10/15 20:20 コトダマ執筆編⑫
今回のコメント
あぁ、なぜ一日早く始めなかったのだろうか。
と、夏休みの学生におくれること一ヵ月半、後悔の淵にたたされいる大人がいる!
でも、わりとこの緊張感がすき!(開き直り)
もう少しだ……と思う。
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楽屋に帰ると、満男が高級料理店のお土産をもりもり食べていた。
「先生、駄目ですよ。アナタ引き分けにしようとしたでしょ。俺が買収しておかなければ大変なことになりましたよ」
醜悪な笑みを浮かべる満男に真人は吐き気がした。口元を押さえ、楽屋を出るとタイミングよく携帯電話が鳴る。電話に出ると病院からであった。
急いで真人は病院に駆けつけた。病室を開けると看護師数人がさなえを押さえつけていた。しかし、それを振りほどこうと、手足をばたつかせている。やせ細った妻のどこにそんな力が……真人は訳が分からないまま近づく。
「さなえさん、旦那さんが来ましたよ!」
さなえは動きを止め、ゆっくりと看護師越しに真人を覗き込む。目の周りは窪んでいるが、眼球は血走って充血していた。口からは暴れていたせいか涎が零れていたが、本人は気にしていない。唇は乾燥しているのに動いたために切れて血が滲んでいた。真人はさなえの姿に声がでず、言葉に詰まった。すると先にさなえから真人に言葉をかけた。
「持ってきた?」
意味が分からないので答えられないでいると、さなえは血走った目を飛び出さんばかりにひん剥かせて、叫んだ。
「なんで今日は持ってこないだよ! あああっ、頭がおかしくなりそうだ!」
ようやく『紙の料理』のことだと気づく。ポケットを探ったが、残念ながら見当たらなかった。真人が紙を持っていないことに気づくと、再び暴れだした。
看護師達が懸命に抑える中、鎮静剤が打たれ、次第に落ち着いていった。
疲れた体を引きずり、真人は満男に電話をかけ、妻の様子を伝えた。満男は黙って聞いていたが、話が終わると、鼻で笑うような音が聞こえた。
「ただの紙の料理だと物珍しさで飽きるだろうと、思ったから中毒性を持ってもらえるようなインクを混ぜておいたんだよ」
大したことではない、折込済みだ、と言わんばかりの言い方だった。真人はあらんばかりの声をあげて、満男を非難した。しかし、満男には何も届いていなかった。
「今、本島先生がこの秘密をバラしてもらっても一向に構いませんよ。だけど、奥さんはどうなるんですか? 先生の地位も転落して、収入ゼロになって。それが先生の望むことなんですか?」
真人は言い返すことができなかった。しばらく黙っていると電話は一方的に切られてしまった。
ぐぬぬぬぬぬう……更新は1~2時間後