10/15 21:13 コトダマ執筆編⑬
今回のコメント
中日負けた! 明日は勝って!
そしてお話も終盤!
12000文字超え!
よ、予想通り……だぜ?
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その後、真人は事実を忘れるように淡々と仕事をこなした。『紙の料理』も番組内で九週勝ち抜けを達成した。後一周勝ち抜けで優勝だった。そうすれば番組内での関わりはなくなる。
中毒性がある事実は考えないことにした。考えてみればどんなものでも摂りすぎれば、体に不調はおきるものだ。常に節度をもった使用を心がければいいのだ。問題は商品ではない。使う人なのだという結論に達した。
今日も仕事を淡々とこなすと病室に向った。無論、『紙の料理』を持っていくためである。病院側も既に転移が進み末期がんであるさなえに『紙の料理』を断つようにとは指示できなかった。それどころか、今月中に退院して欲しいと真人へ伝えていた。
病室のドアを少しだけ開ける。さなえはまだ真人に気づいていなかった。ただ正面だけを見つめ、薄ら笑いを浮かべている。時折涎が垂れるが、気にしていない。真人はゆっくりとドアを閉めた。看護師に『紙の料理』を手渡すと、足早に病院を後にした。
真人は歩きながら、思う。
自分は何のために働いているのだろうと。
カメラマン時代は自分の信じる『本物』を追い求めていた。
いや、それは今でも変わらない。
自分にとっての『本物』が変わって言っただけなのだ。
昔はファインダー越しの被写体に。少し前は五感を満足させてくれる料理に。
最近は妻の笑顔が彼にとっての『本物』だった。
カメラも料理の前に捨ててしまい、料理も妻のために捨ててしまい、その笑顔も今では虚空になってしまった。
なにが残ったのだろう。
空っぽの自分だけではないのか。
疲労感だけが真人を覆っていた。
毎週のようにテレビ局の楽屋にいる真人。室内には満男も居座り、当然のようにテレビ局が出してくれた弁当を食べていた。満男と言うとことは最初から『紙の料理』を食べ続けると中毒になると知っていてたからなのか、決して自分では『紙の料理』を食べようとしなかった。
しかし、『紙の料理』の人気があがり、いい金づるが見つかったとして、大量生産する工場も建設中だった。
さらに食糧難を救いたいと言っていたのだが、調べてみると、発展途上国に輸出した実績はなく、嗜好品として先進国へ輸出しているだけだった。
「先生、今日も頼みますよ。一千万なんて、もうはした金ですが、番組唯一の十週勝ち抜けの名誉は欲しいですからね」
真人は返事もしなかった。どうせ他の審査員に金を渡しているんだから、真人が決定しなくても結果は見えているからである。買収の事実が分かってから真人は番組への情熱を失い、台本もろくに読まなくなっていた。今日、十週勝ちぬけが決まったら、番組を降板しようと考えていた。
スタッフに呼ばれ、いつものようにスタジオに向う。対戦相手の料理人が真人に駆け寄り挨拶をする。いつもの風景だったが、今回は事情が違った。挨拶した顔に見覚えがあったからである。
それは結婚記念日に必ず予約していたレストランのコックだった。
ぐぬぬぬぬぬぬう……更新は1~2時間後