10/14 7:48
今回のコメント
新規作成までしてたのに……
久しぶりに大口開けて椅子で寝てた!
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部室に篭っていたせいもあってか、購買ではすでにたくさんの人がごった返していた。少し前に直接体験しただけあって、閉塞感や蒸し暑さを思いだして身震いした。
「別にあの中に突っ込むわけじゃないんだから気にするなよ」
「滝川先輩は楽したから分からないでしょうが、大変なんですよ」
要領の良い先輩には不器用な人間の気持ちなんてわからないんだ……と僻んでいてもしかたがない。今は選挙活動中なのだ。僕達は購買部の人だかりから少し離れた場所へ移動する。
さすがに、購買部の目の前では、殺気立った人しかいない。買い物を終えてリラックスした人達に向けて自分の名前を宣伝するんだ。よ、よし。やるぞ。
「……本当にするんですよね」
「なに言ってんだ。さっさと始めろよ」
いつの間にか高月・滝川両先輩は僕の後ろに立っている。滝川先輩は僕の背中をやたらつつく。催促されているのは分かるけど……こころの準備が。
「どうした、早くしろ」
こ、ここまで通行する人へ声をかけるのに勇気が必要か知らなかった。口の中がカラカラで何度も唇を拭う。声を出そうと力を入れるけど、かすれた音しか出ない。
「しっかりしろ!」
滝川先輩が背中を叩く。僕は前に倒れそうになって、つんのめる。先輩の大声と僕のよろめきに通行している生徒の注目が集まった。僕は廊下の真ん中辺りで立ち尽くした。
なにか言わなきゃ、なにか……僕は喉に渾身の力を込めて言葉にした。小さいがハッキリした言葉が口から漏れる。
「ま、毎度お騒がせしております……」
「ちり紙交換か、お前は!」
間違ったっ! 初めてなのに毎度ってお騒がせしますって! 滝川先輩のツッコミが入ると、周りの生徒から苦笑が漏れた。
そして僕は完全に舞い上がってしまい、顔が熱くなった。絶対これ顔真っ赤だよ。耳たぶ辺りがジンジンするよ。これは朝の二の舞じゃないか。やっぱり凡人の僕じゃあ、駄目なんだ!
逃げたいという一心が僕の意識を支配し、ふらふらと後退しそうになった時、そっと背中に触れる手があった。
「焦らないで。最初は誰だってそうよ」
じんわりと背中に温かい感触を感じる。僕の肩越しに高月先輩が寄り添っていてくれた。耳に少しだけ先輩の髪が触れた。
高月先輩は僕の両肩をぽんと叩くと、廊下にいる通行人に声をかけた。
「この子の掴み、どうだった? ちょっとスベっちゃったね」
よく通る声が、廊下に響く。さらに高月先輩の美貌のせいか、皆が一瞬立ち止まる。
「私たちこの学校に来てから間がないので勘弁してね。今日は生徒会長選挙に立候補するこの、草弥甲斐斗君のご挨拶周りにやってきました」
肩を掴む手に力が入る。するとどうだろう、どんどん勇気が沸いてきた。全身に力がみなぎるのを感じる。「頑張って」先輩が小さく僕へ声をかける。僕は一歩前に出た。
憑き物が落ちたかのように僕は自己紹介を始めていた。自分の名前、クラス、転校して間もないこと、だけどこの学校を変えたくて立候補したなんて言葉も出てきた。高月先輩は僕が話している間、黙って後ろで立ってくれていた。でも、それだけで心強かった。
人数は少ないものの、最後まで立ち止まってくれる人がいた。きっと高月先輩がいてくれたお陰だろうけどね。
最後の会釈をして僕の挨拶は終わった。とはいえ、選挙活動なので、数をこなさなきゃいけないんだろうけど。
こうして昼休みは終わった。
また夜に。