10/15 19：09 コトダマ執筆編⑪
今回のコメント
【速報】10000文字超えた！
そして中日が負けてる！（これは割りとどうでもいい）
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そして料理番組収録当日。テーマは魚料理だった。
さすが反『紙の料理』派が用意した料理人だった。料理の内容は申し分なかった。焼き魚は皮がパリパリとした音をたてて少しだけ歯ごたえのある食感。白身はホクホクとして柔らかい。口の中入れても生臭さはなく、程よい塩味に鼻から抜ける香りは潮の雰囲気を呼び起こす表現力だった。当然のごとく食器類も気を配ってあり、審査も忘れて五感を全て使い堪能した。審査員は各々に料理を絶賛した。真人も褒めたいところだったが、何とか堪えた。
次に『紙の料理』の登場。確かに一流料亭の魚料理をコピーしただけあって、香りもそれなりで、口に含むと焼き魚の味はした。だが、それだけだった。すぐに紙が溶けて食感も無い。しかも後味はやや薬品のような味がした。健康そのものな真人には正直苦痛だった。
今回は判定前に簡単な討論が行なわれた。反『紙の料理』派の主張から始まった。
「五感で感じられない料理に何の意味があるんですか？ 私達は感覚を通じて食と向かい合うのではありませんか？ 自分の感覚だけが唯一のリアルとして」
彼らの主張は真人が写真を撮っていた時から信じている『本物』だった。その通りだと思いながらも何も答えられない。すると別の審査員が反論した。
「『自分の感覚だけが信じられるですか』。小さい。ホントに世界が小さいですね」
反論したのはいつも一緒に仕事している審査員だった。彼は真人をちらりと見ると、一瞬口を歪ませた。きっと笑いかけたつもりだろう。
「『紙の料理』はね、既存料理に対するアンチテーゼという存在なんですよ。触感も温感もないですが、それが逆に余計な感覚を抜きにして味覚だけで勝負しろというメッセージを感じます！ ムキになるあなた方より、高みでから感覚だ、感覚だというアナタ方を見下しているんですよ。逆にすごいじゃないですか！」
話しながら、何度も真人の機嫌を伺う。真人は何も言わずに、タイミングを合わせて頷いた。すると褒められた犬のごとく、大喜びで声を張り上げた。
「それにアナタの料理は食糧難を救えますか？ 豪勢で希少な材料をただいたずらに消費し、美味しいものをただ調理して美味しいと言っているだけじゃないですか。消費だけに特化した浪費料理と一緒にして欲しくないなぁ」
鼻息荒く言い切ると、審査員の一人は席についた。反『紙の料理』派は黙ってしまい答えれらなかった。反論の方法はいくらでもあるだろう。だが、食糧難、浪費するだけの無駄遣いの料理を開き直って肯定するほどの勇気はなかった。
「あの、ちょっといいですか？」
調理を担当した料理人が手を挙げた。
「浪費するだけの料理は存在してはいけないのでしょうか？ 元々料理は消費するためにあるのです。いかに消費するかが、その人の生き方に反映するんじゃないですか？ 私が『紙の料理』に反対するのは、安易に味や栄養をとればいいと考えて、どんどん簡素化する態度が気に入らないだけなのです。私達が苦労して手にした料理は簡素化なんてすぐにはできないですよ。やれるものならやってみろ！」
真人には痛いほどわかった。カメラにしても自分でピントや光量を調整した写真と、オートフォーカス写真を一緒にして欲しくはない。だが世間の目は違いが分からない。だからせめて自分が信じる『本物』を撮り続けたいと思い、少しずつ理解者を増やしていったのだ。
わずかに真人は「引き分け」にしたほうがいいのではないかという気持になった。息を吸い込み、そのことを伝えようと席から立ち上がろうとしたとき、先ほどの審査員がすぐに立ち上がり、怒鳴り声を上げた。
「時代は変わってるんです！ 『紙の料理』は未来志向の料理なんですよ！ アナログな料理だけがはびこる時代は終わったんですよ。選択肢を広げましょうよ。これも逆に『本物』なんですよ」
真人は話を挟むタイミングを見失った。そのまま判定に持ち込まれた。きっと反対賛成が同数の審査員なので、自分に判断が任せられるだろうと思っていた。
しかし、結果は『紙の料理』が勝利した。反対していた審査員が、評決の場面で『紙の料理』派に寝返ったのだ。
『紙の料理』側の勝利が決まった瞬間、観客からは拍手が起きて、天井からは紙ふぶきが舞い降りた。真人は回りに促されて立ち上がる。隣にいた審査員は真人の腕をとり高々と上に上げて、彼に代わり宣言をした。
「本物とは常に正義であり、絶対的価値観である！」
この瞬間、真人の手から『紙の料理』は離れて行った。
楽屋に帰ると、満男が高級料理店のお土産をもりもり食べていた。
「先生、駄目ですよ。アナタ引き分けにしようとしたでしょ。俺が買収しておかなければ大変なことになりましたよ」
ぐぬぬぬぬう……更新は１～２時間後
