10/15 16:03 コトダマ執筆編⑧
今回のコメント
・さて、再開したわけだけど。
確実に削る作業が待っている気がする。
そうすると書いている間も「これって無駄になそうだから」書かないほうがいいか。
と思っちゃう場合がある。
それだけは避けようと思う。
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真人はすぐに料理番組のスタッフに連絡をして、『紙の料理』の再挑戦を頼んだ。スタッフは不思議がったが、満男が言う世界の食糧難を救うための有効手段を宣伝したいと説明することでなんとか、約束を取り付けた。
「本島さんがこんな頼みごとをするのって初めてですよね。だからきっと素晴らしい『本物』が紙の料理にはあるんだろうな」
番組スタッフの言葉に本島は笑うしかない。番組は本島の頼みに全面協力してくれた。
『紙の料理』は番組の猛プッシュを受けて再登場し、有名料理人を打ち破った。中でも真人が「本物」と認めたことで、放送後、問い合わせや抗議の電話が殺到した。
別の仕事中だった真人は番組スタッフからの反響の大きさに驚く電話を聞く。電話中終始興奮気味だったスタッフと相反して真人は冷めて気持ちで聞いていた、連絡後、急いで病院に向かった。今日が結婚記念日だったのだ。
病室を開けると、さなえが痩せた笑顔を向けてくれた。真人が花束をもって近づくと笑顔から少しずつ申し訳なさそうな表情に変わっていった。
「結婚記念日になっちゃった……ごめんね」
すると真人は黙って病人用の机をベッドに備え付ける。鞄から刺しゅうのついた白いテーブルクロスを被せた。状況が飲み込めず、何度も机と真人を交互に見つめるさなえ。最後に数枚の紙を机の上に並べる。紙にはあのレストランンのハンバーグとミックスフライの写真が印刷されていた。
料理番組を見ていたさなえはすぐに察し、真人は黙って頷いた。
さなえは震える手を机に伸ばした。ハンバーグの紙をつまむと、ゆっくり口の中に含む。病気のせいで一度に食べられないのか、味わっているのか、直人には分からなかった。しばらくさなえは口を動かして、懸命に咀嚼する。紙はきっとすぐに溶けてしまうので、咀嚼する動きはきっと想像なのだろう。やがて口の動きを止め、さなえは俯いた。わずかに見える唇が震えている。
初め震えをこらえていたさなえは、やがて耐え切れなくなったのか、両手で顔を覆った。小さく華奢になった肩も震わせて、搾り出すような声を出す。
「ありがとう……」
顔を上げたさなえは無理に笑おうとするが、涙が溢れて上手くいかない。何も言わずに真人はハンカチを差し出した。涙を拭いながら、さなえは途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「美味しいよ……今までのどの料理よりも」
さなえの姿を見て真人は間違っていなかったと確信した。
ぐぬう……更新は1~2時間後