10/27 0:39
今回のコメント
今回の日記の仕組みがトロフィーのお話を書き始めるキッカケになりました。
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「本当に中身を見て良いんですか?」
高月先輩は黙って頷いた。それを合図に僕は手を伸ばして日記を受け取る。心なしか手が震えた。手に感じる和紙の感触は少しざらざらしてて。繊維質がわかる荒い作りだった。
僕は日記帳と書かれた正面から裏を向け、手をかけた。
「あっ、ちょっと待った!」
途端に先輩から声がかかる。僕は手をかけた体勢のまま固まった。
「なんですか?」
「内容をちゃんと読んだら許さないから」
「……は、はい」
裏表紙から日記を見ろといいながら、読むなという。まったくわがままな注文だ。僕は慎重に裏表紙をめくった。その瞬間、飛び込んできたのは筆記体のような文字だった。これは江戸時代とか侍の時代に書かれた文字では……読めるわけない!
「どう?」
高月先輩は俯き加減でやや恥ずかしそうに訊いてきた。だけど僕は上手く反応できない。
「どうって……読めない文字が書いてあるだけじゃないですか」
言いながらなんとか読めそうなページないかなと、次々と紙をめくる。すると途中で白紙になった。ここまでしか書かれていないのかなぁと思いつつめくると、中断の後、また読み慣れない文字が出てきた。
なぜ途中が白紙になっているのだろう。っていうか、裏表紙からめくらせて文字があるってのも変だ。最初は使い切った日記帳なのかなと思ったけど、違うようだし……だんだん疑問が募っていき、僕は自然に先輩の顔を伺っていた。
「なにか言いたそうな顔ね」
「いや、大有りでしょ。なんですかこの日記帳は。途中が白紙じゃないですか? この空白に何があったんですか」
すると高月先輩は横を向いて、小さくため息をついた。呆れられてる? 僕がムッと眉間にシワを寄せる。先輩は少しだけ笑ったような表情で僕を見た。
「違うよ。その使い方であってるの」
「途中を書かない使い方がですか?」
先輩は首を振った。遅れて髪がさらりと流れ、良い匂いがする。
「途中を書いてないわけじゃなくて、表裏から日記が始まって、真ん中へ向かってるの」
僕は小さく「えっ」と声を出すと、改めて日記帳の中を見る。確かに言われてみれば。裏表の表紙から日記が始まっているようにも思えた。
それにしてもなぜこんな使い方をするんだろう。当然の疑問を当然のごとく先輩に質問した。先輩は少しだけ笑ったような表情を崩さずに答えてくれた。
「それね。表からの日記は『楽しかったこと』を。裏表紙からは『悲しかったこと』を記載する日記帳なの」
一度だけ、僕の心音は体中に大きく鳴り響いた。その後も早まる鼓動。僕は目を見開いたまま、高月先輩から目が離せない。先輩の表情は変わらず笑顔だ。
「以前、君は合格基準を聞いたよね。唯一ある合格基準は……」
どんどん心音が大きくなってくる。しゃべってもないのに喉が渇いてきた。ゆっくりと唇を舌で拭う。その後、自然に歯を食いしばった。
更新は1~2時間後更新