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11/7 4:20 『1K→2DK』④

今回のコメント


2TB(2000GB)のHDを買った。

そしてトルネに接続する。


うおおおっ、これで録画し放題だぜ!

しかし、見る時間があるのだろうか……



***********************************



 ここにいるかどうかは賭けだった。

 彼女が俺と同じこと考えてたなら、ここへたどり着く気がしたのだ。

 もし、会えなかったとしたら……終わりだったかもな。

 タクシー呼んで先回りして正解だった。


「よくここが分かったね」


 悪びれずに言う彼女に少しイラッとしたが、我慢した。

 逆の立場だったらきっと同じことを言ったと思うからだ。


「なんとなくな」


 もちろん嘘だった。

 俺も同じように夜中、ここへ戻ってきたことがあるんだ。

 そんな言えるわけがない。


「ねえ、元に戻ろう」


 『全て元通り』それは魅力的な相談だった。

 一歩を踏み出したものの、悩んでた俺には最後のチャンスだったのかもしれない。

 またあの部屋で二人狭苦しく暮らすんだ。

 さぁ、言ってしまえ。俺は彼女に答えた。


「はぁ? なに言ってんだ、引っ越したいっていたのはお前だろうが」

「だって、もう離れたくないんだもん」

「子供みたいなこと言ってるんじゃねえ」

「大切なことは子供も大人もないよ」


 どうしてそんなに魅力的な言葉を並び立てるんだ!

 思わず「うん」って言いそうになったじゃねえか。


「じゃあ、こっちに来い」


 俺は彼女の手を取って引っ張った。

 向う場所は前に住んでいた部屋の前だった。彼女が不安げに俺を見ている。

 だけどそんなの関係なかった。


「おらっ、開けろ!」


 勢い良く部屋の玄関を蹴っ飛ばす。大きな音を立てて静かだった辺りに響く。

 彼女は俺と玄関の間に立って、抑えようとした。

 つかまれながらも俺は玄関をさらに蹴飛ばした。


「ちょっと待っ――」

「早く、開けろよ!」


 またまた玄関を蹴っ飛ばす。周りの家の犬が騒ぎ出した。


「戻りたいんだろ、お前は」

「……違うよ」

「お前が元通りが良いって言うんなら、絶対に取り戻してやる」


 さらに蹴飛ばそうとして足に反動をつける。

 だけど彼女が俺に体重をかけたせいでバランスが取れない。


「違うって言ってるじゃん!」


 無理やり振り切った足は空振りして、俺は倒れてしまった。馬乗りになるように彼女が俺に重なる。


「戻りたいのは……貴方でしょ」


 たったこれだけのことなのに俺の息は上がっていた。犬の鳴き声と俺の乱れた呼吸音しか聞こえない。目の前には泣きそうな彼女の顔があった。

 なんで俺のことなのにお前が泣きそうなんだよ。


 それにな。お前の涙は無駄になるぞ。


 だって、俺はもう思ってしまったんだよ。

 今の生活を続けたいんだ。


 玄関横の小窓から明かりが漏れた。どうやら住人が目を覚ましたらしい。


「よし、逃げるぞ」

「え? ちょっと!」


 俺は彼女の手を引っ張って、曲がりかとまで連れて行く。

 二人とも走ったせいで、肩で息をしていた。少しずつ二人の呼吸が静かになった頃、俺は彼女と目を合わせた。すでに彼女は俺を見ていた。


「ほら見ろよ」


 俺はさっきまでいた方向を指差す。


「え?」


 彼女が曲がり角から、前の部屋を覗く。

 するとメガネをかけた大学生らしき若い男が玄関から顔を出して辺りをうかがっていた。


「学生がもう住んでるんだよ」


 俺が今の部屋の広さに耐えられなくなって、夜中駆け出した先は今と同じように明かりが灯っていた。

 あの場所にはもう新しい生活が始まっていたんだ。

 いつまでも覗いている彼女の背中に俺は声をかけた。


「戻ろう」


 振り返った彼女はぼろぼろと涙をこぼしていた。


「もう過去なんだね……」


 俺は彼女の頭に手を置いて、自分なりに優しくなでた。

 さらさの髪の向こうから体温が伝わってくる。

 戻れないから諦めるわけじゃないぞ。

 愛しいから進もうと思ったんだ。


「やっとあの部屋の広さにも慣れてきたところなんだよ」

「ふうん」


 お前もいつか招待してやる。秘密の時間に。

 そして仕事やら昔話やらなんでもしてやるよ。

 あの部屋に見合った二人になろう。

 と、言いかけて止めた。


 まだちょっと時間がかかりそうだから。



『1K→2DK』 終わり





後書きを書いたら今日は終わりですよ。

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