10/15 2:57 コトダマ執筆編④
今回のコメント
・モデルになったレストランでハンバーグステーキセットは食べたことがあります。
上司に連れ行って貰って美味しかったなぁ。
なんか、そのレストランの思い出って、仕事と直結してる。
そいういえばプライベートで言ったことないや。
出前のハンバーグ弁当も弁当の域を超えた量だった記憶もあります。
後、ヒレカツサンドのヒレがちゃんとしヒレ肉で……(思い出に浸っています)
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「お疲れ様。忙しい中、覚えていてくれて嬉しい」
真人はさなえの言葉を聞いて、胸の中がじんわりと暖かくなるような感覚を覚えた。
今日は十八回目の結婚記念日だった。
「今年は忙しいから忘れられたかと思ったけどね。でも、駆け出しのカメラマンだったアナタが、いまや料理のコメンテーターって変なの」
毎年結婚記念日には、このレストランで結婚当初と同じメニューを食べて祝うのが、二人の決まりごとだった。結婚当初、貧しかった真人にはお金を気にしながら気合を入れて入店していた。しかし、今は愛する妻を目の前にして何も気にすることなく入店している。
結婚記念日の食事は、妻と過ごす意味もあるが、自分の成長を確認する意味でも重要な行事となっていた。
色々と過去を振り返っていると料理が運ばれてきた。真人の前に運ばれてきたのは、ゆらゆらと湯気を放つ皿に乗ったハンバーグだった。やや黒いデミグラスソースがかかって、上には目玉焼きが乗っている。ナイフとフォークはなく、箸が置かれていた。これは真人が毎年頼んでいることだった。さらにライスとコーンスープが置かれる。
さなえは真人に手を差し出し、「お先にどうぞ」と進める。本当ならば、お互いが注文した料理を待って乾杯といったところだ。しかし、若い頃の真人は待つことができず、よく先に食べてしまったものだ。その度にさなえと喧嘩した。だが、今はさなえが折れて、先に進めるほどになっていた。さすがにこの歳になって、勧められると照れ笑いしかできない。
二人の料理が揃うと、頼んだワインを片手に乾杯をした。
「今年一年ありがとう。また来年もお願いね」
少しだけ首を傾けて、ややはにかみながら、さなえはワインに口をつける。昔からの照れた時の姿。確かに若い頃と外見は変わったが、仕草の愛おしさにはなんの変化もなかった。
ワインを置くと、真人はハンバーグに手をつけた。ハンバーグに箸を付け切り分ける。ほとんど力を入れることなく、切り分かれていく。真人は粗引きのハンバーグにはない繊細さが好きだった。
さらに口に入れると濃厚なデミグラスソースに加えて、コショウが利いている肉が食欲を高めた。とても濃い味で自分が若ければ、いくらでも食べられただろう。若い頃の真人とさなえが好んでいた味だった。
半分ほど食べて目玉焼きと食べれば、まろやかさが増し、さらに食がすすむ二段構えだった。
ハンバーグに夢中になっていた真人がふと前を見ると、じっと自分を見つめているさなえの姿があった。夢中になりすぎたせいで、毎年行なうおかず交換を忘れていたことに気づいた。慌ててハンバーグの一片をさなえへ渡すと「えへへ、おたがいい歳なのにね」と言って嬉しそうにハンバーグを食べていた。
料理の美味しさだけではなく、さなえの喜ぶ姿も楽しみの一つだったと改めて確認した。幸せな感覚が前進に駆け巡り、真人は自然に微笑んでいた。
ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……1~2時間後更新