10/15 5:29 コトダマ執筆編⑥
今回のコメント
・このシーンを書くために、病気で食事を取れなくなった人のことをネットで色々調べました。
・食事ってやっぱり大切だなとしみじみ思いましたね。
いつもネタとして夕飯を書いてますが、ちゃんと食事は取ろう。
あと、健康って大切。
体調崩してから後悔しても遅い。
それが自分じゃなくて、大切な人だったら、やるせない気持になる。
自分の事だったらまだ開き直れる余地があるのに。
いかん。湿っぽくなってしまった。
ちなみにこの回から承に入ってます。
そして今回で合計約5000字です……
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満男に金で買収できるような「偽者」に自分が映ったことに真人は腹が立った。同時にあまりにもひどい番組構成も手伝ってスタッフを怒鳴り散らした。
真人はその後の仕事をキャンセルして、タクシーで家に帰ることにした。久しぶりに妻の顔でも見て、心を静めようと思ったからである。
タクシーを降りて自宅の玄関のドアを開けると、廊下で倒れているさなえを目撃した。妻は小刻みに震え、下腹部を押さえていた。初めて見たさなえの姿に動揺しながらも、救急車を呼び、病院へ搬送された。
検査の結果、癌である事が判明。すぐに手術することになり、十二指腸と胃の殆どを摘出することになった。
手術後、真人はベッドで眠るさなえを見て、安堵すると同時に、もしいなくなったらと考えると、胸騒ぎがして涙が零れた。
なんとしてもさなえを守りたい。かけがえのないものを守りたい。そのためならどんな方法でも厭わないと誓った。
手術後のさなえは内臓摘出と抗がん剤の副作用でまったく食事が取れない状態が続いた。見舞いに来るごとに痩せていく妻を真人は見ているのも辛い。頬骨が目立ち始め、愛らしかった瞳も窪んでいく。綺麗だった指や手の甲も筋がハッキリと確認できた。腕にいたっては細い枝のように簡単に折れそうになっていた。二の腕を気にして恥ずかしそうにしていた妻を思い出して真人はもう戻ってこない過去に、先細りの未来に絶望した。
入院費や手術代を稼ぐために真人はがむしゃらに働いた。同時に働いている間は妻のことを忘れられる気がした。さらに毒舌に磨きがかかり、人気がどんどん上がっていた。少しずつ、病院に行く回数が減っていくのを感じた。
数ヶ月が経過。さなえの入院が長引き、いつのまにか結婚記念日が近づいていた。たまに病室へ行くと、さなえは乾ききった唇で笑みを浮かべ喜んだ。
「もうすぐ結婚記念日だね」
カレンダーを見つめるさなえの横顔は、首が極端に細くて、頭が大きく見えた。真人はすっかり変わった妻を見続けることができない。そんな真人の態度を察してか、さなえも彼と反対方向を向いた。
「はぁ……今年はレストラン無理だね」
今年どころではない。来年、結婚記念日を迎えられるかどうかわからなかった。先日、癌が転移したことを告げられたばかりだった。真人が答えられずにいると、さなえが彼へと振り向き、涙声で言った。
「最後にわがまま言わせてください……貴方とハンバーグを食べたいよ」
さなえは病気になってから、弱音を吐くことなく闘病生活を送っていた。病気後、初めて見せる涙だった。若い頃、彼女の泣き顔を沢山見た。本当は泣き虫だったのに、我慢してたのか。それとも自分には見せずに泣いていたのか。最近は殆ど病室に来ることがなかった真人には分からなかった。
だが、ハッキリした事があった。それはさなえの願いを叶えてあげたい。初めて病院に運ばれた時に誓った気持を思い出した。
ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……1~2時間後更新