11/7 2:10 『1K→2DK』③
今回のコメント
今からの回は書下ろしです。
前回までの二話は以前に書いたものです。
実はあまり結論が浮かばなくて、放置していたのです。
とは言え、はっきりと結論が出たわけではないので、短編として載せるには甘いと考えたわけです。
だけど、結論を思いつくまで書かないとなると、もう完成しない気がしたので、今回はこの機会に掲載しようと考えました。
とっ散らかった結末ではありますが、暖かい目で見守って、ゆる~くスルーしてくれれば幸いです。
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こんな夜中に私は一人歩いていた。上着を着ていても少し肌寒い。
なんで私はこんな夜中に歩いているんだろう。
という問いは愚問だろう。
彼の一人佇む姿を見て居たたまれなくなったのだ。
かける言葉も見つからない。
寝室に戻ってきた彼を見てみぬフリすることもできない。
自分の浅ましさだけが脳裏に浮かぶ。
だから私は逃げ出した。
彼が私の部屋に転がり込んだ時、どこか覚めた目で見てた。
どうせ飽きたら出て行くんだろうな、なんて思ってた。
狭い部屋は二人で寄り添える代わりに逃げ場がない。
だから倦怠期がきたら、きっと出て行くだろうと思ってた。
「私のことを大切だ」なんて言いながら、都合が悪くなったら逃げていく人たちを何人も見ていたからだ。永遠に続く思いなんてないのだと思ってた。
事実、その通りなのだ。
今回もまた同じだろうと思ってた。
だけどいつまでたっても彼は出て行かなかった。
飽きてるんだろうけど、出て行かなかった。
生活できているからか。お金が欲しいからか。と自分で納得させてきた。
そしてあの夜、彼の震える背中を見たのだ。
何かに怯えている。孤独感なのか、将来に対する不安なのか、分からない。
だけど私が目の前にいるのに背を向けて震えていたのだ。
こんな1Kの狭い部屋に二人でいるのに、彼の心はさらに小さく固まっていた。
私と同じだ。自惚れかも知れないけど。
諦めて、冷めた振りして、自分から心を小さくしていたのかな。
そう思ったら、彼の背中に私の体を預けていた。
せめて部屋の大きさに見合うぐらいの、安心をあげられないのかな?
小さい気持ちも二人寄り添えば、1Kぐらいすぐ埋まるでしょ。
すると彼の体は私にもたれかかる。少し重いと思えるぐらいに。
駄目な人間だ私は。彼を甘やかしている。
でも、住居やお金が目的だったとしても良いじゃないって思ってしまった。
小さい彼を見たとき、私が強くなろう、私が永遠に続くように努力すればいい、そう思えた。
私が彼を守ろうと思ったから、引越しの決断もできた。
なのに彼は自ら職を探し出した。
自立を始めたのだ。
ヒモ同然だった彼の行動に表面上は喜んだ。
だけど、気持ちは真逆だった。
自分で立てるようになったら、自分で歩いて出て行くんでしょ。
確かなシグナルが、真夜中の彼の行動だった。
なにも悩みを話してもらえない。いつか突然別れを切り出されるかもしれない。
元に戻りたい。
だから私は歩いていた。
前の住居を目指して歩いていた。
あの部屋を見れば、少しは心が落ち着くかもしれない。
藁をも掴む思いだった。
あの角を曲がれば、アパートが見える。
私ははやる気持を抑えつつ角を曲がった。
「あっ……」
アパートの入り口に、煙草をくゆらせる一人の影。
蛍のように小さい光を放ち、こちらへ近づく。
「やっとみつけた」
「なんで?」
私の疑問には答えず、彼は煙草を地面に落とし、足ですりつぶした。
更新は1~2時間後。
次が最後かな。多分。