが埋まるわけじゃないのかよ。
確かにあの日記帳は使用者の心の内を文章化するものだ。人の心は複雑で、嬉しいと喜んだ裏側で悲しい側面もあるだろう。例えば卒業式。未来への旅立ちで期待に胸膨らむ反面、去らなければいけない悲しさに包まれる。僕にはどちらもなかったけど、頭では理解できる。
「今回はいつもの倍文字が埋まってしまうので、日記の消耗が激しいんです」
ようやく本当の意味で平光先生の言っていたことが僕にも分かった。
『合格したら倍になるよ♪』
『何が?』
『気持が』
『それに~不合格でも気持ちが倍で~す』
『……勝手にどうぞ』
あの会話には重要な意味があった。そして高月先輩は安易とも投げやりとも取れる返事をしてしまったのだ。
平光先生はどこまで人間の曖昧な気持ちを分かっていたのだろうか。人の心は合格不合格なんて関係ない。合否のどちらに触れても、片方の気持ちだけには振れないのだ。
廊下の寒さだけではなく、僕は背筋が凍る思いがした。平光先生は人の心をもてあそぶ悪魔なのかもしれない。
これじゃあ、どれだけ幸せになっても意味がないのか? 僕は暗澹たる気持ちで高月先輩の小さな背中を見つめた。
「亜也さん、内容もちゃんと読んで良いかしら?」
あの文字が読めるのか? 真琴さんは高月先輩に了解をとると、ページをめくり日記を読み出した。高月先輩は肩を落とし、俯いたままじっとしている。
数分、同じ光景が続く。
更新は1~2時間後