10/15 4:14 コトダマ執筆編⑤
今回のコメント
・紙の料理は実在します。(どこかで書いた気がするけど)
実際は本当の料理を瞬間冷凍させ、粉末状にして、インクと混ぜるらしいので、食糧難は解消されません。
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料理の美味しさだけではなく、さなえの喜ぶ姿も楽しみの一つだったと改めて確認した。幸せな感覚が前進に駆け巡り、真人は自然に微笑んでいた。
料理の審査員をしているものの、この庶民的な洋食屋が好きだ。人に厳しい目は向けるものの、妻に対しては笑顔でいたい。真人は記念日に気持を新たにした。
笑顔の真人に対して、さなえは心配げな表情を浮かべて、上目遣いで問いかける。
「ねえ、もう写真は撮らないの?」
真人は言葉に詰まってしまった。実際、他の仕事のせいで、写真の仕事は控えている。さなえは、しばらくこちらの顔を見つめていた。なんとなく責められているような気がした。だが、真人は今の生活に満足しており、写真はまた時間が出来たらすればいいと思っていた。結局その場は、さなえが話題を変えた事で、事なきを得た。
再び日常にもどると、真人は多忙な日々を送った。家にも一週間にニ、三度帰ることができるかどうかという、スケジュールで動いていた。ますます彼の認知度、人気も上昇し、時代の寵児となるかの勢いだった。
ある日、いつものように真人は料理番組の審査員をするために、テレビ局の楽屋で待機していた。ドアがノックする音が聞こえたので、返事をして招きいれた。ドアが開くとお辞儀をしたまま背広姿の男が入室してきた。男はオールバックの髪に細い目に薄笑いを浮かべながら顔を上げる。
「失礼いたします。本島真人様ですね。私、こういうものでございます」
男は名刺を取り出し、真人に差し出した。名刺には『食料研究家 小翼 満男』と書かれてあった。食料研究家。なんとも怪しい名前だと真人は警戒した。
「今日はですね。本島様にお願いがあってきました。申し訳ないです」
すると、満男は持ってきていた鞄から、数枚の紙片をとりだした。三センチ四方のの紙にはピザの写真が印刷されている。満男は一枚を真人に手渡した。
「ただの紙ではございません。なんと食べられるのです!」
満男は口を歪ませてニヤリとする。ハッキリと真人は嫌悪感を覚えた。と同時に番組台本を確認する。すると今回の対決は変り種料理対決として「紙 VS 秘境の料理人」と記載されていた。真人が台本から視線を満男に移すと、彼は揉み手をしながら話し始めた。
「食料の未来を考えるのであれば、申し訳ございませんが、是非、私どもの紙の料理に一票をいただきたいと。これが普及すれば、食糧難が解消されるんです! 世界平和のためにも!」
満男の話によれば、紙自体は食べられる素材で出来ていて、さらに野菜や肉から作った企業秘密のインクと混ぜ、紙に印刷したものらしい。確かに香りや味は写真にあるピザと同じだった。栄養についても問題ないということだった。
確かに商品としては魅力的だった。これが普及すれば食料難が解消されるかもしれない。だが、料理としては明らかに「偽者」だった。真人の表情は曇った。
極めつけに真人の機嫌を損ねたのは満男とった行動だった。腰をやや曲げたまま、満男は近づき、耳元で囁いた。
「ご協力いただいた際には賞金の数パーセントを本島様へと考えております」
番組で対決を行い十週勝ち抜くと賞金一千万円が手に入るのだった。食糧難解消などと偉そうなことを言っているが、満男の本性を見た気がした。
次の瞬間、真人は大声で怒鳴り、満男を楽屋から追い出していた。番組収録も紙の料理とゲテモノ料理の対決で、どちらもひどいかったので、両者引き分けになった。
ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……1~2時間後更