10/23 2:55
今回のコメント
今回の話の会話は美国日記編で会話させようとしていたのですが、選挙編へ持ってきました。
理由はあの時点でこの会話をいれる隙がなかっただけという身も蓋も無い理由ですが。
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「それじゃあ、後は若い二人で……ふふふ」
「真琴さん、妙なことを言わないでください」
高月先輩のツッコミに真琴さんは袖を口元に当てて「おほほほ」とか言いながら去っていってしまった。三、四人が並んで歩いても余裕がある廊下で僕と高月先輩は二人きりになった。
全身が映る窓を覗けば、暗いが外には庭園がみえた。二人で言葉もかわさず、しばらく窓を見つめていた。これは気まずい、何とかしないと。僕は思い切って切り出した。
「あの本当に男風呂を……」
「覗きになんて行きません。君ねえ……」
高月先輩にが頭を抱えて下を向いた。僕としてはリラックスして欲しくて言ったのだけれど、上手くいかなかったようだ。じゃあ、少し真面目な話をしよう。
「御堂真理についてなんですけど……」
「草弥君、御堂真理は一応先輩なんだから呼び捨ては良くないよ」
「先輩だって呼び捨てじゃないですか」
すると高月先輩は窓を見ながら一言いった。
「私はいいの」
なぜ? どの立場の発言なんですか! と問い詰めたいところだけれど、冷めた目で見られても困るので、今の発言は流した。
正直、日記の秘密を直接聞きたいところだけれど、モノには順序があると思ったので、簡単なところから聞いてみた。
「美国先輩の日記世界で一年前の高月先輩からは聞いていたのですが、なぜ今の先輩は御堂先輩のことを話してくれなかったんですか?」
すると一瞬だけ僕を横目で見て、再び窓へ視線を移した。
「嫌だったの」
「美国先輩が思いを寄せる相手だったから?」
「うーん、それもあるけど……」
再び先輩は僕を横目で一瞬見て、小さくため息をついて答えた。
「美国先輩によく言われたの。『お前は御堂先輩に似てる』って」
「はぁ?」
それが嫌だったって……僕に『美国に似ている』って言ったじゃないですか! 僕の抗議するような視線に気づいたのか、高月先輩はまた一瞬だけ僕を横目で見た。
やがて観念したのか、開き直ったのか、口をとがらせ気味に答える。
「だって美国先輩は君にそっくりなんだよ」
いや、そんなムッとしなくてもいいじゃないですか。正直、自分が美国進に似てるなんてちっとも思わない。日記世界で会って、さらに思いを固くしたばかりだ。
僕が眉間にシワを寄せる。高月先輩はまたまた一瞬だけ僕を横目で見て、窓におでこを軽くつけた。先輩の髪がさらさらと肩から落ちる。すると僕もいい香りが漂った。
「君が美国先輩にそっくりだという事実と、私は美国先輩が好きだった事実があるの」
それって……僕は思わず生唾を飲んだ。さらに両手を固く握り、自然に歯を食いしばった。高月先輩はおでこを窓につけたまま、僕へと顔を向ける。表情は苦笑いをしていた。
「でも、それは君が好きってことにはならないよね」
やっぱり。分かってたとはいえ、僕はお腹にずっしりと何かが落ちる感覚がした。美国の想いを語られても、いい気持はしない。いちいち、そんなこと言わなくても良いじゃないですか、と喉まで出かかって止める。代わりに別の言葉が出てきた。
「大丈夫ですよ、そんなの承知ですから」
先輩は僕の顔を見つめたまま、瞳を丸くしている。
「どうしたんですか?」
「ううん、一年前の私と同じ答えしてるって思ってね」
先輩に「お前のことが好きじゃない」と言われて、しっかり抗議をできるような後輩がいたら教えて欲しいですよ。僕は一瞬下を向いたけど、すぐに顔を上げた。重要な事実に気づいたからだ。
高月先輩も美国進に同じようなことを言われたってことじゃないか。
「じゃあ、高月先輩は美国先輩と……」
すると高月先輩は首を振った。
「みんな片思いだったんだよね……永遠に」
永遠って。大袈裟な。
だけど、考えてみると不思議だ。御堂真理を美国進が追い、美国進を高月先輩が追い、高月先輩を僕が追う。本当に永遠に距離の縮まらない追いかけっこのようだ。
高月先輩は窓からおでこを離すと、僕と向かい合った。
「やっぱり同じじゃないね。あの時の私はもう全てを知ってたから」
「先輩?」
「ちゃんと話すよ。日記のこと。これから私に起こるかもしれないこと」
僕は急な展開に、口を開けたまま立っている。重要な秘密が明かされるというのに何かフワフワして落ち着かない。
「付いてきて」
高月先輩は自室へ歩き始めた。付いていっていいのだろうか。僕は少しだけ躊躇したけど、慌ててついていった。
更新は1~2時間後。